2013年6月28日金曜日

本日未明に来院された急性心筋梗塞の方に対するPCIをサマライズしました。

 今朝2時半に胸背部痛があり4時前に来院されました。来られた時にはほぼ胸痛は消失しているとのことでしたが、心電図ではII, III, AVFでST上昇です。急性心筋梗塞ではいかに早くに閉塞した冠動脈を再開通させるかで死亡率は変わってきますから、緊急の冠動脈造影、PCIを行いました。

左冠動脈優位で右冠動脈はsmallでした。左冠動脈は回旋枝#13で完全閉塞です(図上段)。ワイヤーを通過させ、血栓を吸引すると赤色血栓・白色血栓を認めました。再開通した冠動脈を見ると分岐部直上の狭窄です。IVUSで観察すると分岐部には狭窄を認めません。このため分岐部直上にステントを置こうかとも一瞬思いましたが。15㎜のステントを持っていくと閉塞部より近位部から分岐する側壁枝にかかってJailになってしまいます(図中段)。閉塞していた分枝をJailしてしまうことよりも閉塞していなかった分枝をJailしてしまうのは梗塞範囲を大きくしかねません。分岐部直上にステントを置くという考えはすぐに捨て分岐部をまたぐ形でステント植込みを行いました。この方の冠動脈は前述のように左冠動脈優位です。心筋梗塞の急性期に閉塞部位よりも末梢の分枝まで血流を確保しなければならないかどうかはケースバイケースですが、優位な左冠動脈であったために本日はステントストラットまで拡張しました(図下段)。

シース挿入から拡張後のIVUSの確認まで約30分です。早朝に眠っている所を急に起こされたからと言ってミスは許されません。30分のカテ中にも考えるところは多くあり、また決断にも迅速さが求められます。とっさの判断が正しくあるために必要な経験は実施したPCIを振り返ることで身についてくると思っています。

そんな思いで今朝のケースを振り返りサマライズしてみました。


2013年6月24日月曜日

脳梗塞で人生を奪われた父に対する思いとワーファリンやNOACに対する思い

 6月20日に新規抗凝固薬(NOAC)の講演会に鹿屋医師会館まで行ってきました。脳梗塞治療を専門にする神経内科の先生のご講演です。こんな風に発症し、こんな風に進展してゆくのだよというお話を伺っていてずっと死んだ父のことを考えていました。

 10数年前に上肢の痺れを自覚しかかりつけの先生に受診しました。脳梗塞の発症を疑った主治医の先生は、父の自宅近くの大阪のナショナルセンターの脳内科に電話してくださいました。ナショナルセンターの先生はマヒがあるのかと質問され、ないと返事するとそれならば来院して何の治療をしてほしいのだと冷たく対応されました。しかたなく主治医の先生が入院下に様子を見ていると完全な片マヒに進展しました。再度、ナショナルセンターの先生に電話して下さった先生に返ってきた返事は「完成したマヒをどうやって治せというのだ?」と更に冷たい返事でした。困り果てた先生からの話を聞いた母からようやく私に連絡がありました。この大阪のナショナルセンターには循環器分野でよく知っている先生がおられたために、私から何とかお願いし転院は実現しました。入院後に発作性心房細動が見つかりました。大阪に駆け付けた私に、父は初めて子供の前で涙を流し、自分の人生は終わりだと嘆いたのでした。マヒが出現する前に相談を受けたのにもかかわらず診察を拒み、マヒが完成したら手遅れだろうと言った医師を許せないと思いました。

 その後、リハビリに精を出していた父は車いす生活までには回復したものの、片マヒを嘆きながら6年前に旅立ちました。

 この件が私をして心房細動の抗凝固療法へのこだわりを強くしたのだと思います。当時は抗凝固療法はワーファリンしかなかったのです。唯一の武器・戦友がワーファリンでした。私が診る患者さんには持続性であれ発作性であれワーファリンを処方し、脳塞栓を防ぐとともに脳出血も起こさないと緻密な管理を心掛けてきました。このため当院のTTRは75%を超えています。また、300名ほどの心房細動患者さんを6年以上管理し、脳梗塞や脳出血の発症はあったものの6年間の通算で両者の発症は10名にも満たないものでした。年率は1%を切っていると自負してきました。

