昨日、2016年1月10日、福岡で開催された新しい薬剤溶出性ステントの発売記念の研究会に参加してきました。第3世代の薬剤溶出性ステントという触れ込みです。ステントのストラット厚は薄くなり今までの製品の中では最も薄いものです。また吸収されるポリマーを使用し、薬剤はabluminal側のみの塗布で内皮が早期にはりやすく長期成績の改善が期待されるとされています。
ではこの製品は第3世代なのでしょうか。私は3男で兄が二人います。次兄は長兄よりも背が高く、私は次兄よりも長身ですが3兄弟は同世代に決まっています。ステントストラット厚が薄くなったことだけで画期的とも新世代とも言えないように感じます。また吸収されるポリマーも片面のみに塗布された薬剤も今までにも存在したコンセプトです。既存の製品の改良がなされるたびに新たな世代という表現を使用していると冠動脈ステントの製品寿命を考えると5年後には第7世代とか第10世代と呼ばれるのでしょうか?10年後に第20世代のステント等という表現をしたら滑稽に違いありません。
冠動脈インターベンションの世界で画期的な変化は確かにありました。ステントのなかった時代とステント以後の時代では急性期の合併症の頻度が大きく変わりscaffoldという概念が時代を変えたと思います。画期的新製品です。このBare Metal stentの欠点であった再狭窄を劇的に減少させた薬剤溶出性ステントの登場も時代を画した製品の登場と位置付けられます。
第一世代の薬剤溶出性ステントは時代を画しましたが、欠点もありました。ポリマー由来の炎症の問題、いつまでも内皮がはらないことに起因する晩期の血栓症の問題です。これらの問題解決に投入された新しい薬剤溶出性ステントは時代を画すほどのものではなくても新し世代、第2世代の薬剤溶出性ステントと呼んでよいと構わないと思います。ポリマーの問題、長期に内皮がはらないことに対する問題解決の範囲内の解決で留まっていれば同世代の製品の改良と位置付けるのが正しいような気がします。
ステルス戦闘機は第5世代が中心となり、第6世代のコンセプトも固まりつつあるそうです。しかし、第3世代から第4世代の変化に明確な定義づけがあったわけではなくメーカーが営業戦略で勝手に名づけたとも言われています。ですから世代を規定するコンセプトがないままに第4.5世代ステルス戦闘機というのも存在します。定義がなければ各国で次々と開発されるステルス戦闘機に次々と第〇世代と名付けてゆくのでしょうか?
医師になって38年目です。現在の循環器診療は38年前と比較にならないほどに変化しました。時代は変わり急性心筋梗塞の分野でも安定狭心症の分野でも治療成績は格段に向上しました。しかし、今でも解決できない問題は残っており、それを解決するためのイノベーションを医師や研究者は意識して行わなければなりません。小さな改良のつみ重ねのみでも新たな時代の構築や世代の交代は実現できるかもしれませんが、小さな改良のみでも新たな時代と医師や研究者が考えているのであれば本当のイノベーションは起きないような気がします。
メーカーの販売戦略にのり安易に新世代だと飛びつくことには危惧を感じずにはおれません。医師として研究者として冷静に時代を画す努力を期待したいものです。