2014年8月31日日曜日

本日は60歳の誕生日です。「悪くないと思うわけ」と言い続けることができる人生を歩みたいと思っています

最近気になっているコマーシャルがあります。桃井かおりさんの化粧品のコマーシャルで「これで63歳、悪くないと思うわけ」というものです。63歳になっても肌がきれいでしょというだけではつまらないのですが、年齢を重ねることを否定的に考えず、自分でもこんな歳の取り方だと悪くないと思えることは素敵だなと思います。

本日2014年8月31日で60歳になりました。還暦です。既に5月に大阪に住む母親が大阪で還暦のお祝いをしてくれたので誕生日だからといって改めての感慨があるわけではありません。5月の時点でも還暦のお祝いなんてと思って最初は気乗りしませんでしたが、途中から気が変わって赤いちゃんちゃんこを着て弾けようと考えました。それは還暦は私の祝いではなく母のお祝いだと思ったからです。例えば35歳で得た子供が還暦を迎えると親は95歳です。何%の親が子の還暦を祝えるでしょうか?私は母が25歳の時の子なので母は85歳ですが、子供の還暦を親が祝える幸せって誰にも味わえるわけではないよなと考え、母の前で弾けようと思ったのです。

この5月の時点で私の還暦は終わったと思っていましたが、60回目の誕生日はやはり特別なのようです。臨床心理とは全く畑違いの私が毎月参加している臨床心理の事例検討会「鹿屋渓蓀塾」の皆さんが昨日、お祝いの会をしてくださいました。写真はその時に頂いた名前を刻印した屋久島の焼酎 三岳です。例年はこのような特別な会もないのですが今年はこうしてお祝いしてくれる機会が少なからずあり、だから特別なのだと思えます。

60歳を迎えて考えること。「若い頃の俺って凄かったんだぞ」なんて言わない日々を送らなければと思います。今の自分を評価されるあるいは評価できるようでありたいと思います。子供のように好奇心旺盛で行動でも知的にも挑戦し続けなければと思っています。若い頃の私って美人だったのよというより、これで63歳、悪くないと思うわけという方がかっこよいですもんね。

2014年8月29日金曜日

惚れ込んでいたHealthymaginationにさよならを言う日が来たようです

鹿屋ハートセンターは19床の小さな有床診療所です。月曜と金曜日に鹿大から心カテの手伝いに来てくれる先生はいますが、基本的に医師一人で運営しています。そうした小規模・少人数でも効率的に画像を管理し、スムーズで正確な意思決定ができるようにカルテは電子化し、電子化されたカルテに接続された画像サーバーを運用してきました。詳細は2011年3月31日付当ブログ「ネットワーク中心の医療」に書きました。地方で患者数も多くないところでこのような投資をして大丈夫かなと心配する部分もありましたが、"Healthymagination"を謳うメーカーとのコラボで当院のような地方の小規模施設でもネットワークの構築が可能でした。"Healthymagination"はこのメーカーの造語です。特別な高性能をな製品を提供するだけではなく導入しやすい製品を提供することでより多くの患者さんに高度な医療を提供するというコンセプトです。この辺りも2010年10月6日付当ブログ「EcomaginationとHealthymagination」に書きました。

このシステムの導入からもう少しで8年になります。システムを構成するRaidのサポートが切れるそうです。この話を頂いた時には深刻には何も考えていませんでした。4TのRaidですから10万円-20万円で手に入る装置だと認識していたからです。このメーカーからの最初の提示は医療用のRaidなので1000万円ですと言われました。どんなに高くても数十万円の装置を1000万なんて言ったらいけませんよとお話ししました。またRaidに医療用のものなんかある筈がありません。

こうしてひどい話はしないでねとお話していたところ、今の手に入るRaidでは現状のサーバーに適合しないのでサーバーごと更新する必要があると、だから1000万円なのですと話が変わってきました。コンピューターに詳しいわけでもない私ですので、サーバーの種類は何で、Raidとの接続のインターフェイスや通信プロトコールは何なのですか、代替の装置は手に入らないのですかと質問していました。答は代替のRaidは存在しない、サーバーを更新するしかないと再度言われました。更に同じようにサポートがなくなる装置で支えられている画像処理も更新した方が良いから総額は3000万円になるとさえ言われました。

