2011年2月3日木曜日

PCIの6か月後の冠動脈造影を原則しないと決心しました。


Fig. 1 LAD stent evaluated by MDCT

  64列MDCTの導入後、何時かしなければならない決断を今日しました。既に実施している施設にとっては今更の決断ですが 、PCI後の6か月後のCAGを止めようと決心しました。

  Fig.1に示すように64列MDCT導入後のステントの評価で、64列MDCTを導入後の4か月で大きな判断の誤りもなかったため6か月後にCAGをすることに意味があるかをずっと考えてきました。結論はMDCTで評価することで十分だということです。このブログの最大の読者は当院のスタッフですから、ここで宣言したら後戻りはできません。後戻りできないように宣言することに意味があるとも思います。半年前にPCIを実施した方に6か月後のCAGは止めてMDCTで済ませましょうとお話をしたところ大変な喜びようでした。16列時代には決断できなかったことが64列になって決断できました。


Fig. 2 JCS guideline for non invasive evaluation


Fig. 3 natural Hx after PCI in Pt with ACS (NEJM)

  Fig. 2は日本循環器学会が出している冠動脈疾患の非侵襲的診断法のガイドラインです。この中でPCIをする施設は、エビデンスもないのに6か月後にCAGを実施することを当たり前としてきたと指摘しています。その通りです。PCIの6-8か月後にCAGをする意味をしっかりと考えなければなりません。バルーンしかなかった時代、再狭窄率は40-50%程度あり、PCIの3月後、6月後に造影をする施設は少なくありませんでした。PCIの創成期には再狭窄が多かっただけではなく、発生する時期も分からなかった訳ですから頻回にCAGをする意味もありました。 BMSの時代になり再狭窄は若干減少しましたがやはり15-30%の再狭窄はあったわけですからこの時代にも再造影の意味はあったと思います。しかし、現在の薬剤溶出性ステントの時代になり再狭窄率は数%です。当院でも、昨年2月から使い始めたPROMUS stent (Xience V) の再狭窄は1例のみであり、頻度は1%を切っています。頻度が少ないこと、CAGをしなくても同等以上の評価がMDCTで可能なことを考えればもうfollow-up CAGの実施意義はありません。



  では、MDCTで評価する意味はあるのでしょうか。Fig. 3は今年の1月のNEJMです。Gregg W. Stone et al. A Prospective Natural-History Study of Coronary Atherosclerosis. N Engl J Med 2011; 364: 226-35
    PCIを実施された急性冠症候群の自然経過ですが、3年間で約20%のイベントを起こしています。2年後くらいから増加のペースは下ってきていますからPCI後2年の時点でも20%近いイベントの発生です。また6か月後でも10%近いイベントの発生です。この結果を見ればMDCTで評価する意味は十分にあると思います。 PCI後6-8か月で1回、2年後に1回位のMDCTでの評価が妥当ではないかと考えています。symptom orientedでルチーンには評価しないという方法と、私が考える症状がなくとも半年後と2年後にMDCTで評価するという方法で患者の予後が異なるかというようなスタディは存在しませんから、どちらが良いかなど誰も知りません。ただ、頻繁にCAGで評価するよりも良いのは間違いないところだと信じています。

    入院していただいてCAGを実施するのと外来でMDCTで評価するのでは、約10万円の医療費の差があります。当院の約200件のPCI後の6か月後の200件のCAGを止めるわけですから施設にとっては年間に2000万円の減収です。小さな鹿屋ハートセンターにとっては大きな減収ですが、個々の患者さんにとっては負担が軽減されます。また、国民医療費も節約できます。当院の利益よりも患者さん個々の利益、日本の国家の利益のほうが大切です。後戻りしない、ぶれない決断の宣言です。




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