Wednesday, February 23, 2011

公務員の無謬性という名の誤謬 PMDAにフランシス・ケルシーは登場しないのでしょうか

Fig. 1 Answer from PMDA to my Question
  毎週の、あるいはこの1月のアクセスランキングを見ると、常にstent fractureに関わる、投稿が上位に顔を出します。比較的、新しい投稿にもかかわらずこのブログ開設以後すべての投稿の中でも3つのPMDAに関する投稿は上位10位にランキングされます。それほどに関心が高いのだと思っています。しかし、1/29以後、しばらくこの話題は投稿しませんでした。


Fig. 2 Masked PMDA document

医療機関の監督官庁である厚生労働省と関係の深いPMDAに対する批判が、当院の運営にマイナスにならないかと少し危惧したことが一つの理由です。やはりお上にたて突くには少しの勇気が必要なのです(ただ、たて突く気持ちもありませんし、たて突いているとも思っていませんが…。)投稿しなかったもう一つの理由は、おかしな人間だと思われたくなかったからです。ありもしない行政とメーカーの癒着を騒ぎ立てたり、科学的な検証もせずに怖い薬だとか医療機器だとかと騒ぎ立てたりする人間だと誤解されるのではないかと危惧したからです。

ブログの投稿後、ステントメーカーの対応は驚くほど真摯でした。PMDAの承認書類の存在を教えてくれたのも、試験にBOSEのマシンを使用していることを教えてくれたのもステントメーカーです。あるメーカーは、東京からわざわざ学術の方が鹿屋まで来られて、stent fractureに危機感を持っており、新たな試験方法を検討していることまで教えてくださいました。メーカーが発生している問題についての正しい認識を持ち、対策を真面目に考えてくれているのであればこの問題は必ず解決するものと信じます。それが故に、真面目な対応をして下さるメーカーのステントを使い続けたいと思っています。

一方、PMDAはどうでしょうか。このようなことをするとやはりストーカーのような人間と思われないかと少し心配でしたが、PMDAの国民の声というコーナーにどうしてPMDAは、透明性をうたいながら黒塗りなどするのかという質問を投げかけました。そして、本日PMDAのそのコーナーに返事が掲載されました(Fig. 1。) 思っていたように、PMDAは事実を隠して、利権を得る伏魔殿ではありませんでした。回答をくれるだけ、PMDAが創設された意味があると思っています。

ただ問題は内容です。『「独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律」に基づき、(中略)、法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報等について、マスキングを行っております。』とのことでした。Fig. 2は、やはりPMDAが公開しているステントの承認文書ですが、ステントの基本的な情報、ストラットの厚さや幅の情報です。やはり黒塗りされています。ステントのストラット厚はメーカーが公表している基本的なスペックです。メーカーが公表しているスペックをPMDAが公開することはメーカーの権利や競争上の地位、正当な利益を害するのでしょうか。また、私が問題にした、試験方法までなぜ隠さなければならないのかという点ですが、正しい試験方法で耐久性が確認できたという内容であれば、メーカーの競争上の地位は高まり、正当な利益も高まるはずです。そこを隠してしまうからこそ、疑念が生じてしまっているように思えてなりません。こんなことを言っては失礼かとも思いますが、マスキングした担当者には、国民に公表すべきデータとメーカーの利益を保護するために公表すべきではないデータとの区別をつける能力が欠如しているのではないでしょうか。

