本日のブログは医療とは直接関係ない話です。2017年からの10%への消費税増税で、低所得者への逆進性を少なくするために、あるいは重税感を和らげるために軽減税率の導入が与党である自民党・公明党で議論されていると連日報道されています。加工食品を含む外食以外の食品すべてに軽減税率を適応することで与党はほぼ一致したと報道されています。8%に据え置かれるために減少する1兆円の財源をどうするかということに議論の軸足が移っているようです。
10%の消費税を8%に据え置くことで1兆円も税収が減るのかと漠然と考えていました。しかし、ふと考えたのですが本当に1兆円なのでしょうか?
一般に消費税を1%上げると2兆円の税収増と言われています。確かに財務相のWeb siteのグラフをみても5%の消費税で税収は10兆円です。では8%から10%に2%消費税が増えることで増える税収は4兆円の筈ですから、このうち1兆円 25%が食料品なのかと食料品の割合が結構高いのだなとこれも漠然と感じていました。
そういえば消費支出の中の食糧費の割合がエンゲル係数ですから日本のエンゲル係数はどうなっていたかなと見たのが下の表です。およそ25%です。では計算が合っているなとこれも簡単に思い込みました。
しかし、今日になってこれって本当か?と考え始めました。消費税は各世帯の消費活動にだけ課税されているわけではありません。法人の消費にももちろん課税されておりこちらも少なくないはずだと考えました。病院で購入する薬剤や医療用の消耗品、CTなどの医療機器などの購入でも消費税は支払っていますし、医療機関だけではなくすべての法人が何かを購入する時には消費税を支払っています。各世帯での消費がすべてであるならば25%の1兆円で計算は合いますが、法人の消費活動が加わると必然的に食料品の消費から得られる消費税の割合は25%を下回る筈です。それも少なくない割合で25%を下回ると推測できます。新聞社も国会議員もこの1兆円の財源が必要だというのを当たり前に受け入れているようですが事実なのでしょうか?疑問に思います。
この1兆円の財源のために低所得者の医療介護の負担に上限を設ける「総合合算制度」の創設が見送られたそうです。低所得者の負担を減らすために設ける食品に対する軽減税率の導入のために、低所得者の医療介護の負担を減らさないというのです。ではこの消費税の増税は何のためなのか訳が分かりません。
1兆円って本当かと感じ始めた疑問が私の単純な間違いであれば、誰かが教えてくれるとありがたいです。新聞に書いてあるから本当でしょと素直に思えると良いのですが。
2015年12月13日日曜日
2015年12月3日木曜日
心房細動患者に実施される2剤の抗血小板療法(DAPT)の期間短縮や中止は冠動脈カテーテル治療医が頑張らないと実現できない
心房細動患者に冠動脈内ステント植込みを行った際の、2剤の抗血小板剤の処方(DAPT)をどうするかの最終回です。
上段の図のEHRA practical guide 2015では、Bare metal stentや新しい世代の薬剤溶出性ステント(DES)を待機的に植込んだ時にはDAPT期間は1ヶ月としています。その後6か月ないし12か月の1剤の抗血小板剤と抗凝固薬の2剤の処方の期間を経て、1年以後は新規抗凝固薬(NOAC)単剤にするというシナリオです。3剤の処方は1ヶ月で十分だというエビデンスも、1年以後はNOAC単剤で良いという十分なエビデンスもありません。
1年以後に関しては複数の研究がスタートしていますし、1ヶ月で十分ではないかという検証試験はもうすぐスタートする予定です。
こうした抗凝固薬を内服している患者でDAPT期間を短縮した場合、出血性合併症は確実に減少するでしょうが、最も大きな懸念は、ステント血栓症のために死亡事故が起きないかという点です。
このシナリオが一般的になった時、ステント植込み後の患者を診ているかかりつけの先生は1年が経過したから抗血小板剤を止めると決断できるでしょうか?ステント血栓症が発生し苦しくなった時に救急で受け入れる形ができていなければ自信を持って中止できないだろうと考えます。もうステント血栓症が発生する可能性は低いけれども、もし発生した時にはすぐに対応するから我慢しないで連絡してくださいと冠動脈のカテーテル治療医がお話ししないとこのシナリオは実現できないのではないかと思います。
