2010年10月31日日曜日

10年目の危機? bare metal stentもfractureに気をつけないといけません

Coronary CT on 4th, OCT. 2010
 月末、月初めはレセプトのために症状詳記を書かなければなりません。本日は日曜日ですが詳記を書いています。この方は2010年10月7日の当ブログ「嫁を褒める亭主、子供をけなす親」で載せたケースです。この方の症状詳記を書いていて、この方も古いbare metal stentの再狭窄だったと思いながらCTをもう一度見てみました。やはり10/28の当ブログ「64列MDCTでfractureが確認できたbare metal stent植込み後10年目の再狭窄のケース 」のケースと同じようにCTで見るとステントに段差が見えます。このようなstentの段差を見ても16列で検査していた頃は本当にfractureなのかmotion artifactなのか自信が持てませんでした。しかし64列になって自信を持ってfractureと判断できます。この方も2000年のbare metal stent植込みです。10年の耐久性で作られているステントのfractureによる再狭窄はことのほか多いのかもしれません。10年目の危機かもしれません。薬剤溶出性ステントのfractureやlate catch-upに気をつけるだけではなく古いbare metal stent植込み患者にも気をつけなくてはなりません。

2010年10月28日木曜日

64列MDCTでfractureが確認できたbare metal stent植込み後10年目の再狭窄のケース

06, OCT. 2006

28, OCT. 2010

14, OCT, 2010
  2006年10月2日よりオープンした鹿屋ハートセンターの3例目の冠動脈造影の方です。2001年に前の勤務先でbare metal stentの植込みを私がしました。灌流域の狭い小さな#4PDの狭窄ですから当初はPCIは不要ではないかと紹介医にお話していましたが、PCIもされる紹介医より症状がとれないので是非にと頼まれてPCIをした方です。以後、症状なく落ち着いていました。2006年10月6日の造影でも再狭窄を認めません。
 ところが今年10月に入ってニトログリセリンの舌下が有効な胸痛の再発です。最下段のCTで見てみると、ステントは中央で段差ができ、ステント内も再狭窄のようにlow densityです。植込み後5年の時点で再狭窄がなかったbare metal stentがfractureし植込み後9年で再狭窄です。
 やはり小さな血管ですから生命予後には影響しません。症状がコントロールできるのであればPCIはしない方が賢明と考え、CTで再狭窄の診断後も内服のみで見ていました。しかし、症状が取れないのです。そこで本日、PCIを行いました。造影ではstent fractureは読み取れません。PCI中はST上昇もあり胸痛も結構、強いものがありました。
 薬剤溶出性ステントのfractureやlate catch-upが問題になっていますがbare metal stentにも起こる問題です。たしか、ステントは10年間の振動でも金属疲労で折れないように耐久性試験をしてから認可されるのだとbare metal stentが出始めた頃に聞きました。1日10万回の鼓動 x 365日 x 10年の振動、3億6500万回の振動でも折れない耐久性を試験して認可を受けるのです。今回の方は、確かに植込み後ほぼ10年です。しかし、最近の薬剤溶出性ステントのfractureはもっと早い時期に発生しています。最近は振動を与えての金属疲労の耐久性試験はなされていないのでしょうか?

2010年10月27日水曜日

64列MDCTは高齢者にやさしい

16 row MDCT

64 row MDCT

2.5mm Cypher
 2009年5月にhigh lateral branchにCypher植込みを行った88歳の女性です。労作性の胸痛がありPCIを行いました。このような小さな血管ですから、詰まったからといって生命の危機は起きません。生活の質が改善することが治療の目的です。ですからステント植込み後の評価にしばられて何度もカテーテルをされるようであればPCIをやった価値がありません。余程のことがない限りこの方にはカテーテルはしないつもりです。
 最上段はPCI前に16列MDCTで撮影したもの、中段は本日64列MDCTで撮影したものです。画質の次元が異なります。Helicalに撮影した16列とsnapshot pulseで撮影した64列の違いでしょうか。また、高齢者の場合、16列の長い息止めは難しく、上段のような絵になりがちです。64列は高齢者にも優しいのです。使用した造影剤は47mlでした。
 下段はステント内の評価ですが、アーチファクトはあるものの再狭窄ではなさそうです。2.5mmのステントの評価は3mm以上のものと比べて困難ですが、他の薬剤溶出性ステントと比べて第一世代のCypherの2.5mmは評価が難しい印象です。岐阜ハートセンターではステント毎に解析方法を変えているそうです。教えを請わなければなりません。

