2013年12月25日水曜日

新しい薬剤では使ってみて初めて理解できることも少なくありません。イグザレルト内服患者を診て気付いたこと

発症時期のはっきりとしない慢性心房細動の60歳代前半の方です。体表面エコーでの左房径は44㎜と若干拡大しています。心不全も高血圧も糖尿病もありません。CHADS2: 0点の方です。腎機能に問題はなくクレアチニンクリアランスは82です。5月から受診され、脳塞栓症になると取り返しがつかいことをよく説明し、イグザレルト15㎎(Ribaroxaban)だけを処方していました。

この方がふらっとして倒れそうになったとのことで救急受診されました。神経学的な欠落症状もなく、CTで脳出血も認めませんでした。きちんと内服しているかと尋ねると欠かさずに内服しているし、今朝も内服してきたと言われます。

図は救急受診時の採血結果です。PT-INRも1.52ですし、APTTもやや延長していますし本人の言うようにちゃんと内服しているようだと判断しました。経過を見るために1泊だけ入院してもらいました。入院して、病棟のナースが残薬を確認したところ2か月分のイグザレルトが残っていました。あれほどきちんと内服しないと取り返しがつかないと説明していたのにです。

ワーファリンであればきちんと内服していない方であればPT-INRが低値になるのでアドヒアランスが不良なことはすぐに把握できます。しかし効果発現が速いイグザレルトでは数か月に1度採血する朝だけ内服していればアドヒアランスが不良なことは分かりません。このような方を経験したことで、イグザレルト内服患者には要注意だということがよく分かりました。

プラザキサ、イグザレルト、エリキュースの3つの新規抗凝固薬の中でイグザレルトは最も成績が芳しくなかったと認識しています。しかし、3つのスタディーの中で最もCHADS2 scoreが高い対象でスタディーが組まれたことも事実です。現在、国内で他のスタディーと同等のCHADS2 scoreの群でイグザレルトを使用してどのような結果が出るかスタディーが進行中です。まだ新しい薬剤ですから先入観を持たずに経験を積むことが大事であると考えこのスタディーに協力することを決め、このため当院の患者さんにもイグザレルトを使用しています。使用して初めてこんなこともあるのだと分かりました。やはり食わず嫌いではその良さも欠点も分かりません。大規模スタディーだけでは分からない経験も大事にしなければと再認識です。

2013年12月24日火曜日

医師である診療報酬審査委員のみが、現場の医師を苦しめます。

カルベジロールという薬剤があります。循環器医が心不全患者によく使用する薬剤です。ただ先発品である「アーチスト」には心不全に適応があると記載されていますが、全く同成分である後発品(ジェネリック)にはこの適応はありません。適応がないだけではなく、心不全には禁忌とされている製品も存在します。ジェネリックの使用を促進する厚生労働省が、先発品には適応があると言い、後発品は禁忌であるという矛盾した指導をしているのです。

 もちろんこんな仕組みでは混乱が起きます。医師が少しでも患者さんの経済的な負担を減らしてあげようと考え、国の医療費をさげる努力に協力しようと考え、心不全患者さんにこのジェネリックを使用すると原則査定されます。おかしな話です。

こんなおかしな制度の狭間で経済的な損失を被る医師をかばうために診療報酬の審査委員の中には目をつむる方もおられます。患者さんに対しても、国家に対しても善意で行った行為を、杓子定規に査定しなくても良いだろうとの考えです。こうした考え方は善きサマリア人の法(Good Samaritan law)の考えに似ています。善きサマリア人の法は「災難に遭ったり急病になったりした人など(窮地の人)を救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人ができることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない」というものです。こうした考え方は医師であれば得心の行くものでこの考え方をする医師とは働く環境や国が違っても仲間意識を共有できます。

 とはいえ「悪法も法」ですから、審査委員の先生も無理をせずにルールだから我慢してねというスタンスでも不満はありません。このようにある県では杓子定規にルールを適応し、ある県では融通があるというような各県ごとの審査の違いは現実に存在します。そのように各県による審査の違いは存在しても、違いがあるから各県の審査は独自性を持っているのだという訳ではありません。全国共通のルールの下に保険診療は成り立っているはずです。

