2014年4月8日火曜日

新しい抗血小板剤が間もなく日本にも登場します。プラスグレル(エフィエント)です。冷静に現場で評価しようと思っています。

医療の世界は日進月歩だと言われます。医師になって35年が経過しましたが、この間にも新しい薬剤や新しい治療器具が次々と誕生しました。特に私が専門とする冠動脈のカテーテル治療の分野ではこの30年間に次々と新しい道具が上市されてきました。そもそも私が医師になった1979年にはPCIもなかったのです。

新しい治療法が誕生し、新しい道具が使えるようになります。また、新しい薬剤も使えるようになります。そうした変化に対して、今までの治療で困っていないからと新しい有益な治療法や薬剤を受け入れないでいると、患者さんにより良いものを提供できなくなります。一方ですぐに新しいものに飛びついても、実はあまりよくなかったという経験もこの35年間にありました。新しいものは常に「良い」評価とともに登場します。そして現場で揉まれて生き残るのか消えてゆくのかが決まるのだと思っています。

間もなく、冠動脈ステント植込み後に欠かせない薬剤である抗血小板剤に新しい仲間が登場します。Prasugrelです。商品名はエフィエントだそうです。今、ほとんどの患者さんに使っているClopidogrel プラビックスで何も困っていないけどなという気持ちはあってもこのような考えにとらわれてはいけないと思い、PCI領域における抗血小板療法の勉強をし直しました。

バルーンしかなかった頃のアスピリンとペルサンチンの時代、Bare metal stentが登場し、ワーファリンを併せて使用していた短い時代、ミラノのコロンボ先生のIVUSを使用して高圧でステントをしっかりと拡張し、パナルジンを使うことで、ステント血栓症が劇的に減少するという報告を受けてパナルジンを処方していた時代、などを懐かしく勉強しなおしました。パナルジンによる汎血球減少などの重篤な合併症の発生を減らし、より安全でより早くより効果的なチエノピリジンを求めてプラビックスに至り、現在の安定した成績に十分な満足感を持っていました。しかし、パナルジンと比べて優れていると言われたプラビックスも、ここ数年は一緒に内服するPPIによってはその効果が減弱してしまうだとか、プラビックスが十分に効果が発現しないpoor metabolizerが存在することなど、問題が指摘されるようになってきました。

そうした中でのPrasugrelの登場です。CYP2C19によるmetabolizeをあまり受けない、それ故にClopidgrelのようにPPIの影響を受けたり、Genotypeによっては抗血小板作用が十分に発現しないなどということが少ないと言われています。

図は、日本で行われたPRASFIT-Electiveの成績を表にしたものです。下図に示すように国際共同研究であるTRITON-TIMI38で見られたようなClopidgrelと比べて出血が多いというような現象は見られません。国際共同研究と比べて日本では低用量で試験した成果だと思います。この低用量であってもClopidgrelと比較してより良い成績に見えます(図1)。こうした比較試験の結果を見ると期待が膨らみます。

ただ気になることがないわけではありません。Genotypeなど調べずにほぼ全例でプラビックスを使っていますが、鹿屋ハートセンターでElectiveにDESを植え込んだ方でステント血栓症を起こした方はここ数年、皆無です。また、non-fatal MIも皆無です。PRASFIT-electiveのように270日間の追跡でnon-fatal MIがPrasugrelの3.2%、Clopidgrelの6.5%のように発生するのでしょうか?何か日常の診療の成績との解離を感じます。

新しいものは常に鳴り物入りで、それまでのものを悪く言いながら登場します。しかし、その後の運命は現場で市販後に決定づけられます。期待を持ちながらも、冷静に新薬を受け入れたいと思います。