2010年10月26日火曜日

冠動脈肺動脈瘻

 冠動脈石灰化を伴う狭窄の評価は、本日はお休みです。
60歳代の女性です。労作性の胸痛を主訴に昨日受診された方の冠動脈CTです。右冠動脈円錐枝や左冠動脈の複数の枝から灌流される巨大冠動脈肺動脈瘻です。合流部に瘤のように見える部分があります。
 成人女性によく見られるこのような冠動脈肺動脈瘻では盗血により虚血を起こして狭心症様の症状を呈したり、時に心不全を起こすといわれています。私自身、過去に冠動脈造影で何例も見てきましたが、虚血を起こしたり心不全を起こす方はまずいません。予後の良い異常です。しかし、時に動脈瘤を形成し破裂、心タンポナーデから突然死を起こすこともあると言われています。30mmを超えると危ないと言われています。肺動脈起始部前面の瘤は長径で14mmほどです。まだ大丈夫そうです。
 治療が必要になった時の方法は、手術で栄養血管を結紮するか、コイルによる塞栓術ですが、どちらも栄養血管の全てを閉じることができず再発が多いとも聞きます。私自身がかつて塞栓術を行った方も完全に血流は止まりませんでした。高圧系から低圧系へのシャントであり、複数の栄養血管があるからです。注意深く経過を見て行きたいと思います。
 本日のCTは冠動脈の評価が8件でしたが、13時半には説明終了です。皆さんがきれいな画像できちんと評価ができたことを喜んでくださいました。

2010年10月25日月曜日

石灰化病変の評価が次の課題です

LAD calcification take 1
  本日のCTのケースです。労作時の呼吸苦があり2年前に冠動脈造影を行い、50%狭窄と評価していた患者です。肺切後で常に呼吸困難はありますから呼吸困難の程度で狭心症の悪化という判断ができません。しかし、何回も冠動脈造影をするわけにもいきません。
 そこで2年ぶりにCTで冠動脈の評価を行いました。慢性の肺疾患のある方の多くに強い冠動脈石灰化を認めます。この方もそうです。前下行枝に強い石灰化があり狭窄の程度の把握は困難です。Optima CT 660pro導入後ステント内の評価が課題だと言い続けてきましたが同じように画像を処理し得た像が下段です。上段と比べてやや見やすくなっています。石灰化の直前のlowの部分は新たな狭窄でしょうか。石灰化病変の評価を課題にいつも努力していけばこの問題も必ず解決できると信じています。諦めずによりよい評価のために努力したいと思います。
 本日はPCI2件、DDD植込み1件、診断カテ1件でした。
LAD calc take 2

2010年10月24日日曜日

鹿児島インターベンションカンファレンス

  10/23 鹿児島インターベンションカンファレンスという研究会に参加してきました。鹿屋から2つの症例報告、鹿児島市内の病院から1つの症例報告でした。また、東海大学の心臓病理の先生と和歌山医大の循環器の教授の講演です。
 鹿屋からの発表の1つは私の報告です。antegreadeとretprogradeで再開通に成功した前下行枝完全閉塞の2人を報告しました。もう1例の鹿屋からの報告は他院の報告ですが、心室細動下にPCPSを回して救命できた例の報告です。10年前までPCIができなかった鹿屋では決して助からなかったケースです。時代は変わりました。鹿屋に住んでいて安心です。
 鹿児島市内の病院からの報告では、その患者に起きていること、どう対処すべきかを東海大学の先生、和歌山医大の先生を交えてIVUSやOCTの画像を見ながら、その方の役に立つディスカッションができました。過去の話を蒸し返したり自慢したりではなく、今困っている方の治療を知恵を集めて考えることができました。素晴らしいです。

2010年10月22日金曜日

64列MDCTで迅速な診断、治療が可能に!