循環器診療が専門だといっても循環器領域の中でさえ専門分野の細分化は進行しています。不整脈を専門にする先生や冠動脈のカテーテル治療を専門にする先生といった具合です。不整脈を専門にしている先生が診ている患者さんに冠動脈ステント植込みがなされた場合、DAPT期間の短縮やDAPTの中断はなかなか決断しにくいだろうと思います。
かかりつけ医や不整脈専門医と冠動脈のカテーテル治療医の連携、あるいは急変時の冠動脈カテーテル治療医のバックアップがあってDAPT期間の短縮や中止は可能になると考えます。そう考えれば、日本循環器学会の心房細動治療ガイドラインにステント植込み後の患者の管理について記載がないのも頷けます。冠動脈カテーテル治療を専門にする医師が委員になっていないからです。
来るべき改訂版では、カテーテル治療医も参加してこの分野のガイドラインが日本でも完成するように願っています。
2015年12月2日水曜日
究極のDAPT回避法 PCIをしないあるいは薬剤溶出性ステント植込みをしないという選択
薬剤溶出性ステント植込み後の2剤の抗血小板療法(DAPT)の第3弾です。抗凝固療法を受けている心房細動患者の冠動脈疾患を見た時の究極のDAPT回避法を考えます。
答は簡単です。ステント植込みをしないという選択です。最上段の図の方には、矢印で示すように回旋枝の分枝に90%狭窄を認めます。潅流域もきわめて小さいという訳ではありません。初診時に労作時の胸痛もありました。胸痛があり潅流域もそれなりにあるという場合、心房細動合併でなければPCI,ステント植込みをしても何も問題ないと考えます。しかし、心房細動合併の場合、この狭窄を放置するリスクと3剤の抗血栓剤を内服して脳出血を起こすリスクはどちらを優先して考えるべきでしょうか?この狭窄を拡げるために命を懸けるほどでもないと判断しました。この方は内服で日常生活で胸痛を感じることもなくなりました。
このように、狭窄があるからあるいは胸痛のような症状があるからといって、すぐにPCIを選択するのではなく、PCIを選択することで派生するリスクを考慮してPCIの実施を決定すべきと考えます。
中段の方は左冠動脈主幹部が責任病変の不安定狭心症でした。プラークの破裂像もあり緊急で主幹部にステント植込みを行いましたが、3剤の抗血栓剤内服中に脳出血で亡くなられました。もし、バイパスを選択しておれば違った経過だったかもしれないと忘れられないケースです。
心房細動を合併する冠動脈疾患では、合併しない冠動脈疾患とは少し異なる適応でPCIを考えるべきだと思っています。カテーテル治療ができるからするのではなく、できるけれどもしないという選択が重要なケースが存在すると思っています。
下段の図は、EHRA practical guide 2015からの引用です。Elective PCIの場合、CABGやバルーン単独の治療も考慮しなさいと記載されています。私のPCIあるいはステント植込みをしないという選択もあるというのと同じコンセプトです。
また、この図の下には低用量のNOACも考慮しなさいとの記載もありますが、低用量のNOACとDAPTでは脳出血が少なく、ステント血栓症も少ないというエビデンスがあるわけではありません。一般にガイドラインはエビデンスに基づいて作成されますが、ヨーロッパでは循環器だけかもしれませんが、ガイドラインができてから裏付けるエビデンスを求めるという風に感じます。エビデンスが出るまで放置される患者を救うためにおそらく良いだろうと思われる戦略を先行させるという考え方にも一理あるとも思いますが、日本ではこのような方針を学会は提案できないだろうと感じます。
エビデンスに基づいてガイドラインを作成する日本循環器学会の心房細動ガイドラインにはDES植込み後の抗血栓療法をどうするかという記載は一切ありません。また、最終のガイドラインは2013年版です。毎年、更新されるヨーロッパとは熱心さが異なります。エビデンスがないから放置ということで良いのかと感じます。
