2023年11月12日日曜日

一人一人に向き合う診療も大切だけど、同じように診療している群としての患者さんたちの変化も忘れてはいけないと思う

循環器診療で心不全の占める割合は少なくありません。心不全患者の増加は将来、医療体制をひっ迫させるのではないかと考えられており心不全パンデミックという言葉まで存在します。そんな中で2020年から使えるようになったARNI(商品名エンレスト)で心不全が良くなる例を多く経験するようになりました。エンレストで良くなったのが上段の写真の方です。、しかし、お一人よくなった方がいたからそれでよいというものでもありません。多くの人にきちんと効果が期待できるのかを検証しなければなりません。鹿屋ハートセンターで心不全の方にエンレストを処方した方が104例になりました。2番目の図はエンレストを処方した方たちの内訳です。高齢で、心房細動の方が多くを占めます。一方でEFの低下している心不全の方に対する処方は少なく、EFの低下していない心不全(HFpEF)が治療のターゲットとして多いのが分かります。

3番目の図はエンレストを開始後6か月以上経過した時点での心エコーの指標です。心房細動のあるなしで解析をしました。結果、心房細動のあるなしにかかわらず、左室駆出率(LVEF)も改善し、左室拡張末期径や左房径は縮小し、TRPGは低下していました。良くなった人がいるというだけではなく総体として、心房細動のあるなしにかかわらず心不全はエンレストの開始後に改善をしていました。

4番目の図は、心不全の指標であるBNP値の変化です。総体としてみるとBNP値は変化していませんでした。なのでエンレスト開始前と比べて10%以上増加した群、低下した群でエコーの指標を見たのが最下段の図です。

BNPが低下した群では、指標がすべて改善していたのですが、BNPが上昇していた群ではその改善はほとんどありませんでした。

ARNI(エンレスト)は、BNPの分解を阻害する薬剤ですから、BNPが上昇するのは正しい薬効のように思えますが、実際には心不全の改善に伴ってBNPは低下する方がほとんどです、なので、BNPが上昇することは本来の効果だと安易に考えずに心不全に対する効果が十分ではないと考えた方が良いと思います。

診療させていただくお一人お一人の改善や悪化に注目することは当然ですが、何人もの患者さんの対する効果を検証することで見えてくる世界があります。こうした興味を失わずにこれからもより良い診療が続けられるように努力していきたいものです。





 

1 件のコメント:

  1. ARNI使用例ではNTproBNPで評価するほうが良くないでしょうか?当院はARNI使用に関わらず心不全評価はNTproBNPに切り替えました。

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