CT on 20, OCT. 2010

 本日のケースです。一昨日の10/20に初診の方です。4-5日前に10分程の安静時胸痛、10/20に30分位の朝方の安静時胸痛があったとのことで午前10時23分の受付です。胸痛が狭心症であれば不安定狭心症です。もちろん逆流性食道炎かもしれません。不安定狭心症であれば運動負荷心電図は危険ですから、症状のみで入院を決めなくてはいけません。しかし仕事が忙しく理由もなく入院はできないとのこと。
 午前11時前から緊急に冠動脈CTを申し込みました。12時半にできあがってきたCTが上段です。拡張した前下行枝に狭窄が見えます。この写真をお見せして入院していただきました。抗血小板剤の内服やヘパリン化をしないですぐにカテーテルをしたり、すぐにステント植込みをすることに私は反対の立場です。少しだけ入院日数が増えてもより安全な治療をしたいからです。10/20から2剤の抗血小板剤、スタチンの内服とヘパリン化を開始し、本日カテーテルです。CT通りの前下行枝の病変に対してEndeavor stent植込みを行いました。
 かつては不安定狭心症かもしれないからと入院していただきましたが、もちろんその中には狭心症ではない方もいらっしゃいました。でもMDCTで不安定狭心症だからと分かって入院していただけます。それも受付からわずか2時間での意思決定です。このスタイルで無駄な入院は少なくできます。医療費も削減できます。
 本日はこの方を含めて2人のPCI、2人のペースメーカー植込み、1人の診断カテでした。
CAG beore PCI

CAG after stenting

2010年10月21日木曜日

画質の改善は、治療方針を左右する

Coronary CT on 15, Dec. 2006

 
Coronary CT on 21, Oct. 2010
 本日のCTのケースです。2004年に近医で冠攣縮性狭心症と診断され、以後、カルシウム拮抗剤を内服中です。内服下で症状はありません。当院の開院直後から当院に通院されています。
 上段は2006年に16列MDCTで撮像したCT像、下段は本日撮影したOptima CT 660proの画像です。明らかに下段の像のほうが高画質です。この違いは16と64の違いだけではないのです。上段の16列ではヘリカルに撮影していますが、下段の64列ではsnapshot pulseという方法でコンベンショナルに必要な心位相のみを撮影しています。この方法で画像の劣化無しに被ばく線量を低減できます。Optima CT 660proに更新してから、心拍が安定しているケースや、心機能の評価を必要としないケースではこの方法で撮影しています。本日施行した4例のCTのケースの全てでこの方法を用いて撮影しました。
 このケースでは冠動脈3枝にプラークを全く認めません。他医で診断された冠攣縮性狭心症の方のカルシウム拮抗剤を中止するのには少しばかりの勇気が必要です。小倉記念病院のデータではプラークを伴わない冠攣縮性狭心症の場合、カルシウム拮抗剤の処方無しでニトログリセリンの舌下のみで十分管理可能と発表されています。16列の評価ではプラークは存在しないとは自信を持って言えませんでしたが今は、その評価が可能です。今回の結果を受けて、内服の中止を検討してみます。
 冠動脈造影を下回る被ばく線量で内膜の情報も得られ、治療方針の決定にも寄与するのであれば冠動脈CTの価値は高まります。

2010年10月20日水曜日

Optima CT660proでステント内の評価は十分に可能という感触が確実になってきました

CAG pre stenting 2008

CT 20, Oct. 2010
 ほぼ1週間ぶりのブログ更新です。本日のケースです。2008年に#4PDの90%狭窄に2.75mmのTAXUSの植え込みを行っています。半年後の造影で再狭窄は認めませんでした。今回、2年ぶりの評価です。64列MDCTでステントはきれいに描出され再狭窄を認めません。この1週間に実施した約20例のステント植込み後の評価でステント内の評価で困った例はありませんでした。それは2.5mmのステントであってもそれ以上であってもです。2.5mmのステントの評価は難しいのかもと思っていましたが問題なさそうです。考えてみれば、すでに造影で知っている病変の評価です。また少なくとも内腔が2.5mm以上の血管の評価です。ステント内の評価はあまり難しいテーマではないのかもしれません。次の課題は石灰化病変です。技師とよく議論しながら克服してゆきたいと思います。

