2011年1月29日土曜日

PMDAの承認の過程は科学的で統計的に正しいのでしょうか?

 
Fig.1 PMDA approval document

10日ぶりのブログです。今月に入って例年より少し多めのPCIで、本日までに26件でした。大きな施設と比べれば微々たる件数ですが鹿屋ハートセンターにとっては少なくない件数ですし、治療を受けられた一人一人の患者さんにとっては重要な1件1件でした。このため忙しくてブログを書かなかったわけではありません。カテーテル検査やPCIは基本的に17時までに終わるようにしているので時間はたっぷりとあったのです。今日書くことを書くべきか否かでキ-ボ-ドが進まなかったのです。



Fig.2 FDA approval document

Fig. 1は、1/17のブログ 黒塗り文書の拡大です。stentのoverlapでfractureが増えるという臨床の結果を受けて実施されたと思われる重複留置の加速試験の結果の部分です。重複留置に耐え得ると判断する基準として「95%の信頼限界で99%の検体が10年相当の加速疲労を与えた時に1年間の疲労に耐え得る」と記載されています。試験結果として「加速疲労後のステントにおいてストラット破損は認められず、疲労試験前との差は認められなかった」と記載されています。


要は、重複留置したステントの加速疲労試験で破損したステントはなかったとの記載ですが、この後の判定は統計の問題です。試験検体は重複した20組のステントですからサンプルサイズは僅か20です。破損数は0ですから。検体数20の実験で破損数が0であった時、95%の信頼限界で1%以下の破損率であると言えるかという統計です。ある統計サイトでこの数字で計算すると故障率信頼限界は100万件に対しておよそ15万という結果になりました。15%です。驚くほどCTで検出されるstent fractureの頻度と合致します。この統計サイトで計算すると実験で破損が0であった場合、100万件に対して故障率信頼限界が1万程度になるには検体数が約300なければなりません。黒塗りされていない部分だけを見てもこの承認に関わる統計的な検証は正しいのかと疑問を持たざるを得ません。


加速疲労試験は工業製品でよく行われているそうです。こうした工業製品の加速疲労試験の問題として、加速することが実際の使用する場面と異なる状況を作り出している可能性があり、加速が意味をなさない場合に注意しなければならないとされています。たとえば摂氏40度の環境で10年間の耐久性があるかと検証する場合に摂氏400度の環境に1年置いて実験したからといって10年分の安全性が担保されるわけではないということです。12/23付のブログ 行政の責任のなかで毎分60-120回拍動する血管の加速試験モデルとして60-120Hzの振動装置が正しいモデルなのかと疑問を書きましたが、加速試験をする場合にその加速モデルが正しいのかを検証することも重要です。現実の臨床の現場で発生するstent fractureはriskの一つはstent overlapですが、他の一つのリスクは石灰化の存在です。Autopsyでのfractureの発生頻度は172日で29%ですから石灰化に擬した動脈モデル内でoverlapしたstentを毎分60-120回の生理的な振動で1年間実験したらどうでしょうか。より臨床に則したin vitro実験が1年で可能です。


もう1つのstentの長期の安全性の検証方法のヒントはやはり工業製品の寿命を計る手法にあると思います。工業製品には初期の問題が多く発生する初期故障の時期、初期故障の発生が減少する安定期、長期の使用を経て徐々に問題が増える摩耗期の3つの故障率カーブが一般に存在します。この3つのカーブが作る合体したカーブをバスタブカーブと言うそうです。stentも体内に植え込まれてからの問題発生を経時的にプロットしてゆけばfractureの発生頻度のカーブが描出できます。私の勝手な予想ですが冠動脈に植込まれたstentの場合、工業製品のようなバスタブカーブとならずに2つの摩耗カーブが安定期の両端にできるのではないかと思います。overlapや石灰化病変、hinge motionの激しい部位に置かれたstentが早期にfractureするカーブと長期の摩耗カーブの2つです。この摩耗カーブからstentの寿命を統計的に推測することも可能です。ワイブル解析というそうです。鹿屋ハートセンターのようなPCI件数の多くない施設単独でこうした解析はできませんが、国内だけでも年間に10万件以上のstent植込みがなされているわけですから、PMDAや学会が多施設の共同研究を立ち上げればすぐに結果は出ると思われます。