 私がワーファリンに肩入れする気持ちは父に対する思いが原点です。それが故に思いが強くNOACに距離を置いてきたのかもしれません。もし、より良い成績がNOACで実現するのであれば、冷静であるべき医師である私の行動がこんな風に規定されてはならないと思っています。個人的なこだわりのために発症する脳出血があるとすれば、私は大阪のナショナルセンターの医師と変わらないではないかとさえ思います。

 十数年前の腹立ちは胸に納めて冷静に患者さんに向き合いましょう。

2013年6月14日金曜日

プラザキサ 75mg 2cap 2Xの処方で得られた十分な効果

  ワーファリンでINRが安定しない方には新規抗凝固薬(NOAC)の適応があると考えて最近はNOACを処方していると書きました。そんな1例です。決まったワーファリンの処方で上段の図に示すようにINRは4.0を超えたり1.0になったりです。80歳代後半の方で高血圧と心不全の既往もありCHADS2は3点です。小さくない塞栓症のリスクが存在するのでNOACを処方することにしました。

新しい薬は大事に育てたいと思っているので、CCrの低い方に間違っても処方しないように下段の図のようにカルテの問題リストには体重・身長・CRE値・計算されたCCr値・eGFR値を書くようにしています。また3月に1度はPT-INRとaPTT、血算を測定しようと思っています。この方のPT-INRは1.31でaPTTは80秒を下回っているものの59.5秒とNOACの効果で延長しています。十分に効果が出ているという評価で良いと思っています。

この方のNOACはオフラベルの使用量であるプラザキサ75mg 2cap 2Xの処方です。このオフラベルの量で充分に効果が発現しているのです。

一方、別の方ですが70歳代後半の女性で最初の方と同程度のCCr: 47、eGFR: 57の方ですがプラザキサ 110mg 2cap 2XでPT-INRが1.29、aPTTが42.9秒でした。

投与量の調節も不要で塞栓発生や出血が減少すると言ってもやはり効果には個人差が発生します。プラザキサの用法用量には最低の110mg 2cap 2Xしか記載はなく、よくある年齢や体重・腎機能で減量を考慮するようにとの記載がありません。このためルールに従えば上記の方の処方も110mg 2cap 2Xとなります。これで良いのでしょうか?ひねくれた私は平均体重80㎏で検討されたre-ly通りに処方していたら日本人では大きな問題が発生するのではないかと考え、出血のリスクの高い方、特に高齢・低体重の方にはオフラベルの75mg 2cap 2Xを処方しています。エビデンスのない使い方です。それで塞栓症が発生したら責任を取れるのかという人もいるかもしれませんが、ルールに従って発生した大出血だから責任はないと言い切れるのでしょうか?

2年前にブログを書き始めた時に、書くのにふさわしい内容が続くのだろうかと思っていました。しかし毎日書いている訳ではありませんが書こうと思えば、入院している方や外来に来られた方を一人一人よく考えると、読んでいただく人と共有できるテーマは毎日見つかります。それが臨床なのだと思います。難しくもあり面白くもありです。




2013年6月13日木曜日

非心臓手術前の心臓評価における循環器医の役割

 循環器外来をしていると他科からの術前の評価の依頼をよく受けます。この方は近くの泌尿器科からの照会です。高齢で運動負荷はできません。心電図に特に所見はありません。心エコーで評価した左室駆出率は63%と良好で壁運動異常も認めませんでした。リスクファクターは高血圧と経口剤を内服するDMです。胸部症状はありません。以前にも書きましたが多くの場合、症状がなく、心電図所見にも心エコー所見にも問題がなければそのまま心臓には問題ありませんと返事を差し上げています。ご本人やご家族には隠れた冠動脈の問題があるかもしれないけれどだからといって全例に冠動脈の評価をする訳ではない、何かあったらそれから対処するしかありませんねとお話ししています。

 全然科学的ではありませんが以前に書いたケースと同様に嫌な予感がして冠動脈CTで評価しました。3枝の高度狭窄を認めました。右冠動脈は#1からdelayでtandemに狭窄は続きます。左冠動脈は#11からdelayです。また前下行枝は#6からdiffuseに90%狭窄です。重症3枝病変でした。