2010年10月14日木曜日

犯人捜しに行き詰まったら現場に帰れ

Aug. 2010

Oct. 2010 RCA post stenting
 本日のPCIのケースです。2010年8月にAd hocでLAD take-offにPROMUSを植え込んだ方です。先週、ニトログリセリン舌下が有効な胸痛がありました。ステント植込み後の血栓性閉塞は重篤でニトロをなめたくらいでは効果はありません。少なくない頻度で突然死を起こします。特にLAD近位部です。ニトロが有効な胸痛があった原因がわかりません。ステントが入っていない血管にスパスムが起きたのでしょうか?
 犯人が分からなければ現場に帰れです。外来診察室で8月の造影を見直しました。鹿屋ハートセンター開設以来4年間の全ての造影やCT、エコー画像が瞬時に呼び出されます。右冠動脈#2によく見ると1本のスリットが見えます。8月にもこの病変を気にかけ3方向で撮影し50%狭窄と所見には書いています。きっと犯人はこの病変に違いないと考え本日造影です。造影所見は8月と比べても大差はありません。IVUSでこの病変を観察するとIVUSカテがウェッジするほどの強い狭窄です。やはりPROMUSを植え込んで終了です。
 かつてフィルムで造影を管理していた時代、あるいはCDで管理していた時代、電子カルテと連動しない画像サーバーで管理していた時代には古い画像を見直すにはそれなりの手間をかける覚悟が必要でした。忙しい業務の中であとで見ようと思っている間に忘れてしまうこともあります。それが瞬時に患者さんと話しながら診察室で呼び出せると犯人を見つけるのは容易になり、判断ミスの可能性は低くなります。この造影をすぐに見ることができない環境ではスパスムと考えカルシウム拮抗剤を追加するだけの判断をしていたかもしれません。犯人捜しに行き詰ったら現場に帰れです。間違っても根拠なしにストーリーを作り上げてはいけません。
 とはいえ、8月に気付くべきであったとも言えます。残念なことにこのケースでは64列MDCT導入前の初診の方で冠動脈をCTで評価していませんでした。

2010年10月13日水曜日

MDCTで敵をよく知り、PCIという戦いを有利に進める

pre PCI

post PCI

LAD CT on Sep. 22, 2010

LCX CT on Sep. 22, 2010
 本日のPCIのケースです。12年前にAMIのためにLADにstent植込みを受けています。9/22に数年ぶりに検査したCTでLADの近位部に強い狭窄を認めます(下段左)。また、ステント内も狭窄に見えます。回旋枝の入口部には狭窄はありません。
 上段のPCI前の造影では、LAD近位部の強い狭窄。プラークは回旋枝の対側のLMTまで及んでいます。バイパスに紹介するかどうかをよくご相談し、ご希望に沿ってPCIをすることにしました。生命に関わるリスクもCABGと変わらず、PCIによる死亡の可能性も少ないものの存在することもお話しました。
 拡張前のIVUSでも回旋枝の入口部には狭窄は認めませんでした。回旋枝の入口部に狭窄がないことより手技がシンプルになるようにステント植込みまで回旋枝にワイヤーは挿入せず、プロテクトをしませんでした。予想通り、ステント植込みを終わってもjailになった回旋枝の血流は保たれており、ステント植込み後にワイヤーをクロスさせ、バルーンでストラットを拡張しました。IVUSを見る前にCTで計画していた戦略どおりの拡張が出来ました。CTで病変をよく観察することで造影で知る以上の情報をPCI前に得ることが出来ます。これで戦略を立てることが出来ます。己の力量をよく知り、敵(病変)のことをよく知ることは治療という戦いを有利に進めます。
 この例を含めて2例のPCI、2例の診断カテを14時半から始め、17時に終了です。

2010年10月12日火曜日

冠動脈狭窄との戦いは続きます

Sep. 2007

Oct. 2010
 本日のCTの方です・2007年に回旋枝にTAXUSを植込んだ方です。半年後にも再狭窄を認めませんでした。PCI後、一貫して無症状です。2007年のLAD近位部に、中等度狭窄を認めました。下段は本日のものです。明らかに狭窄度は悪化しています。この方の総コレステロールは184mg/dl、LDLは108mg/dlです。空腹時血糖も90mg/dlです。もちろん喫煙はしません。やはりLDLは100mg/dl未満にコントロールすべきなのでしょうか。100mg/dl未満にコントロールすればこの悪化は防げるのでしょうか。LDLが108mg/dlの方にスタチンを処方して保険診療で許されるのでしょうか。RCTで示される内服による改善と、個々のケースでの改善の狭間で考えさせられることは多々あります。だからこそ現場の臨床で面白さもあるのですが、困難もあります。

