この記事をみて、昔を思い出しました。関東の病院で主治医を務めさせていただいた患者さんのことです。25年以上前の患者さんです。低いEFで左室が拡大し、心不全で入院されていました。この方は、カルベジロールの処方でEFが改善し、左室も縮小しすっかり元気になられたのです。その後、私が福岡に転勤した時には、彼の福岡での仕事の合間に一緒に食事をとったりと、転勤してからは友人としてのお付き合いでした。福岡での再開後、しばらくして彼が心不全で亡くなったと聞きました。あんなに心機能も回復していたのにどうしてって考えさせられました。転勤後、引き継いだ先生はこんなに心機能も良いのにこんなに薬は必要ないだろうと減薬されていました。EFの改善したDCMの方に対する治療は確立されていませんから、その先生に落ち度があったわけではありません。
このテーマについて書かれた論文が2019年のLANCETの論文です。彼が亡くなってから20年以上たってからの研究です。EFが改善したケースの薬物療法については確立したものはないので、薬物療法を継続する群と中止する群を比較したPilot studyです。結果は、治療を中止した群で再発が多かったというものでした。
2番目の図は鹿屋ハートセンター開設間もないころに来院されたDCMの方です。心拡大し、胸水が貯留し肺うっ血の著明な方でした。13年後の胸写は別人のようです。
初診時のEFは22%、LVDDは58㎜でしたが、現在ではEF=71%、LVDD=43㎜です。初診当時使用していた利尿剤はこの心機能ですからもちろん不要です。現在の処方はARB、βブロッカー、MRAです。60歳代の終盤に受診され、現在は70歳代中盤になりました。この方の寿命と私の医師としての寿命のどちらが長いかは分かりませんが、彼の寿命の方が長ければ誰かに彼を引き継がなければなりません。心機能の良好な方を診て次の先生は、どこがDCMだよなどと考えて薬物療法の継続が途切れなければ良いがと考えています。ちゃんと情報を伝えなければなりません。
私のDCMに対する薬物療法の基本的な考え方は「心機能が回復しても治療をやめません」です。