Wednesday, July 31, 2013

無言の友人に思いを馳せてこれからもネット上の交流に取り組みたいと思います。

昨日、地方で孤立している先生が、一人で頑張っているがゆえにガラパゴス化しないようにと書いたところ、普段は1日200ページビュー程度なのに469ページビューのアクセスを頂きました。2010年9月30日にブログを開設以後、今このブログを書いている時点で221032ページビューの訪問がありました。2012年1月29日からはGoogle analyticsを使い始めましたが、その後の1年半で実人数33884人が75777回の訪問をして下さり、114614のページビューでした。

日本循環器学会の会員数が2万人余りですからこのブログを1回でも訪問して下さった方は循環器学会の会員数を上回ります。

図は、Google analyticsで見た解析以来の国内のアクセスの分布です。もちろん人口の多い土地からのアクセスが多いのですが全国47都道府県すべてからアクセスがあり、地域数は534でした。全国ありとあらゆる土地からのアクセスがありました。こうした地方からのアクセスを見て、地方でも頑張ってほしいと思うとともに他の先生との接点が少ないがゆえにガラパゴス化しないでほしいと昨日は書いたつもりです。大きな責任を感じています。最もアクセスの多い記事であったプラザキサの記事の訪問数は5000を超えます。安易にAという薬が好きだとか、嫌いだとかは言えないとさえ思います。

私のFacebook友達は僅か208人です。このFB友達とは意見の交換は可能ですが、意見の交換をしていない3万人余のブログの訪問者が存在します。他者との交流なしに自らを高めることはできません。こうした無言の「友人」をも意識しながら、真摯にネット上の交流に努めたいと思っています。

Tuesday, July 30, 2013

他の先生から批判される環境に身を置くことで得られるもの

 1994年に湘南鎌倉病院から福岡徳洲会病院に部長として転勤しました。着任前に前任部長と初めてお会いした時に「PCIはたくさんやればよいというものではない、先生はやりすぎだ」と開口一番に言われました。私が実際に行うPCIを見たこともない先生から言われるのは心外でしたが、数か月間は同じ病院で勤務するのでその間に私のあり様を見てもらえばよいと思いました。その先生は退職前に、ご自分で診ておられた患者さんに新しい部長に見てもらえば心配ないからと引き継いで下さいました。最初の挨拶には驚きましたが一緒に勤務していう間に私の診療のあり様を評価してくれたのだと嬉しく思ったものです。

 しばらくしてPCIのケースも増え、医師の増員が必要だと思っていた時に、思いがけず九州大学循環器の竹下元教授から一人回してあげようかと突然にお電話を頂きました。それで九大からお一人先生が着任されましたが、やはり最初は「この病院のPCIの適応は大丈夫なの?」と斜めに構えておられましたが、そのうちにこの病院の適応はまともだと言ってくれるように変化しました。

 実際に一緒に働かないと分からないことがあります。PCIの件数が多い施設は常にいい加減な適応でやっているのではないかと勘繰られます。

 ある時、私が働いている施設で一緒にカテをして勉強したいと来られた先生がいます。他の病院では部長です。一緒にカテをして私が50%狭窄と読む病変を彼は90%狭窄と読みます。1例だけではなく常に彼の読みは厳しいのです。私は彼に一緒にカテをしても意味がないから来るのは止めてくれと話しました。これも一緒にカテをしないと分からない現実です。


 鹿屋ハートセンターに鹿大からK先生に週に2回ネーベンに来てもらっています。鹿屋ハートセンターで行うPCIはさほど多くはないので一人でもやっていけるのですが彼が来てくれるのは貴重だと思っています。私がいい加減な適応でPCIをやっていれば、あるいは見る価値がないPCIをやっていれば彼は来なくなると思います。私自身はPCIの適応で暴走することはないと思っていますが安全弁があった方が良いと思っています。彼は貴重な安全弁なのです。適応だけではありません。私が立てた戦略についてもおかしなことをすれば批判してくれる先生が存在する環境は重要です。もちろん、彼と私との関係には微妙な力関係が存在し、言いたくても言えないという力が加わる可能性はあります。しかし、ブログやネット上でオープンにする戦略に関してはそれを批判する全国の先生方に私に対する遠慮はありません。実際に厳しい批判を受けることもあります。しかし、孤立せずにオープンにし、批判を受けることで当院のPCIは妥当なものになるのだと信じています。そして患者さんに対するより良い治療や自分自身の成長が保障されるのだと思います。