本日は診断カテ2件、PCI1件、DDD植込みが1件でした。14時半から開始し、17時に終了です。

2010年10月9日土曜日

16列MDCTと64列MDCT 16 and 64-row MDCT

2006.12月のCT
This is one of today's cases. Single Cypher stent implantation was done at Kagoshima University Hospital several years ago.  The upper picture was taken in 2006 with 16-row MDCT. The other was today's picture with 64-row MDCT. No instent restenosis are shown in either 16 and 64-row MDCT. But moderate stesosis was seen in proxymal LAD. The qualities of 2 pictures are same.  The stenosis seems improving in 64. I guess it is the influence of moton artifact in 16. I think 16-row MDCT tend to overestimate coronary stenosis.
 We have to be careful that spatial resolusion is same in 16 and 64 row MDCT. The quality of picture that taken in good conditions with 16 is same with 64-row MDCT. 64-row MDCT is not magic tool to see coronary stenosis. It is same in more row MDCT.
 Instent restenosis is not the  problem in this case. The problem is ths plaque in proxymal LAD. Non-significant lesions are frequently found in MDCT. How should we manage these lesions like in this case? We have to prevent worsening of stenosis and abrupt rupture of plaque. She has dyslipidemia. She has already taken strong statin. After today's CT, I added EPA to prevent these worsening.
Hidekazu ARAI

2010年10月のCT


 本日のCTのケースです。以前に前下行枝に大学病院でCypherの植込みを受けておられます。上の写真は2006年12月のもの、下は本日のものです。16列でもきれいにステント内は描出され、ステントより近位部に中等度狭窄を認めます。一方64列で撮影したものも基本的には画質は同等です。すこし狭窄度が軽く見えるかもしれませんが、周辺がシャープになった影響だと思います。まだ印象に過ぎませんが16列の方が狭窄を過大評価するように思います。周辺のボケが狭窄として見えるのでしょうか。
 気をつけなくてはならないことは16列でも64列でも空間分解能に違いはなく、きれいに撮影できたものであれば16列でも64列でも同様の評価が可能という点です。64列は16列と比べて魔法の装置ではないということです。これは更に多列化しても同じことです。
  このケースではステント内再狭窄はなく問題はないのですがその近位部にあるプラークが問題です。左冠動脈主幹部から左前下行枝近位部の狭窄ですので、進行すれば重大な問題になります。進行や急なアテローム破綻を食い止めなければなりません。脂質代謝異常がありストロングスタチン内服中です。内服中だからこそ4年間進行がなかったとも言えますが、場所が悪いので心配です。この結果をみて本日よりEPAを追加しました。
 冠動脈CTで見つかるこのような病変は少なくありません。このような患者をどのように管理していくかはこれからの課題です。

新井英和

2010年10月8日金曜日

願えば叶う 冠動脈内ステントの64列CTによる評価

2010.10.8 冠動脈CT
 本日は14時から6例の診断カテです。1例は#6の50%狭窄でしたがFFR=0.95でPCI不要と判断。もう1例は#14に75%狭窄を認めましたが灌流域も小さいので内服でコントロールすることにしました。カテの終了は16時です。2時間で6例ですから入れ替えも含めて1件20分の計算です。カテの術者は鹿児島大学からカテの研修に来ているK先生です。当院に来るようになって2年ですが上手くなったと思います。自分が狭心症になった時に、彼にPCIをしてもらってもよいかと思うくらいにです。
 さて写真は本日のCTの方です。5年以上前に近くの病院で多数のCypher stentの植え込みを受けておられます。ステント内が何ともきれいに描出されています。これなら文句なしです。技師さんにもGEさんにも今回の導入の目的はステント内の評価だと言い続けてきました。限界ですよと努力しない人もいますが、願えば叶うようです。せっかく来てもらった装置です。その装置の最大の能力を引き出してあげることは私と技師さんの義務だと思います。マンネリにならないように気を引き締めてきれいな像を撮影し、正しい評価を続けなくてはなりません。
 本日はこの方を含めて4人の冠動脈CT、1人の腹部大動脈瘤の評価を行いました。12時半にはすべての説明が終わりました。質もスピードも申し分ないです。