鹿屋市内には麻酔科が勤務する泌尿器科は存在しません。この結果をみて麻酔医の常勤する病院での手術をお勧めしました。紹介して下さった泌尿器科の先生もその判断に納得してくれました。

2011年9月26日付当ブログ「非心臓手術前の心臓評価 二重基準の狭間で彷徨う循環器医」に最近コメントを頂きました。2年近くも前の記事を読んでいただき、なおかつコメントを頂き、ありがたいことだと思います。随分前の記事に対するコメントなのでコメントして頂いたことにしばらく気づきませんでした。コメントは下記です。

あんたはアホか?(はっきり言い過ぎてごめんなさい。)手術をするのはあくまで主治医(外科医)と麻酔科医の判断です。循環器内科医は術前の心機能評価を依頼されたのであって、手術の可否は主治医と麻酔科医に委ねるのが常識です。それを依頼があったからといって、ノコノコ、判断に意見するから責任転嫁のリスクが発生するのです。心機能評価をして結果を客観的にご報告して差し上げる事で十分な仕事をしているものとお考え下さい。確かに、上記のような一例もあるでしょうが、それはリスクを省みてまで毎回行うべき方法ではありません。

循環器医は心機能評価を依頼されただけだからその結果を客観的に報告するだけで良いのだ、余計なことをするから責任転嫁されるのだとお前はアホだと言われてしまいました。本日お示ししたケースが周術期に問題を起こしても循環器医は問題を予見できなかったのだから責任を問われなくてそれで良いではないかということでしょうか。しかし、これでは医師は自分の身を守れても患者の安全は二の次になってしまいます。自分がリスクを負ってでも患者の安全を考えることをアホと言われるのであれば私は今後もアホを続けると思います。外科医と麻酔科医が手術の可否を決めるのだと言っても麻酔科医はどのように可否を判断するのでしょう?この冠動脈の所見を知っていても知らなくても麻酔科医の手術の可否の判断は変わらないのでしょうか?

かつて急性心筋梗塞急性期の冠動脈造影は禁忌でした。しないことが常識でした。DeWoodの急性期の冠動脈造影、Rentropの冠動脈内血栓溶解療法、GruentigのPTCAいずれも発表当時は正気の沙汰とは思われませんでした。しかし、この非常識な試みがあって今のPCIの大きな役割が確立し、急性心筋梗塞症の死亡率は激減しました。現状を良しとせず、自らの医師としてのポジションを危機にさらしてまで挑戦するものが存在して医学、医療は発展してきたものと思っています。冠動脈疾患を持つ患者の非心臓手術というテーマはこれら先人の偉業程には大きなテーマではないかもしれませんが、自らに火の粉がかぶらないことを第一に考えるやり方は冠動脈インターベンションに関わる医師にはそぐわないと思っています。外科医も同じことだろうと思います。小さくなったとはいえ冠動脈インターベンションはリスクを伴う医療です。医師自身にかかるリスクを100%回避しようと思えばPCIなどできる筈がありません。自らに火の粉がかからないことを第一に考える日が来た時、私はカテを置きたいと思います。


2013年6月10日月曜日

Stent jailになった分岐部に対するワイヤークロス

今日は小さな話です。Cx入口部に高度狭窄がありLMTにもプラークがあります(上段)。中断の図はPCI後です。Cxにステント植込みをし、次いでLADに向かってステントを植込み、その後Cxに向けてワイヤークロスをし直しました。しかし、1.25㎜バルーンでもステントストラットをクロスすることができませんでした。このため もう少し遠位部を狙ってワイヤーを通過させた後バルーンクロスを試みるとすっと通過しました。ステントストラットをバルーンが超えない時にだれでもする手技ですが、最下段の図が2本目のワイヤーを通した後の撮影です。パソコンの図で確認できるでしょうか?ワイヤー1-2本分程度、遠位部からワイヤーが入っています。

分岐部に向かってワイヤーをステントストラットにクロスさせる時、なるべく遠位部からとよく言いますが、通過したワイヤーと通過しなかったワイヤーの通過部位の差はごくわずかです。私は透視像を肉眼で見て確認できないと思います。