前にも書きましたが、私は薬剤溶出性ステントを是とする立場ですし、現実に多用しています。このブログでこんなにも危険なデバイスをPMDAは杜撰で不透明な形で承認して世の中に出してよいのかと言いたいわけではありません。PCIのアキレス腱であった再狭窄を劇的に減少させた薬剤溶出性ステントの「功」を十分に認めています。しかし、臨床に出てくる製品はいつも100%の出来の製品で臨床に出てくるわけではありません。その欠点や問題点を明らかにすることで、その結果がより良い製品作りに反映され、、結果として患者の利益になることを願っているのです。是非、PMDAは黒塗りといった手法を改め、科学的にあるいは統計的に正しい手法で、安心で安全な医療機器や医薬品を迅速に臨床の場で使えるように承認してもらいたいと願っています。Fig 2に示すようにFDAの文書には当然のように黒塗りはありません。PMDAの黒塗りは一体誰の仕業なのでしょうか。PMDAの承認の権限は国民から委ねられたものです。委ねられた立場であるにも関わらず、委ねた側の主権者たる国民に対して黒塗りで情報を隠すようなことは許されるのでしょうか。米国でこのようなことがあれば、実行者はその地位に留まることはできないでしょう。私はこの黒塗りの過程に理事長の近藤達也先生が関与していないと信じていますが…

2011年1月19日水曜日

慢性完全閉塞(CTO)に対するPCIに際してMDCTがもたらす情報は重要である

Fig. 1 Coronary CT on 15. Nov. 2010
  本日は、ACSに対してconservative strategyでPCIで実施した方とこの方の2例のPCIでした。

    この方は60歳代の男性で、10年前にMID-CABで有名な先生からLITA-LADのバイパスを受けておられます。このCABGの時点からRCAは完全閉塞であったとのことです。RCAの完全閉塞を残したままでLADのみにMID-CABを施行するというのも一つの考えかもしれませんが、臨床医の基本的な考え方は"Think Worst!"ですから、LADのバイパスでトラブルが起きた時にRCAの完全閉塞と相まって死に到る可能性を考えれば、乱暴な手術だったと思います。手術侵襲は小さいけれどもリスクの大きな手術であったと考えます。しかし、無事に手術が終わり10年を無事に過ごしたわけですから結果オーライとも言えます。ただ、ただ私はなるべく小さなリスクでかつ成功の可能性が高い方法を考えるべきだと思うので結果オーライは嫌いです。

 
Fig. 2 Before PCI
強くはないのですが胸部不快があり11月にCTで冠動脈を評価しました。当院に通院を始められて初めての冠動脈評価です。LITA-LADは綺麗でしたが当然のように10年前から閉塞の右冠動脈は完全閉塞です。ところがFig. 1に示すように、意外なことに10年を経過した完全閉塞部位にほとんど石灰化がないのです。これなら高い蓋然性で再開通が可能と考えました。ここを通してもあまり予後の変わらないこと、再開通の目的の主たるものは症状を緩和するだけであること、成功の蓋然性は高いと思うが、10年の完全閉塞なので成功率は100%ではないことなどを説明した上でPCIをトライすることにしました。