2010年10月7日木曜日

嫁をほめる亭主、子供をけなす親


2010.10.4 冠動脈CT

2010.10.7 PCI前
   本日、GEの技術スタッフが来院されました。Optima 660CT proの開発に関わったスタッフも含めて6人の来院です。GEの社内で私のブログが話題になっているそうで、「褒めていただき感謝しています」との言葉を頂きました。一方で「褒めすぎではないかとも思う」と本音を言われた方もおられたので、私は嫁を褒める亭主だよとお話しました。「身近に結婚してよかったという人なんかいない」と言ったタレントがいましたが、確かに嫁をけなす言葉を話題にする亭主は少なくありません。しかし、縁あって結ばれたのに、けなしあっていて幸せなのでしょうか。お互いの良いところを高めあい、欠点を補い合い、結ばれて良かったと思うのが幸せのように思います。
 CTの更新は少なくない投資です。より高いスペックの装置があることも十分に承知ですが、一大決心をして結ばれた装置です。もっと良い嫁がいたのにと後悔したくありません。その存在を認め、良いところを高めて、欠点を修正して、その縁を否定せずにその縁を喜ぶことが私の幸せであり、嫁に出してくれたGEさんの幸せと思います。だからこそ、このブログで良いところを見つけ、欠点を修正しようと思っているのです。本日、気になることがありました。ステント内の評価を議論している時に、この装置の限界なんですよねと発言するGEスタッフがいました。次の改善に向けて開発中ですと言われるのです。嫁に出した娘のことをこの子の限界なんですよね、次の子に期待してくださいと言う親がいるでしょうか。もちろん、これがGEの全てではありません。今あるフィルターやアプリケーションを使って最大限の画質を出そうと、東京への帰りの便を遅らせてくれたGEのスタッフもいます。けなしあうことからは何も産まれません。わたしはこれからも私が選んだ装置をほめ続け、私の選択を肯定し続けると思っています。
 本日のPCIのケースです。左肩の痛みが最近急に出てきた方です。10年前にステント植込みを受けておられます。冠動脈CTでステント内の狭窄を認め、本日PROMUSを植え込みました。術前に予想がついている病変へのPCIは楽チンです。造影が終わり、PCIをすると決めた後、PCIは10分で終了でした。

2010年10月6日水曜日

GEのecomaginationとhealthymagination

鹿屋ハートセンターの電子カルテ

  64列MDCT導入後、担当の技師さんは16列の時代と比べて世界が変わったと言っています。私には言いにくいのか他の職員に、被ばくが16列時代と比べて格段に少なくなった、造影剤の使用量が半分になった、息止めの時間が短くなったなどと良いことばかりだと嬉しそうに話しているそうです。実際、息止めの時間は10秒足らずになり、短い息止めのため途中で息をしてしまう方は激減しました。また、撮影に20数秒かかっていたのが10秒足らずになったためにその間に不整脈が出る確率も減りました。その結果、16列時代と比べて冠動脈を評価するに足るきれいなCT画像が撮れる成功率が格段に上がりました。
 造影剤に関しても16列時代には100mlを使用していましたが、今は体重X0.7ml+10mlの使用です。50kgの女性であれば45mlのみの使用です。高額な造影剤の使用が減るわけですから経済的な負担も少なくなりますし、腎臓に対する悪影響も少なくなります。16列時代には、カテでは50mlも造影剤を使用しないのにCTでは100mlも必要だからカテの方が良いと私自身も思っていましたが、64列になってカテよりも少ない造影剤で評価出来るためにカテに対するこだわりもずいぶんと少なくなりました。64列と16列の違いは、私にとっても冠動脈を評価する世界観が変わるほどの違いなのだということが両方を使ってみてよく分かりました。16列時代にはクレアチニンが1.2を超えるとカテのほうが良いかと考えてCTを撮りませんでしたが、造影剤が50mlですむのならもう少しクレアチニンが高くてもCTでも良いかと思い始めています。
 写真は、本日のPCIのケースです。左のCTでは石灰化を伴う狭窄に見えますが狭窄程度の評価は微妙です。右の造影では75-90%狭窄です。IVUSでは強い石灰化を伴うtight stenosisでPROMUSを植込みました。写真は2 monitorにしている私の診察室のパソコンのprint screenです。造影とCT画像等、複数の画像を電子カルテから呼び出し並べて評価することが可能です。もちろん造影を2つ並べて以前のものと比較することも簡単です。これは当院の画像サーバー、GEのXI2のweb serverから電子カルテで呼び出して見ているからです。ブログを始めてみて数年前の複数の造影を呼び出し、CT画像も呼び出してという作業をしていますが、このような画像サーバーがなければどれほど大変な作業になっただろうと思います。
 Optima CT660proに更新したことで消費電力が減り、造影剤の使用が減り、被ばくが減り、患者の経済的・肉体的な負担が減ります。また導入する医療機関の経営にもやさしい価格設定です。画像サーバーを電子カルテと連動させることで、大幅な時間の節約が可能ですし、比較するという作業を通じて、診療の質も向上すると思っています。GEのecomaginationは環境と経済の両立というコンセプトと聞いています。また、healthymaginationはこれに加えてより多くの人がより健康的に生活が送れるようにというコンセプトだと理解しています。Optima CT660proの導入と4年前から当院に存在する画像ネットワークはこうしたコンセプトにうまく合致しているようです。