今回の回答は独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律の第五条 二 イに記載されている通りです。この条文に基づき不開示にしたものであるから、マスキングしたことについて瑕疵はないとのことだと思います。公務員の無謬性です。
一方、この法律の最も大事な目的を記載した第一条では「この法律は、国民主権の理念にのっとり、法人文書の開示を請求する権利及び独立行政法人等の諸活動に関する情報の提供につき定めること等により、独立行政法人等の保有する情報の一層の公開を図り、もって独立行政法人等の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする。 」と記載され、独立行政法人等の有するその諸活動を国民に説明する責務がうたわれています。
さらに第七条では「独立行政法人等は、開示請求に係る法人文書に不開示情報が記録されている場合であっても、公益上特に必要があると認めるときは、開示請求者に対し、当該法人文書を開示することができる。 」と記載され、法人の利益よりも公益が優先すると記載されているのです。
メーカーからどうして公開したのかと責任を問われないために最も確実な方法は公開しないことです。無謬性が担保されます。しかし、こうした構造は、公務員の無謬性を担保するために公益を侵してしまう誤謬のように思えてなりません。正しい情報が、正しい医薬品や医療機器の進歩に繋がり、メーカーや国民の利益が担保されるのだと思います。
メーカーや議員からの圧力に屈することなく、サリドマイドの米国における認可を阻止したFDAのフランシス・ケルシーのような人物は、PMDAに登場するのでしょうか? 彼女のような存在があれば、PMDAの権威やPMDAへの信頼は高まり、国家戦略である日本発の医薬品や医療機器の市場の創設が前に進むのではないかと思います。


Monday, February 21, 2011

PCIに伴って発生する危機的な状況 IABPに対する考え方

Fig. 1 RCA before PCI
   本日のPCIの方です。1月に#6-8のびまん性の99%狭窄のためにACSとなり、ステント植込みを行った方です。石灰化したびまん性の病変のために一部にステントを置けずに解離を残して終了しました。このためRCAのPCIは時期を開けることとして本日のPCIとしました。右冠動脈有意で回旋枝は小さく、本日のTaegetは#4AVですが潅流域が大きいので適応と考えました。

1月前にPCIを右そけいから行ったために小さな硬結があり、本日は左そけいのアプローチです。腸骨動脈の蛇行が強く25cmのシースもキンク気味です。


Fig. 2 RCA during PCI, #4AV occlusion due to dissection

LADは、解離を認めるものの血流は良好であり、予定通りRCAへのPCIを開始しました。Fig. 1はPCI前のものですが末梢の矢印がTargetです。近位部に透亮像が見えます。このような形態は石灰化の強い透析患者によく見られます。一見、狭窄は強くないのですが、強い石灰化を伴った狭窄であることがほとんどです。IVUS で見ると全周性の石灰化で偏心性病変です。ただ、IVUS が通過するのでそのままstentも通過するかもしれないと考え、#4AVのpredilatationを行いました。次いで、sten t植込みを図ったところやはり、近位部の矢印の部分でstentは通過しません。このため近位部にもpredilatationを行いstent植込みを行うことにしました。4㎜でpredilatationを行っていたにもかかわらず、stent はやはり矢印の部分を通過せず、やむなく入口部から4mmのVISONを植え込みました。これで矢印の部分にもstent植込みができると考えたのですがやはり通過できませんでした。こうしてstentが持ち込めないままに、もたもたしていると胸痛の訴えが出てきて、II, III, AVFでST上昇です。


Fig. 3 RCA After stent implantation

      Fig. 2に示すように、前拡張した#4AVが解離のためにほぼ閉塞です。潅流域が大きいため、血圧も下がり、除脈にもなり状況は危機的です。そもそもこのもたもたの原因は、左腸骨動脈の蛇行のためにガイディングカテのコントロールが十分ではなかったからです。蛇行が強い動脈にIABPを入れるのはハイリスクです。ステントも通過が困難です。ステントも植込み困難、IABP もハイリスクの状況で起死回生の一手と考えたのは右そけい穿刺でした。右そけいからMedikitの45cmシースを挿入し、ガイディングカテのコントロール性を改善した上でbackupのよいSAL1.0を持ち込みました。さらにこの中にTERUMOの5F Heartrail straightを入れ、stent の入っている#1を超えたところでFig. 1の近位部の矢印の部分に4.0㎜のステント植込みが可能になりました。この後、5Fカテを更に進めて#4AVにもステント植込みが可能となりました(Fig.3)。