Fig. 2はPCIの造影です。#3が完全閉塞でbridge collateralを通って末梢が造影されます。Fig. 3はstent植込み後の造影です。慢性閉塞部位はXT wireでほとんど通過可能で、一部硬い部分を3gのwireを使用しましたが、極端に硬いwireは不要でした。CT画像を見て予想したとおりでした。ただ予想と異なったのはバルーンの通過が難しかったことです。私が現在最も信頼を置いているMedtronicのlegend 1.25mmが通過しなかったのです。Tornousを使用しても通過せず諦めるかと考えた時に思いついたのが4FのTerumoのKIWAMIです。4 in 6にしてKIWAMIを閉塞部位近くまで持っていきlegendを持っていくと通過は容易でした。KIWAMIで使用できるstentには限りがあるのでstentingでの有用性は限局的だと思っていましたがバルーン不通過の際のbackupには非常に優れていると実感しました。

Fig. 3 After stenting
諦めかけた時になぜ諦めなかったか、それはCTの所見があったからです。閉塞内に強い石灰化はなく必ず成功するはずだとの確信が諦めさせなかったのです。慢性完全閉塞に対するPCIに際してCT所見は戦略を立てるのにも成功の蓋然性を測るのにも重要な情報をもたらします。


 
 

2011年1月17日月曜日

終戦直後の黒塗り教科書と現代のPMDAによる黒塗り文書 stent fractureに関わる行政の闇


Fig. 1 Japanese textbook just after the World War II

   Fig. 1は、第二次世界大戦 終戦直後の日本の小学校の教科書です。「ボクハ センシャ兵 ダヨ」といった戦中の教科書をそのまま学校で使っていたために軍国主義思想を排除する目的で左のように黒塗りの教科書が登場しました。黒塗りするのは民主教育から軍国主義教育を排除する目的ですから、黒塗りも理解可能です。とはいえ、こんなものまで黒塗りするのかというような行き過ぎがあったとも聞いていますが…
  

Fig. 2 DES Approval Document of PMDA

  Fig. 2は、薬剤溶出性ステントの認可にあたって、PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)がそのホームページで公開している承認文書です。各ステントメーカーは、承認を求めるにあたってPMDAに提出した資料を公開すべきではないかと2010年12月23日付のブログで書きました。この中で私はそのような資料の存在を知らないと記載しましたが、さすがにPMDAです。承認の過程を記載した文書を公開していました。たとえばXience Vであればこのリンク先で公開されています。総ページ数1000ページを超える文書です。


 PMDAのweb siteではPMDAの理念として1番に「国民の命と健康を守るという絶対的な使命感に基づき、医療の進歩を目指して、判断の遅滞なく、高い透明性の下で業務を遂行します」と記載されています。流石です。資料が公開されていることも知らずに行政の責任などとこのブログで書いた不明を恥じるべきと思いました。しかし、驚きました。stent fractureに関わるページをFig. 2に載せましたが、Xience Vは、同等のデザインであるVision stentで行っているので加速疲労試験は不要であると記載されています。BMSではほとんど問題にならなかったstent fractureがDESになって問題になっているにもかかわらずです。また、overlapでのstent fractureが問題になっているために実施されたと思われる「重複留置における半径方向負荷による加速疲労試験」の項では、試験方法が戦後の教科書のように黒塗りされているのです。メーカーは試験方法や試験結果を黒塗りしてPMDAに提出するはずがありませんから、公開にあたって黒塗りする判断をしたのはPMDAです。PMDAは何から何を守りたくて黒塗りにしたのでしょうか。


  何かの実験をして、仮説を実証しようとする時、最も大切なことはMaterials and Methodsです。ここがいい加減な論文はアクセプトもされないでしょうし、仮にアクセプトされたにしても大きな批判にさらされるだけではなく、誰にも信用されないのは常識と言えます。そうそうたる研究者が専門委員に名を連ねるPMDAなのに、なぜこのようなことが起きているのか理解できません。stent fractureに関わる闇は、PMDAによって作られているようにさえ思えます。


  Autopsyで29%、CTによる評価で15%程度のstent fractureが短時間の内に現場で発生しています。試験方法を黒塗りした承認文書では10年に相当する加速試験で99%に破損が認められなかったとされます。では、その試験方法に問題があると考えるのは私の間違いなのでしょうか。問題になったVLST(超遅発性ステント血栓症)よりもはるかに高頻度で発生しているstent fractureを解決するために、黒塗りといった手法は早急に改められなければなりません。

