2021年2月7日日曜日

私はやめません、拡張型心筋症に対する薬物療法

U40心不全ネットワークのフェローコースが開催され、その内容がTwitterに投稿されています。もちろん、私はover60ですから、参加はしていません。若い先生方の興味が伝わるという点でTwitterは役に立っています。この会での一つの話題は改善した拡張型心筋症(DCM)のEFはその後どうなるのかです。一旦改善しても少なくない割合で悪化する人がいるという話題です。

この記事をみて、昔を思い出しました。関東の病院で主治医を務めさせていただいた患者さんのことです。25年以上前の患者さんです。低いEFで左室が拡大し、心不全で入院されていました。この方は、カルベジロールの処方でEFが改善し、左室も縮小しすっかり元気になられたのです。その後、私が福岡に転勤した時には、彼の福岡での仕事の合間に一緒に食事をとったりと、転勤してからは友人としてのお付き合いでした。福岡での再開後、しばらくして彼が心不全で亡くなったと聞きました。あんなに心機能も回復していたのにどうしてって考えさせられました。転勤後、引き継いだ先生はこんなに心機能も良いのにこんなに薬は必要ないだろうと減薬されていました。EFの改善したDCMの方に対する治療は確立されていませんから、その先生に落ち度があったわけではありません。
このテーマについて書かれた論文が2019年のLANCETの論文です。彼が亡くなってから20年以上たってからの研究です。EFが改善したケースの薬物療法については確立したものはないので、薬物療法を継続する群と中止する群を比較したPilot studyです。結果は、治療を中止した群で再発が多かったというものでした。

2番目の図は鹿屋ハートセンター開設間もないころに来院されたDCMの方です。心拡大し、胸水が貯留し肺うっ血の著明な方でした。13年後の胸写は別人のようです。

 初診時のEFは22%、LVDDは58㎜でしたが、現在ではEF=71%、LVDD=43㎜です。初診当時使用していた利尿剤はこの心機能ですからもちろん不要です。現在の処方はARB、βブロッカー、MRAです。60歳代の終盤に受診され、現在は70歳代中盤になりました。この方の寿命と私の医師としての寿命のどちらが長いかは分かりませんが、彼の寿命の方が長ければ誰かに彼を引き継がなければなりません。心機能の良好な方を診て次の先生は、どこがDCMだよなどと考えて薬物療法の継続が途切れなければ良いがと考えています。ちゃんと情報を伝えなければなりません。

私のDCMに対する薬物療法の基本的な考え方は「心機能が回復しても治療をやめません」です。

2020年12月27日日曜日

医師すべてが等しく新型コロナ対策に注力すれば、通常の医療は成り立たなくなってしまう。やはり役割分担は必要だと思う。

 1日に2回、ブログを書くのは初めてかもしれません。わずか10万人の人口の鹿屋市で10名を超える2つ目のクラスターが発生したので危機感を持っているからです。最初のクラスターは若い大学生主体のクラスターでしたが、現在のクラスターは高齢者が中心です。

鹿屋市には感染症指定病床は4床しかありません。感染症指定病床だけで診るのならもう目いっぱいです。鹿屋市での新型コロナに対する対策会議は2020年3月に初回が開かれました。私はその会議で、コロナに対する対策も必要だけれども、医療供給体制の脆弱な鹿屋市や大隅半島では、通常の救急医療体制を維持する視点も忘れてはならないと意見を述べました。

鹿屋市には心臓外科手術ができる病院は一つしかありません。また、その病院のICUも一つです。もし、唯一の心臓外科手術が可能な病院までコロナ対策に使われるとしたら、同じICU内で心臓外科手術を受けた患者さんとコロナで呼吸器に繋がれたりECMOを回す患者さんを一緒に診るのでしょうか。そんなことはできるはずがありません。ですから、コロナを診る病院とコロナ以外の重症患者を診る病院に分かるべきだと主張しました。

幸いなことに12月までは鹿屋市でのコロナの感染確認は少なく、また、鹿児島県全体でも病床がひっ迫する状況ではなかったので、酸素投与が必要な中等症患者は鹿児島市内で診ることで鹿屋市内の医療は維持されました。しかし、ここにきて人口当たりでは東京を超える感染者の発生です。県都である鹿児島市内の受け入れが困難になった時、鹿屋でどうコロナを診て、どう普段の救急体制を維持するのかを改めて考えなければなりません。