答は簡単です。ステント植込みをしないという選択です。最上段の図の方には、矢印で示すように回旋枝の分枝に90%狭窄を認めます。潅流域もきわめて小さいという訳ではありません。初診時に労作時の胸痛もありました。胸痛があり潅流域もそれなりにあるという場合、心房細動合併でなければPCI,ステント植込みをしても何も問題ないと考えます。しかし、心房細動合併の場合、この狭窄を放置するリスクと3剤の抗血栓剤を内服して脳出血を起こすリスクはどちらを優先して考えるべきでしょうか?この狭窄を拡げるために命を懸けるほどでもないと判断しました。この方は内服で日常生活で胸痛を感じることもなくなりました。
このように、狭窄があるからあるいは胸痛のような症状があるからといって、すぐにPCIを選択するのではなく、PCIを選択することで派生するリスクを考慮してPCIの実施を決定すべきと考えます。
中段の方は左冠動脈主幹部が責任病変の不安定狭心症でした。プラークの破裂像もあり緊急で主幹部にステント植込みを行いましたが、3剤の抗血栓剤内服中に脳出血で亡くなられました。もし、バイパスを選択しておれば違った経過だったかもしれないと忘れられないケースです。
心房細動を合併する冠動脈疾患では、合併しない冠動脈疾患とは少し異なる適応でPCIを考えるべきだと思っています。カテーテル治療ができるからするのではなく、できるけれどもしないという選択が重要なケースが存在すると思っています。
下段の図は、EHRA practical guide 2015からの引用です。Elective PCIの場合、CABGやバルーン単独の治療も考慮しなさいと記載されています。私のPCIあるいはステント植込みをしないという選択もあるというのと同じコンセプトです。
また、この図の下には低用量のNOACも考慮しなさいとの記載もありますが、低用量のNOACとDAPTでは脳出血が少なく、ステント血栓症も少ないというエビデンスがあるわけではありません。一般にガイドラインはエビデンスに基づいて作成されますが、ヨーロッパでは循環器だけかもしれませんが、ガイドラインができてから裏付けるエビデンスを求めるという風に感じます。エビデンスが出るまで放置される患者を救うためにおそらく良いだろうと思われる戦略を先行させるという考え方にも一理あるとも思いますが、日本ではこのような方針を学会は提案できないだろうと感じます。
エビデンスに基づいてガイドラインを作成する日本循環器学会の心房細動ガイドラインにはDES植込み後の抗血栓療法をどうするかという記載は一切ありません。また、最終のガイドラインは2013年版です。毎年、更新されるヨーロッパとは熱心さが異なります。エビデンスがないから放置ということで良いのかと感じます。
ラベル:
Af,
DAPT,
NOACs,
renal artery stenosis
2015年12月1日火曜日
心房細動患者さんに対する薬剤溶出性ステント植込み後にDAPTは必要でしょうか。 ステント血栓症予防の歴史から考えました。
昨日は、一般的な薬剤溶出性ステント(DES)植込み後の2剤の抗血小板剤(DAPT)の投与期間について書きました。本日は、DAPTの投与期間についてさらに難しい問題がある心房細動患者での薬剤溶出性ステント植込み後の管理について考えたいと思います。
心房細動患者に少なからず発生する脳塞栓症や全身塞栓症を減少させるためにワーファリンや新規抗凝固薬(NOAC)による抗凝固療法は必須です。こうした抗凝固療法を受けている方がDES植込みを受けた場合、どうすればよいのでしょうか。DAPT+Warfarinの処方を受けた患者と、Thienopyridine+Warfarin (アスピリンの処方なし)の処方を受けた患者での成績をみたWOEST trialの結果が最上段です。明らかに3剤の処方では出血性合併症が増えました。それでもステント血栓症を防ぐために3剤の処方が必要なのでしょうか。