2011年1月14日金曜日

大動脈弁下狭窄の64列MDCTによる評価。 Evaluation of subaortic stenosis using 64-row MDCT

Fig. 1 UCG
 64列MDCTは爆発的に普及し、現在、約1000台の64列以上のCTが国内で稼働しているそうです。人口12万人に1台の計算です。鹿屋ハートセンターのある鹿屋市の人口は約10万人ですが当院も含めて4台の64列MDCTが稼働しています。2万5千人に対して1台ですから国内平均の4倍以上の保有台数です。この64列MDCTの主たる撮影ターゲットは冠動脈疾患です。
 
Fig. 2 CT on 14. Jan. 2011
  2010年9月30日にこのブログを立ち上げて以後、最も読まれた記事は なぜOptima CT660proなのかでしたが、次に読まれた記事は大動脈弁狭窄でした。3位は冠動脈肺動脈瘻でした。意外なことに上位は冠動脈の話題ではなかったのです。

  本日の話題も冠動脈以外です。70歳代後半の女性です。1年2か月前の初診です。検診で指摘された心電図異常の精査を求めて来院されました。心電図は完全右脚ブロックだけでした。しかし、心エコーでは大動脈弁で100mmHg以上の圧較差を認めました(Fig. 1)。特徴的なSAMも認めましたが、弁下部の肥厚は認めるものの軽度です。圧較差が大きい割に弁下部以外に左室肥大は認めません。HOCM(肥大型閉塞型心筋症)とかIHSS(特発性肥大性大動脈弁下狭窄)と病名をつけシベンゾリンの内服をしてきました。

Fig. 3 CT on 14, Jan, 2011

  しかし、何かこのままで良いのかという心の引っかかりがあり、本日CTで評価しました。冠動脈にはもちろん狭窄は認めません。Fig. 1で左室内をみると左室内に左室を分離する構造物を認めます。 角度を変えて左室像を再構成すると僧帽弁前尖に肥大した構造物を認め(Fig. 3)、この構造物が収縮期に左室流出路を閉塞するように動いているのが確認できます(Fig.4)。Discrete型の大動脈弁下部狭窄でした。
このようなケースの報告は1963年のJ Thorac Cardiovasc Surgにあります。50年近く前のpaperです。
Maclean LD: Subaortic stenosis due to accsessory tissue on the mitral valve. J Thorac Cardiovasc Surg 1963; 45: 382-388


Fig4. CT on 14, Jan. 2011

  このケースでは左房の拡大も心房細動もなく自覚症状もありません。高齢ですし困っていることもないので手術的な修復は必要ありませんが、修復が必要な時、心エコーだけの所見だけで手術に踏み切るか、こうしたCT所見を持って手術に踏み切るかでは手術のデザインが自ずと異なってくると思います。カテーテル検査では圧較差の測定は可能です。しかし左室造影をしても弁に付いた構造物の評価や乳頭筋との関連を見ることはできません。こうしたケースの最善の検査方法はMDCTであると思います。

  64列MDCTによる心臓の評価の有用性は冠動脈だけにとどまらないと言えます。循環器医が頭で考えるよりもブログのアクセスの動向の方がMDCTの有用性をより正確に物語っているのかもしれません。



1/10のブログのケースに対するPCIを1/13に実施しました。

Fig. 1 IVUS marking
  1/10のブログに載せたケースに対してPCIを本日(1/13)実施しました。当日実施していれば、2度目のカテは不要であったわけですが、内腔が結構保たれていたことに加えて、当日はstentingを実施するデザインが作れていなかったのです。