 先日来のIABPが査定された件で納得できる説明をお願いしていますが、鹿児島県国保連合会は面談して説明してくれません。そこで鹿児島県福祉部保険医療福祉課国保指導室に説明してくれなくて困っていると電話を入れました。指導室の方は裁判などの手間をかけずに説明してくれれば良いと思うが、国保連合会を指導する立場にないと言われました。そして国の出先機関である九州厚生局に相談すればどうかと教えてくれました。早速、九州厚生局に相談の電話を入れました。厚生局の方は国保連合会は説明する義務を負っていると言ってくれました。ただ指示する立場ではないので県の指導室が指導すべきだと言われます。話が前に進みません。

 そうこうしているうちに国保連合会診療報酬審査委員会からの文書が本日郵送されてきました。図です。査定は医学的な問題ではない、冠動脈造影と一連の医療行為だから保険診療として認められないのだ、他県で認められても各県に独自性があるのだから理解しろ、また面談は行わないという方針を理解しろとのことです。

 相変わらずです。私が説明を求めているのは冠動脈造影に引き続き実施したIABPは一連の医療行為だから保険診療として認めないというのであれば根拠となる規則や通知・通達があるのかを示してほしいということです。国保連合会の事務方は明確にそのようなルールはないと言っているのです。ルールが存在するのであれば従います。ルールがないのにもかかわらず、審査委員が勝手に査定しているように思えるので不服を申し立てているのです。

国保連合会の事務方も、県の国保指導室も、九州厚生局の方も皆さんが私が説明を求める理由を理解してくれているのに、医師である審査委員会のみが理解してくれません。このような医師が医師会から県に推薦され、県知事から委嘱され審査委員となっているのが鹿児島県です。とても医師同士の仲間意識を持てません。
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2013年12月21日土曜日

怒りにまかせて行動しないように冷静に問題を解決していきたいと思っています。

2013年ももう終わりです。年が明ければ私も還暦です。かつては瞬間湯沸かし器と揶揄されるような短気でしたが、今は一息つく余裕を持っていると思っています。怒りにまかせて行動して良い結果が出た記憶もなく、怒りにまかせて行動することを良いとは思わない分別が今更ながら出てきたと思っています。

ただ、昨日は怒りにまかせて行動はしないものの文章に怒りをぶつけた様な気がします。落ち着かなければと思います。暴走しそうになる時に瞬間的に「落ち着け!」というようなブレーキはPCIをやっている時など、瞬間瞬間で出てきます。そうした感情のコントロールができなければ侵襲的な治療をするべきではないとも思っています。

冠動脈造影をするだけで血圧が40に下がるような重症3枝病変例に救命のためにIABPを使用しました。

これに対して冠動脈造影時のIABP使用は一連の医療行為であるから認められないというのが今回の事例です。

冠動脈造影時にIABPを使用することを制限するルールを私は知りません。IABPを使用するために使ったX線透視は算定できないというルールはもちろん知っています。ですから国保連合会にどうして算定できないのかと質問しました。事務方の回答は算定できないというルールは存在しないので医師である審査委員の医学的な判断だと思うという回答でした。

ではどのような医学的な判断かと尋ねると救命的な医療行為で医学的に問題があるとは言っていない、保険診療上認められないという判断だと回答されました。では医学的な判断でなければルール上の問題なのだからそのルールはどこにあるのだと質問すると医学的な判断だとまた回答されます。堂々巡りです。冠動脈造影時にIABPを使用することに医学的な問題があるとも言われました。審査委員は冠動脈造影と一連になっていないIABPの使用しかIABPは保険診療上認められないと考えているのでしょうか。

8月のブログにも書きましたが、冠動脈造影と一連になっていない状況でのIABPの使用はほとんど存在しません。開心術後の遷延する低血圧・心原性ショック時位でしょうか?ほぼ負け戦の敗戦処理の様の使用です。この場合は認められるが、IABP使用下に心原性ショックにの原因を是正し救命するような本当に役立つようなIABPの使用は認められないというのであれば、保険診療は何を目指しているのだという根源的な問題に行きつきます。

6-8万円程度のことでガタガタとしつこく言うなという発想も理解できますし、そこは我慢した方が得だよという考えも理解できます。「お上」に逆らうよりも大人しくしている方が得だという発想で正しい努力を否定するような考えが固定することを恐れています。鹿屋ハートセンターだけの問題ではなく鹿児島県の循環器医全体に関わる問題だと思っています。