2010年10月5日火曜日

64列MDCTによる冠動脈内ステントの評価は大事な今後の課題です

2007年 Cypher stent植込み後

2010.10.05 冠動脈CT

















本日の冠動脈CTの方です。2007年に前下行枝と第一対角枝にCyper stentを3.5mmと2.5mmの2本使用しT stent(mini crash)にした方です。
半年後の造影で再狭窄はありませんでした。その後も無症状です。しかし、最近のcypher stentのlate catch-upの報告を見ると何年も放っておくのもためらわれます。そこで本日CTで評価しました。きれいにTの字にステントは植え込まれています。しかし第一対角枝側のステント内はlow densityです。これは再狭窄を意味するのでしょうか。あるいは金属で出来たステントによるartifactなのでしょうか。16列CT時代には、まったくステント内の評価をしてきませんでしたので当院にとってステント内のCTによる評価は今後の重要な課題です。昨日のCTではステント内はきれいに見えるけれども内膜肥厚を見逃しているのではないかという疑問を持ちましたが、本日は反対の疑問、ステント内はlow densityだけれども本当に再狭窄なのかという疑問です。CTで冠動脈内ステントを評価する時に影響する因子は何なのでしょうか。ステント径も、ステントのstrut厚も影響するでしょうが、それも撮影方法や、画像構成時に克服しなければなりません。明後日、GEの技術スタッフが導入後のフォローのために来院されます。よくディスカッションをして克服の為の努力をしなければなりません。

2010年10月4日月曜日

冠動脈内ステントの64列MDCTによる評価

2010年10月4日の冠動脈CT

2007年9月AMI発症時 血栓吸引後



2008年3月 F/U CAG

 2007年9月にAMIとなり、Driver stentを植え込んだ方です。血栓吸引前は完全閉塞でしたが、血栓吸引後の像では、破綻したプラーク像がよく見えます。この病変に対してDriver stentを2個植込みました。
 半年後の造影では、ステント内に有意ではない再狭窄が認められますが、TLRは不要です。
 最終の造影から2年半が経過し、この病変が大丈夫かと64列MDCTで評価を行いました。CTでは2個のstent間のgapもきれいに描出され、再狭窄もありません。良い結果だと説明させていただきました。
 しかし、このブログのためにこうして造影と並べてみると、不思議です。2年半前の再狭窄はどうなったのでしょうか。regressionしたのなら問題はありませんがCTが過小評価し、pseudonagativeなら大変なことです。regressionなのか過小評価なのかはっきりさせる為に造影を見てみたい気持ちで一杯です。しかし、症状もなく良い結果だと思うけれどもそれを確かめる為に造影させてくれとは言えません。また、そんなことで保険診療してもいけません。この方の経過を注意深く見ていくしかありません。