最近読んだ日経メディカルの記事ですが、上海で勤務する日本人医師が書いた記事です。上海ではコロナを診る病院とコロナ以外を診る病院が厳密に分けられているという記事です。中国の体制が素晴らしいという気もありませんし、このような対策が日本では難しいことも理解しているつもりです。しかし、どの病院もコロナ患者を等しく診るべきだという考え方では、通常の医療を破壊してしまいます。救急に対応できない、なるべく早く手術をすべきがん患者さんの治療が後回しになってしまうなどの弊害が必ず起きると思っています。通常の医療を維持し、コロナにも対応する視点が必要だという、3月の私の考えに変化はありません。

世界一人口当たりの病床数が多い日本で「医療崩壊」するはずがない、「医療崩壊」するのは、私立の病院がコロナを引き受けずに一部の病院にコロナ患者を集中させているからだという批判があります。民間病院主体の医師会の怠慢が招いているのだという批判は少なくとも鹿屋市には当てはまりません。最初の会議から鹿屋では公的な病院、医師会、医師会に加盟していない私的な病院すべてが集まり、コロナへの診療体制の構築、普段の救急体制の維持のための方策(ここでは具体的な対策は書きませんが)を考えてきました。

普段の救急体制を維持し、コロナにも対応するための役割分担を、医師会の利益誘導や怠慢とネットで批判し拡散する人たちが、現場の努力を無にしないかと心配しています。

医師会長は正月休みを取るのかと批判し現場で働けという人たちはそんな批判で現場は救えると思っているのでしょうか?

 新型コロナの影響で出張して参加する学会もなくなり、ずっと鹿屋にいます。今年はお盆休みも取らなかったので2020年年明けから日曜日も含めて1日も休まず、今日(2020.12.27)まで患者さんを診ています。移動の時間がないので時間の余裕があります。色々なことを考えます。

医療崩壊するリスクを言い、国民に自粛を求める医師会長は、正月休みを取るのかと批判する人がいます。医師会長はご自身のクリニックは休診であっても、休まずにコロナ対策に取り組んでおられるだろうと私は思いますが、批判する人たちは誰もが前線で働けと言いたいようです。新型コロナのせいでいやな世の中になったものだと思っています。新型コロナの現場で働く医師、新型コロナは診ないけれど通常の心筋梗塞などの救急の現場を維持する医師、現場で解決できない制度的な問題の是正に取り組む医師会の幹部や行政の中にいる医師など役割分担をせずに、大変な時期だからみんなで竹やりをもって前線に行くべきだというような意見に感じられます。そんな戦いに勝ち目はないだろうと思っています。

二十数年前、私は神奈川県鎌倉市の病院から福岡県の病院に転勤しました。驚きました。私を含めて8名の医師が循環器のチームにいましたが、深夜に急性心筋梗塞が来ると全員集合で緊急カテーテルをするのです。午前3時に全員が集まり、術者の治療を見るだけで、その後休息も取らずに朝からの診療をするのです。全員が疲弊してしまいます。私は責任者になると仕組みを変えました。当直医とオンコールの医師だけで緊急カテーテルに対応するようにしたのです。2人で手に負えない時には私を呼び出しても良いが、他の医師は呼び出してはならないとしました。疲弊していない医師を温存し翌日以後の診療に支障がないようにするという仕組みです。戦力の逐次投入とも異なります。私たちの医療の世界の戦いに最終的な勝利はありません。勝って終わりではなく、次の瞬間にはまた新たな戦いが始まります。一人の医師が疲弊しているのだから全員が分かち合って同じように疲弊すべきというような発想では、安定して良質な医療は提供し続けることはできません。

イタリアやニューヨークでの第一波で、疲弊した医師がマスクの跡が残る痛々しい姿でStay Homeを呼びかけました。それに共感し、Facebookのプロフィール写真にStay Homeと記している人も少なくありません。医師会長がStay Homeを呼びかけることに反発があるのは現場の医師の呼びかけではなく幹部の呼びかけだからでしょうか?私は医師会長がStay Homeを呼びかけることについて全く異論はありません。ただ、Stay Homeを呼びかけるだけでは不足だと思っています。政策に影響を及ぼす力を持っているのですから、現場で汗をかかなくても良いから、汗をかいて疲弊している医療者を救うための制度改革を実現するために役割を果たしてほしいと思っています。新型コロナがあぶりだした日本のいびつな医療提供体制がこの機会に是正でき、災いを転じた明るい未来(国民にとっても医療者にとっても)が待っていると思いたいものです。