ワイヤーが通過したにもかかわらずバルーンが通過しない時、ほんの少し遠位部を狙ってワイヤーをもう1本出すしかないと思います。


2013年6月9日日曜日

新規抗凝固薬(NOAC)のイケイケドンドンの講演会を聞いて、感心するとともに大事に現場で育てなければならないと意を強くしました

PCIの歴史の中でステントの登場は画期的でした。急性期の死亡や緊急手術といった合併症をドラスティックに減少させ、続く薬剤溶出性ステント(DES)は再狭窄を劇的に減少させました。バルーン単独では30-40%が再狭窄していたものが最初のBare metal stent(BMS)であるパルマッツシャッツステントで20%程度に再狭窄は減少しました。60-70%の方はバルーン単独で再狭窄を免れていたのですがステントが普及するとPCIを受けるほぼ全例がステントを植え込まれました。また、DESが登場するとBMSで再狭窄を80%の方は免れるにもかかわらずほぼ全例の方がDESを植え込まれるようになりました。より良い成績のものがすべてを席巻するという世の習いのように思います。

バルーン単独とBMSの再狭窄率が比較されていた頃、バルーン単独の再狭窄率40%に対してBMSのそれは15%等と優位性が喧伝されました。次いでDESが登場しBMSの再狭窄と比較されると、DESの数%に対してBMSの再狭窄率は25%であったなどと論文が出されました。バルーン単独と比較した時には15%の再狭窄であったのにDESと比較すると25%に上昇するなんて不思議な話だと思ったものです。新たな製品が登場すると古い製品はけなされる運命のようです。

6/8 新規抗凝固薬(NOAC)であるプラザキサの発売2周年講演会に行ってきました。75歳以上の高齢者でもワーファリンと比較して脳出血の頻度が少ない、腎機能低下例でも・抗血小板剤併用患者でもワーファリンと比較して脳出血は少ないなどと講演は進みました。また脳出血を起こしても重篤にはなりにくい等という講演もありました。こうしたデータを疑っているわけではありませんが、あまりにイケイケドンドンで逆に心配になりました。会の最後の方でH大学のO教授が発売半年後に重篤な出血などで死亡例が出てブルーレターが出たことを忘れてはいけないと発言されたのでようやく救われた気分になりました。

図はプラザキサの市販後調査の最終報告の一部です。図に示された方は全例重篤な出血があった方です。そのうちプラザキサの使用禁忌となるクレアチニンクリアランス(CCr)が30ml/min以下で私たちがよく使う指標であるeGFRが30ml/min/1.73m2以上であった症例です。ほぼ全例が高齢で低体重です。1例目の方のCRE値は0.78です。しかしCCrを計算すると25.7ですから禁忌症例です。CRE値で判断してもeGFRを計算しても禁忌例であることは分からないのです。本当に注意が必要です。

講演会の中では質問の時間がなかったので懇親会でO教授に質問しました。CCrが40未満の方ではプラザキサを処方しないとO教授が言っておられたので「ではそのようなケースではより出血リスクの高いワーファリンを使用するのか?」と尋ねました。返ってきた来た答えは「エリキュースが良いかもしれないとも思うし、オフラベルだけれどプラザキサ1日150㎎が良いかもしれない」とのことでした。そしてその答を得るためにスタディーが必要だと言われました。質問してよかったと思いました。

今でも心臓に人工弁が入っている方や僧帽弁狭窄症に伴う心房細動患者さんではワーファリンが唯一の抗凝固薬です。50年も連れ添ったパートナーを、それもまだ確実に必要なのに、新しいパートナーができたからといってあまりにけなすのもいかがなものかと思っています。また、新しいパートナーをあまりにイケイケドンドンで持ち上げるのもいかがかと思っています。確かにNOACがワーファリンより多くの場面でより良いのだと思います。しかし、まだ2年しか経過していない若い薬です。高齢者・低腎機能・低体重・抗血小板剤併用患者などでの使用でまだ解決しなければならない課題が残っているように思っています。現在、国内で約100万人の方がワーファリンによる抗凝固療法を受けていると言われています。プラザキサの処方を受けておられる方は約20万人と聞きました。全症例の20%未満の方しか処方を受けておられないのは課題が残っているという循環器医の意思表示のように思います。またプラザキサを処方されている方の10%はオフラベルの投与量である1日150㎎の処方だとも聞きました。敢えてオフラベルの処方をしている医師の危惧は決して小さくないのです。より多くの方がNOACの恩恵を受け、心房細動による塞栓症を免れ、抗凝固薬による脳出血を免れるように願うとともに、スタディーなどで協力できるところがあれば微力を尽くしたいものだと思っています。