そもそもステント植込み後にDAPTが必要なのかから考えたいと思います。2番目の図は、Patmatz-Schatz stentの最初の使用経験の成績です。ステントが人体に使われ始めた頃の成績は惨憺たるものでした10%を超えるステント血栓症が発生し、当初は使い物にならないという評価だったのです。ステント血栓症予防のために使用された薬剤はワーファリンでした。図に示すようにASA+Dipでは防げなかったステント血栓症がワーファリンによって防げたのです。ワーファリンにはそもそもステント血栓症を防ぐ効果があるのは明らかです。STRESS試験でもBENESTENT試験でもステント血栓症予防に使われた薬剤はワーファリンです。
しかし、ワーファリンによるステント血栓症予防の時代はイタリアのコロンボ先生の論文で終わりを告げました。IVUSでしっかりと拡張を確認したステントではワーファリンを使わなくてもステント血栓症はASA-Ticropidineで防げること、出血性合併症が劇的に減ることが示されたからです。ステント植込み後にワーファリンを使用していた時代のガイディングカテは8Fでしたし、そけいからのアプローチでしたから止血に難渋することが多かったのです。その頃からPCIに関わってきた私にとってその止血から解放されたのは大きな喜びでした。こうしてDAPTの時代が始まりました。わずか20年前のことです。そしてワーファリンにはステント血栓症を予防する効果があるということは忘れ去られたといえます。
ワーファリンでステント血栓症を予防する効果があるとすれば、DAPTは必要なのでしょうか。抗凝固療法を受けている心房細動患者さんでは、ワーファリン+1剤の抗血小板剤、特にTienopyridine1剤で十分なのではないでしょうか。3剤の処方を受けて脳出血死される方を減らすために検証が必要だと思います。
一方、抗凝固療法の主役はワーファリンからNOACに変わりました。ではNOACにはワーファリンと同じようにステント血栓症を防ぐ効果があるのでしょうか?
Dabigatran、Rivaroxaban、Apixabanのそれぞれでステント植込みを受けた急性冠症候群の患者に投与された成績が公表されています。
Dabigatranは少ない投与量でも出血性合併症を増加させました。この研究ではステント血栓症を減らしたか否かは記述されていませんが、D-dimerを低下させたと記載されています。ただ、ステント血栓症を減らすかどうか分からないのに、D-dimerが低下したから出血を増やしてでも処方しようという気にはなりません。
Rivaroxabanはどうでしょう。出血性合併症をやや増やすものの死亡率を減らし、ステント血栓症も減らしています。
Apixabanもエンドポイントを減らしています。また、Apixabanの研究ではClopidgrelを処方されていない患者のデータも示されていますが、ドーズに依存して出血を増やすもののエンドポイントを減らしていることが示されました。
Ribaroxabanでの検討では1万例以上の大規模で検討されていますが、DabigatranやApixabanでの検討の対象は少数です。ですから、安易にNOACにもワーファリンと同様にステント血栓症を減らす効果があると結論できませんが、どうもそうした効果があるように思えます。
日本だけで24万人の方がPCIを受け、そのうちの10%はおそらく心房細動合併です。2万4千人です。3剤の抗血栓薬が処方されることで1%の方が脳出血を起こすとすれば年間に200人以上です。全世界ではその何十倍だと思います。
ステント血栓症の予防の歴史から考えて、次々と抗血栓薬を増やしてゆく考え方は間違っているような気がしてなりません。おそらくNOAC+Tienopyridineで十分な効果が出て、3剤処方よりも脳出血が減るだろうと予測します。現在の戦略で脳出血死される方を減らすためにも早急に3剤の抗血栓剤処方を改めるための研究が必要だと思えてなりません。
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