2020年12月10日木曜日

鹿屋ハートセンターでは2020.12.10現在、13例にエンレストを処方しました。私がエンレストを処方した患者さんたちをまとめ始めました。

なんども書いてきましたが、私は新薬が使用できるようになってもすぐには自分の患者さんに処方せず、なるべく長期処方ができるようになる発売1年後から処方するようにしてきました。この自分に課したルールを破って発売間もなくから処方を始めた薬が8月末から使えるようになったエンレストです。サクビトリルバルサルタン ARNIと呼ばれる薬です。

循環器診療をしていると、心不全で入退院を繰り返す方がおられます。鹿屋ハートセンターにも何人もそうした方がおられます。こうした方の入退院の頻度を減らし、長期予後の改善が期待できる薬です。8月末から使用可能となったばかりの薬ですが鹿屋ハートセンターで最初に処方した方は9月4日でした。以後、現在までに13例に処方しました。

入退院を繰り返す心不全の方に処方し始めたので、元の心疾患は色々です。まだわずか13例ですが、どんな方に処方をしているのかをまとめ始めました。

年齢は中央値80歳、平均年齢77.3歳の高齢者に処方していました。男女比は9:4です。元の病気ですが、意外なことに拡張型心筋症(DCM)の方は1例のみでした。また、陳旧性心筋梗塞(OMI)の方を含む虚血の方が3例でした。残り9例のうち8例がが心房細動でした。鹿屋ハートセンターで入退院を繰り返して困っている方の大半が心房細動関連でした。

なぜDCMの方が少ないのか、鹿屋ハートセンターでDCMと診断名がついている方もまとめてみました。まだすべてではありませんが毎日ピックアップして18例までチェックしましたが、14例の方は初診時から左室駆出率は改善し、左室拡張末期径も縮小しており心不全のコントロールに苦労しなくなっていました。残りの方も初診時から心機能の悪化もなく横ばいでやはり心不全のコントロールに苦労していませんでした。思い起こせば、ハートセンター開設以来14年で心機能が悪化し続け、心臓移植の待機例になった方は1例のみです。

ハートセンターでエンレストを処方し、心不全を何とかしたいと思っている方の心疾患はDCMではなく心房細動でした。このため、駆出率は必ずしも低くなく、左室拡張末期径もやや大きいという程度で、特徴的なことは左房径の拡大でした。中央値で50㎜、平均で48.8㎜でした。最も大きな左房径の方は60.8㎜でした。

高齢心房細動が中心ですからクレアチニンクリアランスの中央値は38,平均は43.8と低腎機能でした。エンレスト投与前のBNPは中央値で474,平均で393でした。

エンレストは初回1日量、100㎎の投与から開始し、200㎎、400㎎と増量するように添付文書の用法・容量に記載されている薬剤です。鹿屋ハートセンターでは1日量200㎎まで増量できた方は13人中2人しかいません。他の方はこれ以上血圧を下げられないという程度に血圧が下がったからです。このため、1日量400㎎まで増量できる方は日本に存在するのだろうかと思っています。13例中11例は入院で処方を開始し、2例は外来で処方を開始しました。2週間しか処方できないので2週間ごとの受診で患者さんは大変ですが今のところ、文句も言わずに2週間ごとに来てくださっています。

自分に課したルールを破り、1年間の全国での成績を見極めないで始めた処方です。拙速で処方したために患者さんを悪くしたということがないように投与後の経過を慎重に見てゆかなければと考えています。心不全という重い疾患の方に薬剤を処方するのは、手術などと同様患者さんの命を守る重大な責任ある医師の行動だと思うからです。


2020年12月8日火曜日

Gotoトラベルの是非は知りませんが、感染拡大に人の移動が関係しないはずはないと思っています。

鹿屋市は、人口10万人の地方都市です。鹿屋市にある感染症指定病床はわずか4床です。一方、鹿屋市にある介護施設には3000名の入所者がいます。このため、施設で新型コロナウイルスのクラスターが発生すればたちまち医療崩壊が現実になってしまいます。

