2011年に心房細動に対する抗凝固薬としてDabigatranが発売されて以後、従来のワーファリンによる治療を継続すべきか、新しい薬剤に飛びつくべきなのかを考えてきました。Dabigatran発売から1年がそろそろ経過し、長期処方が可能になる頃に、決断のために当時、鹿屋ハートセンターで心房細動でワーファリンを処方していた患者さんをリストアップしました。240例です。
経過をみていると色々なことが見えてきました。年々、腎機能は低下してゆくことや、この腎機能低下は心不全を持つ人により顕著であるとかです。
今回は内服の継続についてみてみました。上段の図は2年後、4年後に通院を継続していた方の数です。
2年間の脱落は亡くなった9例を除けば231人中8人で3.5%でした。2年間の脱落が3.5%は結構自慢できるフォロー率だと思います。
しかし、2年後から4年後までの脱落は生存している方で見れば218人中48人(22%)と急増していました。
私のことが気に食わなければもっと早くに脱落してもよさそうなものですがなぜ2年もちゃんと通ったのに脱落したのでしょうか?
下の図は年齢別に見た脱落率です。60歳未満の方の4年で見た脱落率は生存者で見れば4年間で22人中2人(9%)、60歳から75歳までの方で見れば60人中12人(20%)、75歳以上では120人中42人(33%)でした。高齢になるほど脱落率が高いという結果でした。
痛ければ痛みどめがほしいと思いますが、心房細動の方は痛くもかゆくもないのに内服を続けます。将来のイベントを防ぐためという自覚のもとに内服を続けます。私は心房細動の方で内服を続けないのはそうした予防のための自覚がない方だろうと思っていました。
鹿屋ハートセンターでは予定の日に受診されない方に今日は受診日でしたがどうされましたかと電話を入れています。電話を入れても電話にも出ない方もおられるので全員の脱落理由は分かりませんが、「免許を返納したので通院できない」、「足が弱ったので通院がつらい」、「認知症で施設に入所した」等と言う理由がほとんどでした。無理解で脱落するのではなく年齢による通院困難が多くの理由でした。これだと無理解で内服を止めそれで発症した脳塞栓症だから自業自得だとは言えません。
高齢者の通院からの脱落は診察室での説明だけでは解決できません。家族や社会のサポートが必要です。
2012年に75歳以上であった方ですから4年後はほとんどの方が80歳以上です。高齢者の脳塞栓症を防ぐための内服継続を実現するためにはこの80歳の壁を越える工夫が必要です。
2018年2月27日火曜日
2018年2月25日日曜日
左室内血栓に対する抗凝固療法 EBMって窮屈だと思う
図1 初診時ECG |
図2 心エコーでの血栓像 |
10年近く経て、また来られました。カテーテル検査を勧められた由で本当に必要かと意見を求められました。その時の心エコーが図2です。以前のDyskinesisであった心尖部に丸い血栓像を認めます。
図3はCTでみた左室です。当然ですが心尖部に血栓像を認めます。冠動脈には狭窄を認めませんでした。カテーテル検査はしなくても良いとお話ししました。
図3 CTでの血栓像 |
3月後の評価で心尖部の血栓は完全に消失しその間に塞栓症のエピソードもありませんでした。
比較試験が実施された心房細動患者や静脈血栓症に対するXa阻害剤は認められてもこのケースではXa阻害剤の使用は認められません。Evidence based medicine(EBM)は科学的根拠に基づく医療とよく翻訳されます。実際には統計学的根拠に基づく医療です。機械弁の入っていない心内血栓に対するXa阻害剤の効果を検証した統計学的なデータはなくても科学的な根拠がない訳ではありません。
そんなに多くないこのようなケースでXa阻害剤が有効で安全であると統計的に証明する研究など未来永劫実施されるはずはありません。
教条主義的に統計的な裏付けがある治療しかしてはならないというのではレアケースの治療は前進するのでしょうか。EBMを否定しようとは思いませんが、EBM一神教のような医療のありようは窮屈で仕方がありません。いつかこのようなケースに対するXa阻害剤の使用も公知の治療として認められるとよいのですが…