胸痛はなくなり、STは正常化し、血圧も安定です。肝を冷やしましたが、危機を脱出です。

血行動態が破綻し、ステントも持ち込みづらい状況では、IABP はよい適応です。必要な状況で、IABP に伴うリスク以上の危機的な状況であれば、IABP を使用することに何もためらいはないのですが、私はIABPをなるべく使いたくないと考えています。IABP に伴う、腹部血管や下肢への塞栓症のリスクを考えるからです。冠動脈解離などであればさまざまな手技で多くの場合、制御可能です。しかし、IABP に伴う合併症の場合、いったん発生すれば制御できません。IABPは、神様任せの手技ともいえます。ですから、自分で制御可能であるうちは、なるべくIABPを使用しないように心がけています。一方、IABP を使わないということに拘泥しすぎると、助かるチャンスを失うこともあり得ます。IABP をなるべく使わないで危機を脱する方法を考えながら、IABP の使用を想定し、使用するタイミングを図るというのが正しい考え方のように思います。今日のケースでも、右そけいからの45cmシース挿入が、起死回生とならなくてもIABP挿入のシミュレーションにはなりました。一つの策を実行しながら、その次の策も計るという考えです。一つの策に固執することは危険です。常にオプションを持ち続けなくてはなりません。

そうした考えで臨んできたからでしょうか。鹿屋ハートセンター開設後、4年間の約900件のPCIでIABPを使用したケースは10例あまりです。年間に数例のIABP使用ではもちろんIABPのスタンバイはペイしませんが、これも万一に備えた必要な損失と考えればよいことです。

Wednesday, February 16, 2011

GE Optima CT660proで心房細動でも冠動脈評価は可能です。他のメーカーのCTではどうなのでしょう?

Fig. 1 LCA evaluated by MDCT in Pt with chronic Af
  慢性心房細動患者でも64列MDCTで冠動脈は評価可能であるという場合、狭窄の存在を明らかにできますよという陽性の診断と、ありませんよという陰性の診断の両方ができなければなりません。一方でありなしとは別に狭窄の程度も評価できますよということが重要です。

本日PCIになったこの方も慢性心房細動で、当院でワーファリン化をしていた方です。布団の上げ下ろしで4-5分の胸部症状があると初めて言われました。Optima CT660pro導入後にAf患者での評価が十分に可能と考えるようになっていましたので、この方もまずMDCTで評価しました。Fig. 1の左冠動脈像では前下行枝に石灰化を伴う高度狭窄を認めます。また、Fig. 2の右冠動脈では近位部に非常に高度な狭窄を認めます。外来でのCTの結果を見てすぐにプラビックス、バイアスピリンの2剤の抗血小板剤を追加しました。本日、CAGです。

Fig. 2 RCA evaluated by MDCT in Pt with chronic Af


Fig. 3の左冠動脈、Fig. 4の右冠動脈もMDCTの評価通りの狭窄です。存在をほぼ確信して2剤の抗血小板剤の内服も開始していますから当然のようにAd hoc PCI です。しかし、Ad hocで2枝を同一日にする勇気がまだありません。本日はより狭窄の強いRCAにPCIを実施しました。 Terumo run through extra floppyでwire crossし、最近お気に入りの Boston NC Quantum Apexで前拡張、PROMUS を植え込んで終了です。LADは来週 実施予定としました。


慢性心房細動患者に合併する狭心症を正しく診断して見つけることは、簡単ではありません。この方は60歳代前半の女性で「狭心症らしさ」の少ない方です。MDCT なしで見逃さずに診療できていたかを考えると疑問です。

Fig. 2 LCA on 16, Feb. 2011

当院への64列MDCTの導入は相当に遅れました。16列で診療していた時代、64列を持っている施設をうらやましく思ったものです。その当時、今の私ほど64列でAf患者でも冠動脈はよく分かると言っていた施設をあまり知りません。64列MDCTを用いたAf患者の冠動脈の評価は GEのCTでのみ可能なのでしょうか。もちろんそんな筈はないと思っています。12/2/2010のブログで各メーカーのユーザーがそれぞれのレヴューを明らかにしましょうよと提案しました。各メーカーのユーザーが色々な形で評価を明らかにしてもらいたいと思っています。