 上司が存在する環境でPCIの術者や戦略の決定を任されている先生は上司や同僚からの批判を受け入れることで成長すると思います。また施設内で最も権力のある先生も部下からの批判を受け入れることでその施設のPCIの妥当性は担保されると思います。アホでも出来が悪くても、上司や部下がいる環境の方が幸せな気がします。しかし、どんな地方でも津々浦々までPCIが実施できる施設が存在するこの国には、私を含めて少なからず孤立しているPCI術者がいると思います。そんな環境で誤った進化を遂げるガラパゴスPCI術者が生まれないことを願っています。

 学会発表でも、個人情報に留意したブログでも、FacebookのようなSNSでも批判を覚悟で自らの戦略を世に問う姿勢がガラパゴス化を防ぐのだと思います。このような考えで今後も私は、このブログ上であるいはSNS上で自らの考えをオープンにしていきたいと思います。また、私と同様に学会参加もままならず地方で苦労されている先生方にも、ネット環境を利用したオープンな議論の場の構築をお勧めしたいと思います。一人でできると思っていたり、他者との議論を避ける姿勢では過ちから免れないだろうと思います。一人でやっている環境でも他者から批判を受ける方が正しい道を歩めるのだと思っています。

以前にも書きましたがネットで確保されるPCIを高めるための

「連帯を求めて孤立を恐れず」

です。

Friday, July 26, 2013

敢えて前拡張無しのステント植込みを行いました。

Fig. 1 RCA LAO view
 本日も鹿大のK先生と一緒に実施したPCIをふり返ります。

安静時に胸痛を繰り返すということで受診された80歳代の男性です。CTで右冠動脈#1と#2に石灰化を伴う高度狭窄を認めたために入院して頂きました。

Fig. 2 RCA straight cranial view
Fig. 1、Fig. 2は診断カテです。右内頸動脈にも高度狭窄がありFemoral approachです。#1はそれほどの高度狭窄には見えませんが#2の狭窄はぐるっと回転した屈曲部の狭窄です。Ad hocでPCIをすることが多いのですがこの造影結果を見てAd hocをする勇気が出ませんでした。前拡張をしたのは良いけれども大きな解離が発生し、血行動態が破綻するかもしれない、その状況でステント植込みができないかもしれないと考えたからです。こうした屈曲した右冠動脈の拡張時にはずり応力が大きく働き大きな解離が発生しやすいのです。この方は右冠動脈優位で回旋枝はsmallなので尚更です。

Fig. 3 stent delivery without predilatation
PCIをするのか否か、実施するとしたらどんな風に戦略を立てるのか、数日間ずっと考えました。一つの懸念はCTで高度狭窄に見えた#1です。ここでつまづけばその後の#2の治療に辿り着けるはずがありません。#1のみをIVUSで評価してそれなりの狭窄であれば#1を処理してから#2に取り掛かることにしました。#1の問題が解決してからであっても前拡張で大きな解離が発生してBail-outできなければ危機的になります。可能であるならば前拡張無しにステントを植え込んでその後バルーンで大きく拡張してみてはどうかと考えました。このため通過性を重視して2.5㎜のステントを置き、その後に血管径に合わせて大きくバルーンで拡張するという通常はしない手技をとろうと思いました。もし前拡張無しでステントのデリバリーができずに前拡張を要し、解離の発生・血行動態の破綻が起きればIABPを使用するつもりで準備を指示しました。

実際の手技が始まりSAL 0.75をエンゲージさせると圧はウエッジ波形です。サイドホール付に代えて#1のみをIVUSで見ると内腔が狭小化していたためにまず#1に3.5㎜のResolute integrityを植え込みました。この結果、ガイディングは深くエンゲージ可能になりました。この状態で前拡張無しにResolute integrity 2.5mmをデリバリーしたところがFig. 3です。幸いにも病変クロスに成功しました。こうなれば後は簡単です。ステントを最大拡張圧で植え込んだ後、血管径に合わせてバルーンで拡張して終了です。