ラベル:
NOACs
2018年2月20日火曜日
彼を知り己を知れば百戦殆うからず 急性心筋梗塞に対する治療戦略
Fig. 1 入院時心電図 |
昨日、CT検査を先行させた急性心筋梗塞のケースをブログにあげましたが、そういえば以前にもCTを先行させたケースがあったことを思い出しました。
午前1時位に胸痛があり午前2時前に救急車で来院されました。Fig. 1は受診時の心電図です。誰がどう見ても前壁梗塞です。ではなぜすぐに冠動脈造影をしなかったかと言えば左右の上肢に著明な血圧の左右差があったからです。
胸背部痛で救急搬送される方の血圧の左右差は救急隊員が必ずチェックして連れてこられます。救急隊員の第一印象は大動脈解離でした。明らかな前壁梗塞と血圧の左右差です。
大動脈解離に伴う急性心筋梗塞はほぼ右冠動脈の閉塞ですが、前壁梗塞も絶対ないとは言い切れません。心筋梗塞を伴う大動脈解離であればよほど特殊な状況でない限り緊急手術です。このため心電図だけを信じないで大動脈の評価を先行させたのです。
Fig. 2 緊急CT |
図には示しませんが大動脈解離はありませんでした。図に示すように左の鎖骨下動脈の閉塞でした。大動脈解離がないことが分かれば安心して心筋梗塞に向き合えます。
Fig. 3は初回造影です。左冠動脈前下行枝の近位部の99%狭窄でステント植込みを行い、その後は順調に経過しました。この方の場合、発症からステント植込みまでおよそ2時間20分、Door to Balloon時間はCTに寄り道したにもかかわらず70分程でした。
この方も昨日のケースと同様に初回の心エコーではAkinesisであった前壁は退院時には正常壁運動になっていました。
血圧の左右差のある急性心筋梗塞といった特殊な状況にあるケースでは間違いなくCTを先行させた方が良いと考えます。
Fig. 3 緊急CAG |
「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」です。
2018年2月19日月曜日
兵は拙速を尊ぶ? 急性心筋梗塞に対する治療戦略
Fig. 1 初診時心電図 |
Fig. 2 安定期心電図 |
冠動脈CTです。急性心筋梗塞だと思えばCT検査は時間をロスするだけですからCTを先行させるなどということは過去に考えたこともなかったのですが今回はCTを先行させました。Fig. 3がCT像です。高位側壁枝が閉塞していました。また図には示しませんがエコーで側壁はakinesisでした。
この状態を見ればもう様子を見るという選択はありません。引き続き冠動脈造影を行い、血栓像を伴う高位側壁枝にステント植込みを行いました。
CTという寄り道をしたためにDoor to balloon時間は2時間50分になりました。Peak CPKは3000を超えました。
Fig. 2は数日後に安定している状態で撮った心電図です。やはり前胸部誘導は少しSTが上昇しています。おそらく普段からこのような形の心電図なのだろうと思います。
Fig. 3 初診時CT |
Fig. 2の心電図と同日にみた心エコーでは壁運動異常は消失していました。CPKは上昇したものの壁運動異常のない状態で退院できましたから寄り道も許されるのではないかと思います。
Fig. 4 初回CAG |
診療報酬も「兵は拙速を尊ぶ」の考えが基本でDoor to Balloon時間が短ければより多くの報酬を医療機関は得ます。
この方の場合、急性冠症候群であったわけですから、「兵は拙速を尊ぶ」の考え方で良かったとも思いますが、結果として心筋壊死を最小にできた訳ですから十分に相手を知ったうえで対処する「彼を知り己を知れば百戦危からず」の戦略もありだったとも思います。
この先も診療する急性心筋梗塞に対してCTを先行させるなどということはまずないでしょうが、すべてがマニュアル通りに進み、何も考えないという形ではなく臨機応変もありだと今回のケースで考えました。
※ このブログに掲載するのあたって掲載の許可をご本人から受けております。
登録:
投稿 (Atom)