このことに危機感を持った鹿屋市医師会と鹿屋市の介護施設の団体では、協同して介護施設でクラスターを発生させない、発生したとしても医療崩壊を起こさないを目標にしてきました。このために積極的な治療(人工呼吸器やECMOの使用)を望むかなどのACPの取得を夏ころから始めています。この話し合いのために作ったスライドが図です。

図は、日本の介護施設で発生した新型コロナウイルスのクラスターを分析したものです。初発患者の多くは20-30代の人でした。施設に出入りするこの年代の方は職員です。職員による持ち込みを防ぐために一般の方以上に自粛・自制をしましょうと呼びかけたのです。この成果か否かは分かりませんが、幸いなことに鹿屋市では1件のクラスターもまだ発生していません。発生は単発例だけで累計で人口10万人当たり3人だけです。

鹿屋市だけではなく全国で高齢者施設の多くで入所者に対する面会は禁止されています。新型コロナウイルスは自然に湧き上がってくるわけではないので、誰かが持ち込まない限り感染は起きるはずがありません。しかし、高齢者施設や病院でのクラスターは発生しています。

施設ではありませんが、同様に誰かが持ち込まなければ感染爆発が起きるはずがない、離島で感染爆発が起きています。与論島では今までに100人以上の感染がありました。人口5千人ほどの島ですから人口10万人当たりに換算すれば2000人です。欧州並みの頻度です。同様の離島での感染爆発は北海道奥尻島でも起きました。やはり人口10万人当たり2000人です。

Gotoトラベルが感染を広げているという人や関係ないという人の議論が起きています。Gotoトラベルが原因なのかどうか私にはわかりませんが、高齢者施設や離島での感染から考えれば人の移動が感染を拡大させていることに間違いはないと思っています。

国が実施する政策に口をはさんでも詮無いことだと思っています。ただ、自分がみている患者さんや鹿屋市の医療を守るために少なくとも我々医療者が感染を広げる役割を果たさないように自粛・自制を続けなくてはならないと思っています。Gotoトラベルは私たち医療者には無縁なのです。
 

2020年12月5日土曜日

我田引水、手前味噌な科学的根拠もない妄想と言われても仕方がない私のISCHEMIA試験の解釈

昨年発表され、今年のNew ENGLAND JOURNALに掲載されたISCHEMIA試験の結果は、冠動脈疾患のカテーテル治療をする私たちにとって大きなインパクトのあるものでした。心筋虚血があることが証明された患者を2群に分け、薬剤だけの保存的な治療を受ける群とカテーテル治療やバイパス手術などの侵襲的な治療をうける群とで5年間の経過を見た試験です。心血管死亡・心筋梗塞の発生・不安定狭心症や心不全による再入院・心肺蘇生を受けたというPrimary composite outcomeは、侵襲的なグループの方が比較を始めて2年までは多かったという結果です。患者さんに良かれて思って実施している治療が薬だけの治療よりも劣ると言われたら私たちは何をしていたのだろうと思ってしまいます。

私たちが実施しているカテーテルによる侵襲的な治療は、受けてたった半年で5%もの人が重大な問題を起こす治療なのでしょうか?鹿屋ハートセンターでは、半年以内に死亡したり心筋梗塞になったりという方をここ10年ほどは経験したことがありません。10年ほど前には、稀にステント血栓症を起こす方がいましたが、最近は皆無です。自分のやっている治療の経過とこの論文の結果の違いに驚いています。

では、なぜ研究に登録された患者では問題が多く起きたのでしょうか。欧米では日本の違ってIVUSできちんと拡張されたかなどを評価せずにステント植え込みがなされることが主流です。では、不十分で適切ではない治療が原因でしょうか?それならば2年以後に保存的な治療よりも成績が改善する理由が分かりません。