  症状があって来院されCTやCAGで狭窄を認めただけでPCIを実施してはいけないと思っています。その狭窄が症状の原因になっていると考えられ、その狭窄を解除することが患者の利益になると判断して初めてPCIの実施を決定します。この時、高い蓋然性で成功が担保されていなければなりません。先日のカテ時にはこの狭窄が症状の原因として間違いないかという点で自信が持てなかったことと、PCIを実施するとしても正しくLAD take-offにstentingできるかという点で治療のデザインができていませんでした。
Fig. 2 During stenting
  狭窄はCxとの分岐に接しており、そこにきちんとstentingできずに少し末梢に置いてしまうと必ずといってよいほど再狭窄を起こします。一方、proxymalすぎるとCxをjailしてしまいます。この方は左冠動脈優位ですからCxのjailは避けたいところです。しかし狭窄部位がIVUSでは確定できても造影で分離できないために微妙なstentの位置決めをどうするかのアイデアが前回の造影時に十分考えきれていなかったのです。もちろんその時にアイデアを持っていたとしてもリスクのあるPCIになるので十分な説明の上で実施するためにも猶予は必要でした。

  造影での分岐部の分離ができないため本日のPCIでは2つのMerkmalを用意しました。一つはIVUSによるマーキングで、もう一つはCxに置いたガイドワイヤーです。(Fig. 1)
Fig. 3 IVUS image before PCI
   2つのMerkmalを用意した上でpredilatation時にそっと造影してCxがバルーンで完全に閉塞していないことを確認し、同じ部位で今度はstentingを行いました。拡張中に少し流した造影剤がCxに行くことで完全閉塞になっていないことが確認できます(Fig. 2)。

   Fig. 3はPCI前のIVUS、Fig. 4はstenting後のIVUSです。stentは12時から2時方向に見えるCxにほんの少し顔を出すだけで思った通りのstent植込みができたと思います。

  PCIを実施する上で考えることは、まず拡張すべき狭窄が存在するかです。50%狭窄程度で症状もないのに拡張することは許されません。この方の場合、狭窄は1か所のみで、NTG舌下が有効な胸痛を繰り返しておられましたし、IVUSで80%程度のluminal stenosisが存在しました(diameter stenosisではありません)。
Fig. 4 IVUS image after stenting

  次に考えることは相当な安全性で、成功を期待できるかという点です。拡張が不成功に終わって、かえって病状を悪化させた時に拡張すべき狭窄があったから仕方がなかったという言い訳も許されません。成功に繋がるprocedure designがしっかりと構築できていなけれななりません。この方の場合、前回の造影から今日までの間にどうすれば造影で確認できない部位に確実にstentを置けるかを考え、designができたために実施を決意し、狙い通りのstentingができました。このdesignができていなければCABGに回すべきであったと思います。

  手技的な成功は得られました。この方の本来の成功はNTG舌下を要する胸痛から解放されることです。この後の経過を注意深く診ていきましょう。

2011年1月10日月曜日

PCI実施のdecision makingは簡単ではありません。 64列MDCTとCAGによる狭窄度の評価の乖離

 
Fig. 1 Coronary CT on 30, Dec. 2010

  74歳の男性。ニトログリセリンの舌下で10分ほどで軽快する胸痛があります。発作時にECG変化はありません。心電図変化はなくてもNTG舌下が有効な胸痛が繰り返し発生すれば狭心症と考えてまず間違いありません。20年来の糖尿病の病歴があり、経口剤を内服中です。高コレステロール血症でスタチンを内服しており、3年前に脳梗塞も起こしています。  

    Fig. 1に示すCT画像ではLADの近位部に狭窄を認めます。しかし、Fig. 2に示す冠動脈造影ではtake-offより少しdistalに50%程度の狭窄を認めるのみです。実はこの方のCAGは2度目です。1度目は数か月前ですが、有意な狭窄はないと判断して経過をみることにしました。冠動脈CTがoverestimeteであったと判断したのです。しかし、やはり胸痛が繰り返し起きます。
 