裁判を提起すれば、審査委員も公の場で査定の理由を述べなければなりません。どうせ口頭で説明しなければならないのであれば面談の場で話をしてくれれば、余計な時間も裁判費用も発生しません。なのに何故かたくなに面談を拒否されるのか理解できません。やはり面談を拒否される審査委員会会長は公的なポジションにつくのにはふさわしくない人物だと思えてなりません。

裁判は最終的な手段だと思います。国保連合会を管轄する県や厚生労働省に面談してもらえなくて困っていると相談しましょう。また審査委員を県知事に推薦している医師会にも相談してみようと思います。拒否し続ければそのうちに諦めるだろうと思われているかもしれません。私の現役時代はもう長くないと思っています。後に続く後輩のために泥をかぶっても諦めない意思だけは持ち続けようと思っています。

2013年12月20日金曜日

鹿児島県で保険診療を行うのは疲れます。

 自分が正当な診療と考える医療行為を行ったにもかかわらず、その行為が否定された時、診療報酬支払基金や国民保健連合会をすぐに訴えてやるなどとはもちろん思っていません。なにゆえ、認められないのか説明を求めて納得し、次からの診療に活かしたいと思っています。

 しかし鹿児島県ではこんな当たり前と思える考えが成立しません。

 まだ解決していないのかと思われるでしょうが、2013年8月8日付当ブログ「なぜ血圧40の危機的なな状況で行った努力が鹿児島県国保では否定されるのでしょうか」に書いた大動脈バルーンパンピングの使用が査定された件が解決していません。

 当初、冠動脈造影時のIABPの使用は一連の行為なので算定できないと言われたために、そのようなルールはどこにあるのかと質問していました。事務方の回答はそのようなルールは存在しないので審査員による医学的な判断だと思われるので事務方からは回答できないと言われました。では医学的な判断で使用を認められないのはどうしてかと質問していました、救命のために努力されたことを否定しているのではない、「保険診療上、一連の行為は医学的に認められないのだ」と言われました。こんな言い方ではルール上認められないのか、医学的に認められないのか訳が分かりません。そこで多くの友人のアドバイスに従い、面談での説明をお願いしました。この経緯は2013年8月27日付当ブログ「鹿児島県国保 診療報酬審査委員会はいつから治外法権的な権限を持つようになったのでしょうか?」に書きました。面談して説明するなどということを鹿児島県ではやっていないと言われましたが何とかお願いできないかと申し入れ、ずっと回答を待っていました。しかし回答は来ませんでした。

 このためしびれをきたして12/18に私から3月前にお願いした面談はどうなりましたかと電話を入れました。すると12/19に審査委員会が開催されるので待ってくださいとの返事です。3か月間、待たせて明日相談しますとはなんという無恥なのかと思いましたが、昨日12/19を待ちました。回答は面談しての説明はしないということです。理由は平成10年に面談して説明したことが一度あったが、その時に暴力沙汰が発生したからだというのです。開いた口がふさがりません。十数年前に一度そんなことがあったからというのが説明の拒否理由になると思っているのでしょうか? その判断は診療報酬審査委員会の会長の判断だそうです。

 もう一度お願いしました。もう査定した診療報酬を認めろとは言わない、算定ルールにない査定を医学的には認めるが保険診療上は認めないという矛盾した回答では次のIABP使用時に困るのでよく説明してほしいとだけお願いしました。本日、回答を得ました。やはり面談は拒否です。

再審査制度を利用しないで、診療報酬の査定はおかしいと裁判を起こされた先生がおられました。厚生労働省の主張は再審査制度を利用してから訴えるべきだというものでした。ですから私は再審査をお願いし理由の説明を求めてきました。しかし鹿児島県国保連合会診療報酬審査委員会の回答は拒否です。

「訴えろと言うことですか?」と聞いても、「審査委員会の名簿の開示請求をしろということですか」と尋ねても先生の判断ですよねと言われるだけです。

診療報酬審査委員会の会長は鹿児島県知事の委嘱による人事です。もっとまともな人選をしてくれよと心から思います。開示請求をしたり裁判を起こしたりでおかしな医者だと思われるのではないかと嫌になります。でもこんなにいい加減な国保連合会であれば仕方がないのかとも思います。

鹿児島県で保険診療を行うのは疲れます。