Fig. 4 Final results after PCI
そけいのシース挿入からPCI後の確認造影まで20分で終了です。生命に関わる合併症の発生もありうるとお話ししていたのでご本人にもご家族にも喜んでいただけました。

PCI後、前拡張無しにステント植込みを行って拡張できなければどうしたのだとK先生から質問です。CT所見で狭窄の前後には強い石灰化はあったものの狭窄部位はそれほどの石灰化でもなく拡張できると予想していたこと等を説明しました。しかし、前拡張無しにステントデリバリーができたこと、十分に拡張できたことは幸いであったことに違いありません。

昨日からTOPICという東日本最大のライブデモンストレーションコースが開催されています。もちろん、自分も参加したかったと思いますが留守番が十分に確保できない田舎では行きたい学会全てに参加することはできません。K先生と2人きりのライブですが実りあるものでした。


Wednesday, July 24, 2013

J-RHYTHM、Re-ly、ROCHET AF、ARISTOTLEを比較してみました。ワーファリンも捨てたものではないと思いますしエリキュースへの期待も膨らみます。

Fig. 1 Net clinical benefit of Warfarin
古くからの友人やパートナーを新しい友人やパートナーができたからといって貶すのは品格のない行為だと思っています。新規抗凝固薬(NOAC)の登場後、ワーファリンが貶されるのを見て心を痛めています。一方で、患者さんにとってメリットのある新薬なのにより効果の劣る古い薬に拘泥するのも正しくないと思っています。

Fig. 2 Incidence of Thromboembolism
Fig. 3 Incidence of major hemorrage
新しい薬剤はランダム化された多施設共同研究(RCT)の結果で実際の患者さんへの使用が認められます。同じ土俵でガチンコ勝負をしてより優れた効果であったという結果はもちろん大切な情報であると思っています。一方で、過去に診療をしてきた経験や過去のスタディーの結果をすべて忘れてそのRCTの結果だけで判断するのもどうかとも思います。 そこで各NOACのメーカーのデータだけではなく日本で行われたJ-RHYTHM Registryを勉強しなおしました。Fig. 1はワーファリンを内服していない方と比べてワーファリンを内服している方でどれほど塞栓症を減少させ、どれほど大出血を増やしたか、またその結果、ワーファリンを内服することで死亡率がどう変化したのかをJ-RHYTHM registryのデ-タから自分なりにグラフに作ってみました。J-RHYTHM registryにエントリーされた患者さんのCHADS2 scoreが低いので良い成績なのだという人もいるので70歳以上のデータだけで見てみました。70歳以上の群で見るとCHADS2 scoreの平均は2.1でほぼNOACのスタディーと同じです。

INRが高くなるにつれてワーファリンを内服していない方と比べて塞栓症は減少していきますが大出血の頻度は増加していきます。しかし、INRが2.99まではワーファリンを内服していない群と比べて総死亡は減少しています。INRが3を超えると総死亡も増加するのでこんなにワーファリンを効かせるくらいなら内服しない方がましだと言えます。ただ2.99まではワーファリンは内服しない群と比べて役に立っているのです。NOACのない時代に一生懸命にワーファリンのコントロールに励んできたことは間違いでなかったと言えます。また、INR1.6未満では逆に塞栓症を増やすとよく言われていますが、このグラフを見ると1.6未満でも塞栓症も総死亡も減らしていることに驚きました。

ではNOAC出現後、NOACと比較してワーファリンはやはり劣るのかという点を各RCTの結果とJ-RHYTHM registryの結果を並べてグラフにしてみました。やはりJ-RHYTHMの結果はCHADS2が同等の70歳以上のデータを使用しました。同じ土俵のガチンコ勝負ではないのでこの比較は意味がないかもしれません。しかし、J-RHYTHMの方は70歳以上のデータですし、約25%の方が抗血小板剤を内服されていたとのことですので各NOACのRCTよりも条件が悪いかもしれません。