ここからは、私の妄想です。科学的な根拠もデータもありません。患者さんの薬の飲み残しをこの2年ほど調べてきました。なので、そこに情熱を持っているが故の我田引水、手前味噌です。下の図に示すようにステント植え込みを受け抗血小板剤を処方されている患者さんでも10%を超える残薬を認めました。ステント血栓症が起きれば死に至るリスクが高いと口を酸っぱくして話してきたにもかかわらずです。もし、研究の対象になった方々もきちんと内服していないとすれば、ステント植え込みを受けて抗血小板剤を内服していない方では、ステント植え込みをしていない人よりも血栓症による死亡リスクは格段に高くなります。そこを生き延びた人であれば時日が経過し、ステントが新生内膜に覆われるにつれ、抗血小板剤をきちんと内服していなくてもステント血栓症のリスクは低下し、狭窄を解除していない薬だけの人よりも拡張した効果で成績が上回ると考えました。全くの我田引水で科学的な証拠はありませんが、この仮説を立てて考えるとISCHEMIA試験の結果は納得できるのです。

ISCHEMIA試験の結果を受けてカテーテル治療など無意味だという医師も出てきました。しかし、保存的な治療で十分だとは言えないと思っています。たった2年で両群とも9%もの人が心血管死、心筋梗塞等を起こしています。ISCHEMIA試験の結果が正しいとしてもその解釈はいまだ冠動脈疾患に対する良い治療はないとすべきだと思います。私の解釈は違います。きちんとしたカテーテル治療に加えて適切な処方をきちんと内服してもらえれば望ましい経過を得られるというヒントを得たと解釈しています。

多くのRCTできちんと内服できていたか、残薬率は何%であったかなどが語られることはありません。患者の行動を知らずに統計だけで語られる「EBM」に懸念を覚えずにはおれません。
 

2020年12月2日水曜日

エンレスト(サクビトリルバルサルタン、ARNI)で心不全の治療をしていると体重が増加しても心不全が悪化していないことがある

近い将来、心不全患者が多数発生し、心不全パンデミックが起きるのではないかと言われています。入退院を繰り返す心不全患者で病床の多くが占有され、救急で治療の必要な患者の病床が確保できにくくなるのではないかと心配されています。

現在の新型コロナ患者の重症者増加で医療崩壊が起きるのではないかという議論と同様の議論が心不全に関しても数年前から言われ始めていました。実際、循環器病床を持つ医療機関では入退院を繰り返す心不全患者をほぼ常に抱えていると思います。肺うっ血があり軽労作で呼吸困難がある、右心不全があり下腿の浮腫がひどくなったなどで入院される多くの方は、入院だけで体重が減少し、うっ血所見が改善し退院していかれます。しかし、入院中は体重が増加しなかったにもかかわらず次の受診時にはまた、体重が増加し心不全の状態が悪化しているという方も少なくありません。心不全の状態を把握する最も簡便な指標が体重でした。

図の方は心不全で入院し、退院1週間後の受診で来られました。たった1週間で体重は2.1㎏増えていました。良い状態がたった1週間しか維持できなかったのかとがっかりしましたが、調べてみると胸写も心エコーも左が本日の分、右が退院直前のものですが、いずれも心不全の悪化を示すものはありませんでした。CTRは縮小し、TRPGは低下し、左房径も左室拡張末期径も縮小していました。

この方の心不全の治療には最近使えるようになったエンレストを処方しています。サクビトリルバルサルタン、ARNIと呼ばれる薬です。利尿剤で心不全をコントロールしていたころには見られなかった現象です。体重が増加していても心不全が悪化していないのです。そのような方はこの患者さん一人ではありません。どうして体重が増えたのか患者さんと話し合いました。食事がおいしくなり、やせた体重をもとに戻そうとしっかり食べていると言われました。その結果なのか、クレアチニンも退院前の1.26から1.02に低下しました。

利尿剤で無理やりうっ血をとると呼吸困難は改善し、浮腫みも取れ見かけは良くなります。しかし、無理な利尿で腎機能は悪化し長期予後は悪化します。利尿剤のように腎機能を悪化させる薬剤ではなく、長期予後を改善させる心不全薬はないものかと考えていましたが、期待に応えうる薬剤が登場したとわくわくしています。まだ、鹿屋ハートセンターではエンレストを使い始めて2か月余りです。長期予後をうんぬんする段階ではありません。この1年は2週間しか処方できないために患者さんの通院に負担のある薬ですが、当院で処方した患者さんは文句も言わずに2週間ごとに通ってきてくれています。注意深く患者さんの様子を観察し、患者さんとともにこの大切な薬を育ててゆくことができればと願っています。