2020年11月7日土曜日

私が患者さんの残薬チェックに一生懸命な訳

一昨日(2020.11.5)、鹿屋市薬剤師会の皆さんに対して協力して鹿屋市の患者さんの残薬を減らしましょうという講演会を開きました。コロナ禍で初めての対面の講演会です。約60名の薬剤師さんに集まっていただきました。

2019年7月から、受診のたびに残薬を持ってきていただき、飲み残しがないか私自身がチェックしています。医師向けのWeb講演の時には忙しい外来の最中にそんなことができるのかとの質問を頂きましたが数秒のチェックで残薬は確認できます。受診時に必ず7日分の内服が余るように処方しているので残が7日分なのかそれ以上なのかを確認するだけの作業ですから数秒で確認できます。始めたころには数か月分も残っている方がおられたので数えるのは大変でしたが、今ではそんな方はいません。ですからアッという間に終わる作業です。

なぜ、残薬を数え始めたか、それは、抗凝固がNOACあるいはDOACの時代になったからです。上段の図はワーファリン時代の方です。概ねINRは1.6-2.6の間におさまっています。TTRを算出すれば90%を超えます。でもINRが極端に低い日も、INRが3近い日もありました。INRが低い日にはちゃんと内服していたかどうか、納豆などのビタミンK含有の多い食事をとっていなかったかなど、会話がありました。INRが高値の時には、なにか別の内服をしていないかなどを尋ねていました。ワーファリンの時代にはINRを挟んで患者さんとの会話があったのです。

NOACあるいはDOACの時代になり、こんな会話はなくなりました。ちゃんと内服していますかと尋ね、ほとんどの方はちゃんと内服していると答えられてそれでおしまいです。しかし現実は異なりました。残薬を確認すると1Xでも2Xでも10%を超える残薬がありました。こんなことで塞栓症を防げるはずがありません。残薬を挟んでなぜ内服しなかったかと会話をしなければちゃんとした結果は出ないと思い始めたのです。

下の図は残薬をチェックし始めて1年での残薬率の変化です。最初のチェックで残薬が最も多かったのは40歳代の方です。最も少なかったのは80歳代の方でした。よく内服アドヒアランスは高齢者で問題になるという人がいますが、現実は逆でした。また、高齢者ほど多剤処方になっていますから、よく多剤処方で内服アドヒアランスが低下するという先生がおられますが、そんな傾向も認められませんでした。アドヒアランスを低下させるために貼付剤を勧めるメーカーもありますが、最も残薬率の高かったのは貼付剤でした。

医師になって40年余、患者さんと向き合ってきたつもりですが、何もわかっていませんでした。もう間違いなくベテランの医師ですから多くのことを知っているつもりでしたが、基本的なことすら知らなかったのです。ワーファリン時代にあった患者さんとの会話がNOAC、DOAC時代になり途絶えたことに対する危機感から始めた残薬チェックで多くの気づきを得ました。残薬を挟んだ会話で現在では残薬率は1%程度です。このような成果を、地域で得たいと願っています。コロナ禍で延期されていた薬剤師会での講演を済ませました。次は、鹿屋市医師会の先生方に向けて話ができればと願っています。