Fig.2が塞栓症の頻度ですが、各NOACのNOACとワーファリンの比較ではもちろんNOACの方が塞栓症の発生は減少しています。しかし、J-RHYTHMのワーファリンのデータと比較するとRe-lyの高容量やARISTOTLEのNOACはJ-RHYTHMよりも塞栓症の発生は少ないのですがROCHET-AFではJ-RHYTHMよりも塞栓の発生頻度は高いということが分かります。また、ROCHET AFでのワーファリン投与群の塞栓症発症率の高さは他のNOACのRTCと比較してもなぜか際立っており、これと比較してNOACが良いと言われてもなぁ等とも思います。

Fig. 3は大出血の頻度ですが並べてみるとINR1.6-1.99までのJ-RHYTHMと比べて大出血の頻度が少ないNOACはありません。Apixabanの結果がほぼ同等というところでしょうか?IN2.0-2.59のJ-RHYTHMでは大出血の頻度は増加しますがそれでも各NOACと同等です。やはりApixabanだけがJ-RHYTHMよりも優れた成績です。

繰り返しになりますがガチンコ勝負ではないのでこの比較は意味がないのかもしれません。しかし、このJ-RHYTHMの結果は、日常の当院の診療の実態と近くしっくりと来るのです。メーカー主導で組み立てられるRCTの結果だけではなく、日常診療の実態や、他のデータも見ながら患者さんにとっての最善を考えるのが医師の務めだと思います。上司もいないのでデータをまとめろと言われることもありませんが、面倒がらずに各試験を比較するグラフを作ってみて良かったと思います。考えさせられました。しかし、こうしてみるとApixaban(エリキュース)の成績の良さが際立ちます。長期処方が可能になるのはまだ先ですが、期待は膨らみます。






Friday, July 19, 2013

徐脈低血圧の急性下壁梗塞の話をしたらすぐにそんな患者さんが救急で来られました

毎週水曜日に勉強会を実施しています。看護師だけではなくすべての職種の職員が交代で自分でテーマを決めて発表し、私がコメントするという形式です。多くの場合、当日まで 私はテーマを知りません。一昨日のテーマはカテ後の血管迷走神経反射がテーマで看護師さんのプレゼンでした。

 肘やそけいからカテを実施した後、時に見られる徐脈、低血圧、嘔気・嘔吐等が症状で輸液を早くすることやアトロピンの静注で改善します。このプレゼンの後に血管迷走神経反射だと決めてかかると後腹膜出血やPCI後の下壁梗塞を見逃すので、カテ後の徐脈・低血圧時にはこんなことも忘れずに考えなければならないなどとコメントしました。急性下壁梗塞に見られる徐脈・低血圧も房室結節枝の虚血よりも迷走神経反射によるものと考えた方が良く対処はやはりアトロピンの静注だよと話しました。徐脈、低血圧をもたらすこの反射は、Bezold-Jarish reflex(ベゾルト・ヤーリッシュ反射)というのだよとまでは話しませんでした。

こうした発表の後、話した通りの患者さんが来院されることが少なくありません。もちろん偶然ですし、噂をすれば影ではありませんが、記憶に新しいので印象深いだけかもしれません。勉強会の翌々日である本日、失神を主訴とする救急患者さんが早朝に来院されました。胸痛はありません。1度房室ブロックで心拍数は40程度、II, III, AVFでST上昇です。アトロピンには反応しませんでした。

緊急CAGが始まってすぐにこういう徐脈の心筋梗塞は心室細動(Vf)になりやすいのですぐに電気的除細動をかけられる心づもりを持っておこうねと話した直後にVfになりました。すぐにDCをかけても徐脈のままです。ワイヤーが通って再開通したとたんに心拍数は100程度に上昇しました。こうしてみると虚血の解除で心拍数が上がったわけですから下壁梗塞の徐脈は虚血ではなく反射だよと話したばかりですが、やっぱり虚血が原因かな等と思いながらPCI終了です。

教科書で勉強することはもちろん大切ですが、勉強してすぐに勉強した内容の患者さんに遭遇すると身につきやすいだろうと思います。偶然であっても教科書で勉強するとすぐに患者さんが具体例となって登場し、また教えてくれます。