そんな高額な投資をするほど地方の小規模施設に余裕がある筈がありません。かつて"Healthymagination"と言っていたこの会社のコンセプトはもう放棄したのかとさえ感じました。このためコンピューターに詳しい人の力を借りて当院で維持するしかないのかと考え始めました。そのために装置のオーナーである当院にある筈のマニュアルや仕様書を探すのですが院内には見つかりませんでした。フルメンテナンスをお願いしていたので院内のスタッフは今まで見る必要がなかったのです。そこでマニュアルと仕様書を導入時から頂いていないので下さいと申し入れました。しかし、メーカーからの返事はそのようなものはないというのです。マニュアルや仕様書なしにメンテナンスできる筈もありませんからない筈はないのにないと言われるのです。ではないのなら以前に調べて欲しいと言ったRaidとサーバーの接続インターフェイスや通信規格はどのように調べたのかと聞くと調べずにそのような代替の装置はないと返事したとまで言われるのです。

呆れました。調べもせずにそんな装置はないからすべて新しい装置を購入するしかないと虚偽の説明でした。私が調べると画像サーバーはWindows 2000 serverでこのサーバーに接続できるRaidはいくらでも市販されています。私の理解では嘘をついて出費を要求する行為を詐欺だと言うのだと思います。

このメーカーと私の付き合いは20年を超えます。より少ない投資で購入できる製品を提供することで高度な医療を地方などにも展開できるようにし、より多くの人に貢献したいという"Healthymagination"というコンセプトに惚れ込んでいた私は初心すぎたようです。

2014年8月27日水曜日

エボラ出血熱で亡くなられたボーボー先生に心から哀悼の意を捧げたいと思います

アフリカで猛威を振るうエボラ出血熱に立ち向かっていたリベリア人医師アブラハム・ボーボー先生が期待された新薬であるZmappを投与されていたにもかかわらず亡くなられました。

こうした死亡率が高い感染症に立ち向かって亡くなる医療者は少なくありません。2003年には当時世界を震撼させたSARSに立ち向かったイタリア人医師カルロ・ウルバニ先生もそのSARSで亡くなられました。

私は、感染症を専門としているわけではないですが、その使命感から自らにふりかかるリスクをおして病気と向き合い、亡くなられた先生方の報道に接してなにか戦友を失ったような喪失感を感じます。

死亡率が高い感染症のみならず不眠不休で救急患者に向き合い若くて亡くなる先生もおられます。私が専門とするカテーテル治療の分野でも夜間の急患に対する対応だけではなく、放射線防護処置をしても完全には被爆から免れ得ない環境で、発癌リスクを恐れずに放射線を浴びながら患者さんに向き合う多くの循環器医がいます。

新型インフルエンザの流行時などにも真っ先に患者に向き合うのは医師です。そうした仕事であることを自覚して自ら選んだ道ですから賛辞や敬意は求めませんが、医師は不老不死ではありませんし、当然ながら家族もある生身の人間であることは知っていてほしいと思います。

会ったこともない先生ですが、仲間の死として最大の哀悼の意を捧げたいと思います。


2014年8月25日月曜日

より安全性の高い選択をしても100%の安全のない現場で仕事をするには強い心が必要です。

Fig. 1 before PCI
毎年夏にTOPIC (Tokyo Percutaneous Cardiovascular  Intervention Conference)という東日本最大のカテーテル治療の会が開催されます。私自身は参加したことはないのですが、FB友達であるコースディレクターのO教授が毎年シラバスを送ってくださいます。毎年アップデートされた記事が豊富で勉強になります。今年もシラバスを送ってくださいましたが、その際に来年こそは参加してくださいとおっしゃってくださいました。来年こそは万難を排して参加しようと今から決意しています。

Fig. 2 After LAD stenting
その今年の会の抄録集に鹿屋の施設からの症例報告が記載されていました。報告した病院とは異なる医療機関で左冠動脈主幹部にステント植込みがなされ、その部位の血栓閉塞のために亡くなられた方の報告です。比較的若い女性の患者さんの報告です。その報告を見た時に私が治療した患者さんかと考えました。Fig. 1に示すように大きな対角枝が分岐するところでの前下行枝の狭窄です。

前下行枝にステント植込みを行い、対角枝にワイヤーを入れなおそうとしてもなかなかクロスできず、そうこうしているうちにFig. 2に示すように左冠動脈主幹部に解離が発生しました。対角枝を拾うよりも主幹部の閉塞を起こさないことが優先です。対角枝を諦めて主幹部にステントを置きました(fig. 3)。対角枝は閉塞したままです。