Fig. 4 RCA before PCI on 16, Feb. 2011

Tuesday, February 15, 2011

LMTへのPCIをしながら考えさせられたこと 地域の雇用と経済

Fig. 1 LCA spider view on 6th, Jan. 2009
70歳代前半の女性、140cm、75㎏ 、BMI=38の極端な肥満でDMの方です。A1Cは6.4%でLDLはリピトールを内服して73㎎/dlでコントロールは良好です。土曜の夜から胸背部痛が続き、日曜の朝に救急車で来院されました。ECG上ST上昇は認めませんがCPKは434U/Lと軽度上昇です。NSTEMIです。Fig. 1に示す2年前のCAGではLAD take-offに50-75%狭窄を認めます。LAD take-offですからこの部位が原因のACSであればhigh rsikです。緊急CAGをとも思いましたが踏み切れませんでした。

Fig. 2 LAC spider view on 15th Feb. 2011
同意書を書いていただくご家族がおられないのです。成人ですから、ご本人の意思で同意して頂き、riskのある検査や治療を行うことはもちろん可能です。しかし、ご本人の意思だけで実施すると、問題が起こった時に、ご親族から何故、勝手にやったと責められることがあります。一方、同意していただくご家族が見つからないために必要な処置ができずに死に至った場合、逆に、死にそうなのに形式的な同意を待って必要な処置を何故しなかったと責められることもあります。同意して頂くご家族がいないと、進んでも待っていてもトラブルが多いのです。

息子や娘たちが都会で就職したために高齢者が孤立しているという率が最も高いのが鹿児島県であると聞いたことがあります。(何を何で割って率を出すのかは知りませんが…) このため、緊急時に同意をいただくご家族が見つからずに困るケースは頻繁に発生します。地方での救急医療の困難はこんなことでも発生するのです。


Fig. 3 After PROMUS stenting

月曜になって、鹿屋市役所の職員にも協力していただき、電話ででも同意していただける方がいないかを探しましたが見つかりませんでした。

いつまでも猶予はありません。本日、ご本人の同意だけでCAGを実施しました。LAD take-offの進行だけであればと考えていましたが、最悪の状況です。LMTの分岐部の狭窄です(Fig. 2。) この結果を見た時に、最初に考えたのはCABGです。同意する家族がいない中で、CABGに回して心臓外科の先生に苦労をかけるのは目に見えています。また、同意していただく方を探している間に死に至る可能性もあります。いろいろ考えた末、瘦せろ痩せろと診察室で喧嘩しながらも3年間診てきた私が責めを負えばよいと考え、ご本人の同意だけでPCIを実施しました。

Fig. 4 IVUS image after PROMUS stenting
ACSですので血栓の関与等を心配しましたが、図らずも同意をしていただく方を探している間のヘパリン化でconservative srategyになっていました。殊の外、スムーズに治療は進み、Fig. 3のようにきれいな仕上がりになりました。LMT-LADにPROMUSを置き、CXに向けてはバルーンのみです。Fig. 4に示すようにIVUSで見ても11時から1時方向に見えるCXにも問題はありません。

ホッとしました。

   孤立している高齢者が多い鹿児島県ですから、冗談で「鹿児島県は、日本で一番、親不孝な県だ」と時々言ってしまいます。しかし、本質は、若い人たちの雇用を支えられない地域の経済力が孤立した高齢者を生み出しているのだと思っています。その地域、その地域の医療は、そこで働く医師だけではどうしようもない問題を抱えています。鹿屋ハートセンターのささやかな経済効果だけではなく、この地域の住民としてこの地域の雇用や経済を考えなくてはなりません。