Monday, July 8, 2013

Ad hoc PCIを実施するケース、実施しないケース

Fig. 1
冠動脈造影を実施し治療が必要な狭窄があればその場でPCIを行うことをAd hoc PCIと呼びます。かつてはこのAd hoc PCIを行うことはまずありませんでしたが、最近は基本的にこの形でPCIを行っています。Fig. 1の方は本日のケースですが#7に高度狭窄がありその場でPCIを行いました。Ad hoc PCIの利点は冠動脈造影の回数を1回減らせるので入院に関わる日数や費用を減らせることです。欠点は十分な吟味をせずにPCIを施行することで適応が過剰になったり、治療戦略を誤ったりすることです。この欠点があるためにかつての私は基本的にAd hoc PCI
Fig. 2
を実施しませんでした。しかし、最近のPCIの多くをAd hocでするようになったのは冠動脈CTで情報を得られるようになってきたからです。Fig. 2はこの方のCT像ですが、LADの1枝病変であり完全閉塞でもなく石灰化もきわめて強いという訳ではありません。場合によってはCAGで得られる以上の情報をCTで事前に見ているわけですから、CT登場以前のAd hocとは全く異なる戦略だと思っています。外来でCTを用いて冠動脈の解剖学的な特徴を知り、2剤の抗血小板剤やスタチンを開始して臨むPCIです。更にほぼ全例にIVUSを実施していますからPCIのために日を改める必要性を感じません。

Fig. 3
Fig. 3の方は強い胸痛の2日後に受診された別の方です。CPKの上昇と心エコーで後壁の壁運動異常を認めました。発症2日後の心筋梗塞と考え、ヘパリン化、DAPT、スタチン投与後に待機的にCAGを行いました。CTは実施していません。回旋枝に高度狭窄を認めるだけではなく、右冠動脈にも前下行枝にも高度狭窄を認めました。責任病変と考えられる回旋枝についてはIVUSガイドでその場でPCIを実施しましたが、他の2枝については日を改めることにしました。流石にCTなしに(CT画像があったとしても)Ad hocで3枝の治療をすることはありません。特にLADの分岐部病変にどう立ち向かうかについてよく考えなければという思いもその場で治療しなかった理由です。

LADはdiffuseに狭窄しそこから潅流域の広い対角枝が出ています。このLADの血管径が2.5㎜なのか3㎜以上なのかでも戦略は変わってきます。また右から治療するのかLADから治療するのかも考えなければなりません。考えなければいけない余地のある病変では安易にAd hocで治療してはいけないと思っています。

Fig. 4
このケースのPCIまでこの画像を何度も何度も見て治療の順序と、LADの分岐部の対処を考えました。考えた末、RCAの治療を先行させることにしました。RCAの治療はステントを用いることでほぼ成功は約束されているのでこちらの治療が時間がかからず終了すればLADの治療を引き続き実施するという順序です。LADに関してはIVUSでLADの血管径を末梢から把握したうえでdouble stentのあり様を決めることにしました。

PCIの実際ですがRCAの治療はスムースに終わりました。ついでLADですが対角枝の分岐よりも末梢のLADの血管径はIVUSで評価して2.5㎜ギリギリでした。大きな血管径の中でdouble stentの操作ができる訳ではありません。両者の前拡張後にfig. 6のように対角枝にstentを先に入れ、LADにもバルーンを置いてmini crushの形にして植込みを行いました。LADの血管径が小さければこのように処理しようと考えていたのでガイディングカテも当院では珍しく7Fを使用しました。初回のPCI後に考えていた通りの手順です。

Fig. 5
多くのPCIが術前のCTの評価でAd hocで可能と思っていますがやはりAd hocが適さない病変が存在します。LMTであったりCTOであったりこのケースのようなbifurcationであったりでしょうか?