Fig. 2 CAG on 07, Jan. 2011
Fig. 3 IVUS on 07, Jan. 2011
    Fig. 2はLAO caudal view、いわゆるSpider viewですが LAD take-offはCXと重なって判然としません。ですから今回はIVUSでtake-offを観察することも目的としてCAGとしました。IVUSの画像をFig. 3に示します。やはりtake-offにはそれなりの狭窄が存在しました。take-offの少しdistalにある狭窄よりも強い狭窄です。本来の血管径は4.5mm程度ですからcross sectional areaで見れば狭窄度は80%程度になります。しかし2.0mm X 2.5mm程度の内腔ですから、今回もPCIの実施は見送りました。

    退院を決めた後もやはりNTG舌下が有効な胸痛が起こります。やはりPCIを実施すべきなのでしょうか。悩むところです。負荷心筋シンチを行って虚血が認められればもちろんPCIを実施するということで問題ないでしょうが、シンチで虚血をdetectできなかった場合、この方に虚血はないと言い切れるわけではありません。ある検査を実施して陽性なら実施、陰性なら実施しないというほど臨床の場でのdecision makingは簡単ではありません。

  1994年に勤務していた病院の部長になって以後、それは最終的なdecision makingは自分が責任を持つことになって以後というのと同義ですが、実施をするか否かで悩んだら実施しないというのをポリシーにしてきました。しかし、今回の狭窄部位はLAD take-offです。判断の先送りは許されません。

  

2011年1月8日土曜日

64列MDCTによるSVG狭窄に対するPCIの戦略決定。  Making PCI strategy to treat SVG stenosis using 64-row MDCT

Fig. 1 CT on 07, jan. 2011 VR image
 65歳の男性です。1998年にCABGを受けられました。LITA-LAD、SVG-CX、SVG-D1です。2008年6月から当院に通院中です。この方は初診時から心房細動でした。64列MDCT導入後、心房細動の方でもきれいに冠動脈を評価できると確信し、この方でもCTによる冠動脈の評価を実施しました。この方の冠動脈造影は当院では実施したことがありません。ただ、2008年6月に16列MDCTで冠動脈の評価をしています。ですから2年半ぶりの冠動脈の評価です。


Fig. 2 CT on 07, Jan. 2011 SVG-CX

  Fig. 1に示すVR画像では若干のartifactはありますが心房細動にしてはきれいな画像が得られました。画像には示しませんでしたがLITA-LADはきれいに開存しています。Fig. 2はCXに吻合されたSVG、Fig. 3はD1(第一対角枝)に吻合されたSVGです。両者ともAoの吻合部近くに狭窄を認めます。Fig. 4は2008年に撮影したD1に吻合されたSVGですが、今回のような狭窄は認めませんし気配もありません。このように比較すると狭窄は経年的に進行するのではなくある時から急速に進行するのかと思えます。ちなみにこの方のLDLはストロングスタチンであるリピトールの内服下で102mg/dlです。64列MDCT後に心房細動で冠動脈評価を行った方で評価にたえないという撮影はいまだありません。心房細動でも撮影時のレートコントロールとECG editorで克服可能という自信が深まりました。
Fig. 3 CT on 07, Jan. 2011 SVG-D1

  ではこの画像を受けてこの方の治療はどうすべきでしょう。MDCTによる冠動脈評価ではカテーテルによる冠動脈造影ではできないプラークの性状評価が可能です。CXに吻合されたSVGの狭窄部のCT値(HU)は67、D1に吻合されたSVGの狭窄部のCT値(HU)は108でした。極めて柔らかいプラークという訳ではなさそうです。病変長も短くdistal protectionなしでも拡張は可能のようにも思えます。しかし油断をすると痛い目に会うのが常です。distal protectionを行うことも十分に想定してPCIに入りことにしましょう。D1に吻合されたSVGの狭窄のdistalにはやはりプラークが存在します。distal protectionの実施時にはこのプラ-クの存在を意識してprotection deviceの選択、留置部位を決めなければなりません。
Fig. 4 CT on 27, Jun. 2008