Fig. 4はその2か月後の造影です。対角枝は再開通しています。また心エコーで評価しても側壁はダメージを受けていませんでした。

Fig. 3 After LMT stenting
主幹部にステントを植込まなければいけない危機的状況でしたし。CABGよりもこうした場合はステント植込みの方が救命的だと今現在も信じています。その後、もう6年が経過しました。再狭窄もなく2剤の抗血小板剤(DAPT)も止め、バイスピリン単剤にしていました。

この方が亡くなり報告されたとばかり思っていましたが、数日前に元気に再診に来られました。報告された方はこの方ではなかったのです。

どうせ後から再開通する対角枝を拾いに行ったばかりに主幹部にステント植込みをする羽目になり同部の血栓閉塞の元を作ったとか、DAPTを中止したのがまずかったのかなどと考えてきましたが、元気な姿を見てホッとしました。

Fig. 4 two months after stenting
緊急時の判断はその場では正しくても患者さんに長期の視点で見ればリスクを負わせることがあり得ます。その場の判断は正しくてもあの時、違う選択をしておればと振り返ることは頻度は高くなくても存在します。DAPTの中止も血栓閉塞を見れば中止を後悔しますし、脳出血などを見ればDAPTを中止しなかったことを後悔するだろうと思います。

相反するどちらの判断をしても意図とは異なる結果が発生する可能性はゼロではなく、どちらの選択を行ってもリスクが付きまといます。より安全である可能性が高い選択しかできない臨床の現場には心配だらけです。

こうした心配から逃れる唯一の途は医師を辞めることだけです。ただこの途は、病に苦しむ患者さんを放り出して逃げる途です。

現場にいる限り付きまとう心配は解消しませんが、常に最も妥当な選択をするとともに、その選択でも起こりうる意図しない問題に対処する強い心を持ち続けなければなりません。現場にいる限り心を奮い立たせましょう。



2014年8月24日日曜日

今流行のIce Bucket Challenge for ALSに思う

ほぼ3か月ぶりのブログ更新です。書こうかと思うテーマはたくさんあったのですが、書かないことの「楽」に慣れていました。反応を見る必要もなくネットから距離を置くとこんなにも楽なのかと思っていました。しかし、書かないのかと盛んに言われるのでまた書いてみようかと思い始めました。気負わずに行こうと思っています。

私が30歳の頃、胸痛を主訴に受診された50歳代の男性がいました。お豆腐屋さんです。手作りの豆腐で、早朝に冷水に手を入れて作業をします。この作業中に胸が痛むのです。早朝の冷水を扱う仕事で惹起される胸痛ですからいかにも冠攣縮性狭心症です。果たして冠動脈造影でもエルゴノビンによる誘発テストで右冠動脈が完全閉塞するような冠攣縮が誘発されました。

現在であればカルシウム拮抗剤とニトログリセリンを処方して冠動脈造影の翌日には退院ですが、30年ほど前の当時はもう少し入院中の検査もゆっくりというか丁寧でした。カルシウム拮抗剤の内服下であれば豆腐作りをしても発作が起きないかを見るために内服下に寒冷昇圧試験を行いました。氷水の中に手首を入れ、心電図をモニターしながらST変化を観察するのです。一度目の内服下の検査ではあっという間にSTは上昇しました。房室ブロックも起きそうになり危険な状態です。このためカルシウム拮抗剤を変更して再度、寒冷昇圧試験を行い、発作が誘発されないことを確認して退院としました。主訴である豆腐作り中の胸痛が解決できなければ意味がないのですから…

退院後の通院ではどの季節でも早朝の冷水作業でも胸痛が起きないと喜んでおられました。地元では美味しいと有名な豆腐屋さんでしたが、私自身は一度も口にしたことはありませんでした。そんなことが今でも何か悔やまれます。

この昔話を思い出したのはここのところ盛んにIce bucket challenge for ALSがニュースで流されたからです。ジョージ・W・ブッシュ前米国大統領の動画もニュースで見ましたが確か、彼は狭心症でステント植込みを受けていた筈です。狭心症の方の冷水暴露は危険です。短い人では1分足らずでSTが上昇し、房室ブロックや心室細動が惹起されることもあります。ですから私は私が診ている患者さんにはかき氷を食べたり冷水の作業を行うことのリスクを説明し注意するようにお話ししています。

チェーンメールのような指名の是非や、難病支援のキャンペーンをこのような形で展開することの是非はここでは言いませんが、狭心症の方や狭心症になってもおかしくない世代の氷水の暴露は危険です。そんな狭心症の方へのいたわりもなく指名を続ける人が言う難病への理解とはいったいなんだろうと思えてなりません。