自分のポリシーはAd hocだなどと決めてかかれば治療戦略は硬直化します。当たり前といえば当たり前ですがケースバイケースだと思います。

平均在院日数の短縮化や入院コストの低減化なども重要な課題に違いありませんが、優先されるべきは安全で確実な治療の完結です。

硬直を排して患者さんに向き合いましょう。
Fig. 6





Monday, July 1, 2013

PCIの件数を増やすための努力 品のない努力ではなく患者や後輩を守るための努力だと思っています。

居酒屋を開店し、商売がうまくゆくようにチラシを配ったり、開店セールを行ったりする営業努力は当然です。また新しい商品を開発しそれを扱ってもらったり購入してもらったりするために売り込み努力・営業努力を行うのも自然です。しかし医療機関が患者さんを集める努力をすることは、金儲け主義だと言われたりで当然の努力と評価されないことが多いように感じます。また法的にも医療機関の広告は禁止されています。

では医療機関は営業努力せずに診療を求める患者さんの求めだけに応じていればよいのでしょうか?かつて大隅半島にはPCIが実施できる医療機関は存在しませんでした。このため緊急でカテーテル治療が必要な患者さんでさえ2時間もかけてフェリーに乗って錦江湾の対岸の鹿児島市を目指さなければなりませんでした。このため搬送中の死亡も少なくはありませんでした。PCIができる施設が近くになければ緊急を要する訳ではない狭心症の方もなかなか遠方の病院には受診できず重症化は避けることができませんでした。時代は変わり、現在、鹿屋市内には4つのPCI実施可能医療機関が存在します。合計のPCI件数は年間700件を超え、人口10万人当りの実施件数は全国有数です。この結果でしょうか、最近は慢性完全閉塞を診ることがほとんどなくなりました。十分なPCIの供給の行きつく先は重症の虚血心患者がいない時代ではないかとさえ鹿屋で感じるほどにこの地の循環器診療は変化しました。しかし、こうした変化はPCI実施可能施設が増えただけで実現したとは思いません。当地で治療可能であることやどんな時に受診すればよいのかという知識の普及なしにはなしえなかったと思っています。

2000年に鹿屋に転勤し2005年に徳洲会を退職するまでの間に鹿屋市内の全公民館95か所を含む数百か所で講演を行いました。当地で治療可能なこと、僅かな胸部症状でも受診した方が良いことなどをお話ししましたが講演回数は5年間で400回を超え、その時にお渡しした私の携帯電話番号を書いた名刺は4万枚を超えていました。こうした努力の結果、最近では「心臓まで管を入れて検査・治療をしなければいけませんよ」とお話しすると、患者さんから「カテーテルですね、手からですか足からですか」とすぐに聞かれるまでに啓蒙が進んだと実感します。

医療機関の営業というと品がなく聞こえますがこうした啓蒙の結果は地域の診療の成績を良くすると信じています。しかし、こうした努力は患者さんのためだけではないと最近はよく考えます。カテーテル治療を主とした循環器医を目指す若い医師がカテーテル治療学会の認定医や専門医になるためには認定医になるまでに300例の治療実績、専門医になるためには認定医になってから更に500例の治療実績を求められます。また、専門医になってからも5年間で350例の治療実績がなければ専門医の資格は維持できません。専門医の資格を維持するために年間70例ほどの症例数が最低でも必要なのです。こうした症例数を維持できない施設やこの症例数を超えていても研修施設の資格を持っていない医療機関で働く若い医師には将来の専門医の道は開けません。先達として後に続く後輩を専門医に育てるためにも症例数を維持する努力は必要なのです。患者の求めだけに応じていればよいのだという医師は、地域の患者に対して冷淡で、後輩の未来を考えない薄情ものだと思えます。

とはいうものの、徳洲会時代に猛烈に行ってきた医療講演という名の営業努力は鹿屋ハートセンター開設後まったく行ってきませんでした。PCI件数が飽和した当地では患者さんに対する啓蒙よりも若い先生たちが専門医を目指せる仕組みを作り上げることが重要だと今は思っています。過剰な施設数になった当地のPCI実施可能医療機関が整理され、1医療機関当たりの件数が研修施設にふさわしいものになるために淘汰さえ必要だと考えています。未来の医療を担う先生たちのために淘汰が必要であるならば大隅半島唯一の研修関連施設である当院から再編を考えるべきなのではないかと考えています。

若い先生たちが専門医になるための場を維持することは将来の患者さんの診療を保証します。未来の患者の診療を担う未来の専門医に思いをはせて営業努力を大切に考えたいものです。