2013年6月7日金曜日

新規抗凝固薬に対する私の考え方が変わってきました

明日6/8に福岡でダビガトラン発売2周年の講演会が開かれます。勉強に行くつもりです。ただ手ぶらで講演会を聞きに行っても良いのですが、何度もこのブログでも書いてきた関心のある分野ですから考えを整理してから講演会を聞きに行った方がより意義深いかと思っています。

私が心房細動患者さんの抗凝固療法はワーファリンを中心に考えてきているといった理由は2つです。一つは抗血小板剤との併用でも新規抗凝固薬(NOAC)は安全なのかというデータがないこと、もう一つはワーファリンで十分に管理されている方で薬を変更する必要があるのかという点です。

昨年3月に当院に通院されている心房細動患者を分析しました。慢性心房細動に限ると133名通院されているうち29名(21.8%)の方はPCI後や下肢のEVT後で抗血小板剤を内服しておられました。こうした方ではやや緩めのINRの管理しかないだろうと思っています。また、平均のTTRは75%程度でしたので、TTRが低値(INRが不安定)の方は25%程度です。ずっと最近までこの25%の方のみがNOACの適応ではないかと考え、こうした方のみにNOACを処方してきました。ただ、INRの不安定な方の多くは高齢ですので抗血小板剤を内服していたり、腎機能が悪かったりでNOACの使用が難しい方たちです。ワーファリンを使いづらい方たちはNOACも使いづらいのです。ですから慢性心房細動で当院でNOACを処方している方は10名ほどです。

しかし、最近、少し考えを改めました。INRのコントロールが良いケースではNOACが必要ないのではないかと考えてきましたが、ワーファリンで管理されていない初診の心房細動患者さんにまでワーファリンによる管理を始めなくても良いのではないかと考え始めたのです。図の方は無症状で検診で異常を指摘されて来院された方です。心房細動で左房径も拡大し始めています。抗血小板剤を内服しているわけでもない、ワーファリンによるコントロールがなされているわけではない方ですので、私がNOACを使用するのをためらう2つの理由がない方です。こうしたケースで最近は少しずつ最初の治療としてNOACを始めています。もちろん腎機能をチェックし、処方後2週間ほどでINRやaPTT、血算をチェックし、出血に対する十分な説明も行ってのことです。こうして始めて見るとやはりNOACはワーファリンと比べて楽です。何も血液検査もしなくても良いというほど楽な管理ではないですが、ワーファリンを開始してからINRが安定するまでの時間を考えると手間がかかりません。

現在、NOACとしてダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンの3種が使用可能ですがどの製剤が良いのでしょうか?直接に比較した研究が存在しないので何とも言えませんが、基本的には同じような傾向で、出血性合併症はワーファリンよりやや少なく、塞栓症の発生もワーファリンよりやや少ないというそれぞれのデータです。もしこのデータが正しいのであれば、より塞栓症や出血のリスクが高い高齢者や腎機能低下例でNOACの使用が難しいのは問題なのではないかと考えています。

当院の慢性心房細動患者133名の中で74歳以下の方は58名でした。この中で腎機能低下例は5名で、更に残った53名中12名の方が抗血小板剤を内服されていたので、いずれの条件にもかからない方は僅かに41名 30.8%でした。残りの70%の方にもより塞栓リスクを減らし出血リスクを減らしてという工夫はできないものでしょうか?

心房細動という巨大な患者群の70%が恩恵を受けることができないのではNOACの価値も小さくなってしまいます。高齢者や腎機能低下例、低体重患者、抗血小板剤内服患者におけるNOACの使用法を考えることは今後の重要なテーマと思えてなりません。

明日の講演会でよく勉強してきましょう。