 また、最近関心を持っているstent fractureですがRCAに最も多いと言われていますが、SVGも好発部位と言われています。RCAにように動きの激しい部位でのfractureではその機序は理解しやすいのですが、SVGではなぜ好発するのでしょうか。とはいえ、この例でステントを植込むことになっても短いステントで済みそうですから、fractureの可能性は低いものと予想されます。1例のPCIでも考えなければならないことは少なくありません。しかし、幸いなことに冠動脈造影を実施する前から、64列MDCTで多くの情報を得ることができるのでAd hoc PCIでもぶっつけ本番の治療にはなりません。MDCTによる冠動脈の評価はカテーテルによる冠動脈造影の代替になるかという議論はもう陳腐です。PCIを実施するための戦略を立てる際に冠動脈造影以上の情報をもたらすツールとして有用です。

2011年1月3日月曜日

Stent fractureの評価は64列以上のMDCTが最も正確です。  64 or more row MDCT is the most useful modality to evaluate coronary stent fracture.

明けましておめでとうございます。

元日は鹿屋市の救急当番でしたので、正月気分無しの2011年の幕開けになりました。A型インフルエンザの方10名ほどを含めて71人の受診でした。そんな年始でしたが1/2、1/3は少しゆっくりとさせて頂きました。この休みを使って少し勉強しました。テーマは12/23/2010に書いたstent fractureに関してです。

stent fractureは2002年に初めてcase reportとして発表され明らかにされました。
Cornary-Stent Fracture. Perth S et al. N Eng. J Med. 2002; 347: 581

その後、カテーテルを使った冠動脈造影での評価、冠動脈CTでの評価、IVUSでの評価があり、2009年にAutopsyでの評価が発表されました。もちろん最も高い頻度でstent fractureが検出されたのはautopsyです。2010年10月の鹿児島インターベンションカンファレンスにゲストで来て頂いた中澤学先生のpaperです。その中で示されたstent fractureの頻度は29%でした。
Incidence and Predictors of Drug-Eluting Stent Fracture in Human Coronary Artery. A pathologic Analysis. Nakazawa G et al. JACC 2009; 54; 1924-1931
それまでカテーテルを使った冠動脈造影での評価では1-2%の頻度とされていたわけですから如何に冠動脈造影がstent fractureを発見するのに無力かが分かります。では死亡後の検査でしかstent fractureは正確に評価できないのでしょうか。

64列MDCTで評価したHecht HSらの検討ではカテーテルを使った冠動脈造影では1.0%にしか検出されなかったstent gapが64列MDCTでは16.9%に検出されたと報告されています。またstent gapの存在とステント内再狭窄には関連があると報告されています。64列MDCT導入までstent fractureなどほとんど見たことがないと私は思っていましたが、見えていなかっただけでした。
Stent Gap by 64-Detector Computed Tomographic Angiography: Relationship to In-stent Restenosis, Fracture, and Overlap failure. Hecht HS et al. JACC 2009; 54; 1949-1959

IVUSでのstent fractureの評価はその解像度ゆえに困難だというのが一般的な考えです。ですから臨床的に最も有力なstent fractureに対する診断方法は冠動脈CTと言えます。stent fractureに関連したステント内再狭窄まで評価しようと考えれば造影剤が必要ですがstent fractureだけ検査するのであれば造影剤は不要です。stent植込みを行った医師としての責任を果たすために、負担の少ない造影剤を使わないCTでの評価を考えてゆきたいと思います。

中澤先生の論文では植込み後わずか172daysで29%のfractureの発生です(interquartile range (IQR) 31-630 days)。5年、10年と経過した場合の発生はいかほどになるのでしょうか。FDAや厚生省が求める4億回の加速試験がどれほど役に立っていないかの証明のように思えます。臨床の結果はメーカーの試験結果を否定しています。同時に行政の認可をも否定しています。ステント植込みに携わる医師として、また、関わる学会として臨床の結果はこうだったよと言うだけではなくメーカーや行政に発言しなければいけません。