2010年10月2日土曜日

なぜOptima CT660proなのか 機種選定にまつわる色々

新規導入したOptima 660 pro

Workstationは新旧2台が稼働

 高額医療機器の購入にあたって考えなくてはならないことはたくさんあります。勤務医時代には最高スペックを求めたものです。しかし、自らがオーナーになって導入する場合には身の丈に合ったものでなければなりません。
 4年前に16列を導入した時には、対象となる患者さんが導入コストに見合うだけ存在するかも分らなかったわけですからとても64列を導入する決断はできませんでした。開設から4年を経過した今は、非有意狭窄であったために経過を見ている方や、PCI実施後何年も冠動脈造影をしていない方など対象となる方が少なからず通院されています。それでも田舎の小さな施設ですので、1日に何人も対象となる方がいらっしゃるわけではありません。
 昔からよく知っている大阪の大病院で勤めている先生は64列導入にあたって1日7人のCT検査を目標に設定されました。また北九州の循環器で有名な病院は64列導入にあたって設定した目標は20人とうかがっています。
 1億円の機器をリース設定した場合、年間リース料はおよそ2千万円で6年間支払うことななります。これとは別に保守料や、時に管球の交換が必要であり平均すると1500-2000万円程度が1年に必要になります。この年間3500-4000万円の負担とは別に電気代や人件費が発生します。冠動脈CTの診療報酬は1万4千円、冠動脈加算をとっている場合には2万円です。当院では1万4千円ですから4000万円をペイするためには年間2850人程度の検査が必要になります。これだと日曜祝日を除き、土曜日まで含めて毎日10人の方の検査をしてトントンという計算です。実際の問題として鹿屋ハートセンターにはこれほど多くのCTを必要とする方はいらっしゃいません。1億円のCTは鹿屋ハートセンターの身の丈に合っていないということです。身の丈に合わない投資をすれば持続可能な施設を作り上げるという目標を達成できません。それでも採算を追い求めるのであれば検査の不要な方に検査を実施して、良心を裏切らなくてはなりません。良心を裏切る選択を私は決してしたくありませんので、やはり1億円のCTの導入は無理だということになります。
 今回のOptima CT660proに決定した理由は、身の丈に合っていたからです。鹿屋ハートセンターに通っておられる方、今後通われるであろう方に、決して無理せずに必要な時期に検査を受けていただくだけでトントンになるだけの初期導入費用、ランニングコストを提案していただいたために導入を決めることができました。もちろん安かろう悪かろうでは話にはならないので、このブログの場でその質は検証してゆきたいと思っています。
 CTの時代のトレンドは64列を超えた更なる多列化です。ホームページで見ると東芝のCTの製品情報のトップの機種はzone detectorを使用した320列相当の機種、Phillipsのトップの機種は256列、Siemensはdual energyです。これらの機種に手が届かないのは分かっているので実際の導入価格の相場も知りませんが、1億の機種でも最低1日10名の検査が必要なのに数億の機械を導入してペイする医療機関は日本にいくつ存在するのでしょうか。ちなみにGEのCTの紹介のトップの機種は当院が導入したOptima CT660proです。もちろんGEにもdual energyの技術や多列のCTがあるにもかかわらず、トップの紹介はOptima CT660proなのです。明らかに他社と方向性が異なるように私には見えます。日本の診療報酬の実態にそぐわない高額医療機器の普及は、病院の経営を圧迫するだけではなく、日本の医療体制全体にも負荷をかけかねません。患者に対する不要な検査にも繋がりかねません。そのなかでHealthymaginationEcomaginationを社是とするGEの社風も今回の決定の大事な要素であったと考えています。

2010年10月1日金曜日

2010/10/01のPCIケース 冠動脈CTで発見できた2枝病変例

右冠動脈拡張前
 本日のPCIのケースは60歳代の男性です。脂質代謝異常です。労作時の呼吸苦が主訴の方でしたが負荷心電図は陰性でした。 冠動脈CTで右冠動脈のdiffuseな狭窄、左冠動脈回旋枝の分岐部に高度狭窄を認めました。
 狭心症が疑われるが、運動負荷心電図が陰性の場合、次の対処はどうすべきでしょうか。一つのオプションは負荷心筋シンチです。しかし、心筋シンチのコストと冠動脈CTのコストを比較すると圧倒的に冠動脈CTが安く済みます。シンチでは機能的に虚血になっているか否かを評価はできますが、その正診率とコストを考えれば冠動脈CTが優るように思います。

 
左冠動脈 拡張前

左冠動脈拡張前

 右冠動脈の#1-#3までのdiffuse 99% stenosisに対するPCIは1週間前に終了しました。本日は回旋枝の#13-#14分岐部の狭窄に対するPCIです。この方はプラビックス内服後に全身に薬疹が出現したためにプラビックスを中止し、プレタールに変更しています。このため分岐部であってもなるべくシンプルにkissing stentを回避し、1 stent+ballooningで終了を目指しました。使用するstentはEndeavorです。ブラビックスが内服できないためなるべく早く内皮がはるDESを選択しました。
 #13へのwiringはwireを反転させる操作が必要で難儀しましたが、結果的には#13方向にEndevor stentを置き、#14に対してはballooningで終了しました。結果には満足です。
 負荷心電図陰性のこのケースで冠動脈CTなしにここまでたどり着けたかを考えてしまいます。冠動脈CTは確実に循環器診療を変化させています。

右冠動脈 Endeavor stent植込み後

左回旋枝 Endeavor stent植込み後