Saturday, February 12, 2011

「狭心症らしさ」とニトログリセリン

  昨日、「狭心症らしさ」と書きました。自分で書いたのに「狭心症らしさ」とは何だろうと考えました。

布団の上げ下ろしで胸に違和感を感じるという主訴で来院される方がいます。経験的に相当高い確率で狭心症が見つかります。この程度のことで病院に行こうとは思わない方が大半ですから、この訴えで病院に来ること自体、本人が「大したことはないのですが…」と言っても、相当に気になる症状と考えたほうが無難です。自分には病気があると思いたくないという心理が、患者さんをして「大したことはない」と 言わしめます。こう話をする方に、ヘビースモーカー独特の顔面の深いしわや、耳たぶのしわ、まぶたの黄色腫、メタボリックシンドロームを思わせる大きな腹囲,やにで黄色く変色した爪などがあれば、なお一層、「狭心症らしく」見えてきます。病歴も「狭心症らしさ」を引き立てます。しかしこの段階で「狭心症らしさ」を感じても印象に過ぎません。負荷心電図でスクリーニングをしますが、負荷心電図では本当に厳しい狭窄のある方でも、陰性に出ることはままありますし、そもそも運動負荷心電図検査ができない方も少なくありません。血液検査で糖尿病や高コレステロール血症を有無を見て、なお疑わしいということになれば、今は冠動脈MDCTで簡単に冠動脈を評価できます。しかし、何のリスクファクターもない方でも狭心症の方はおられるので、「狭心症らしさ」を感じていなければ冠動脈MDCTすら検査しないわけですから、やはり「狭心症らしさ」を感じ取ることは重要です。

一方で「狭心症らしさ」がないのにシビアな狭心症の方もおられます。「なんだか胸がおかしい」という訴えの40歳代後半から50歳代前半の女性の場合、多くは更年期の症状ですが、時に厳しい狭心症の方もおられます。かつて見た方はこの範疇の方でしたが、冠動脈には近位部に自然解離を伴った90%狭窄がありました。見逃さずにすべての狭心症の方を見つけようと思えば、かなり敷居を低くして検査をしなければなりません。この敷居も、循環器専門医であれば更に低くしなければなりません。急性心筋梗塞を見逃したことが問題になった裁判で、循環器専門医でもない医師に診断が難しいケースでも正しく判断しろというのは酷だという判断で見逃した医師には責任はないと判断された判決が出たことがあります。でも私たちは、冠動脈を専門とする循環器専門医ですから正しく判断できなくても仕方がないとは言ってもらえないのです。おのずと敷居を低くしなければなりません。この場合にも冠動脈MDCTは力を発揮します。循環器専門医だからといって、敷居を低くしてやたらと冠動脈造影を実施するよりも、MDCT のほうが良いに決まっています。見逃しを少なくしようとすれば検査の敷居は低くなり過剰に検査する傾向になり、過剰な検査を排除しようとすれば見逃しは増えます。

   MDCT でも狭窄は認められない、あるいは狭窄が軽度であった、でも「狭心症らしい」症状がある場合はどうでしょう。そこで威力を発揮するのがニトログリセリンです。ニトロを舌下するとすっきりと楽になったと言われればもう狭心症と判断して良いと思われます。冠動脈のスパスムが関与している狭心症、冠攣縮性狭心症です。

最近気になっているのは、こうしたケースです。朝方の胸部不快があり、冠動脈CT検査を受けたが異常はなかった、きっとスパスムだろうからこの薬を飲みなさいと言われて内服を開始したがかえって調子が悪という方が時々受診されるのです。 例えばカルシウム拮抗剤であるバイミカードと硝酸剤であるフランドルを朝と寝る前に飲みなさいと、いきなり1月分も処方されているのです。この種の内服でよくある頭痛とドキドキで辛いと言われて来院されます。患者さんに「そもそもあなたの病気は狭心症なのですか?」と少し意地悪な質問をすると、そう言われたからそうだと思うと返事されます。「ではニトログリセリンを胸の症状の時に使ったことがあるのですか」と聞くと使ったことはない、もらってもいないと答えられます。

唖然とします。

朝方の胸部不快感があり冠動脈MDCTで狭窄がないからスパスムだろう、この薬を内服しなさいといった診療がなされているのです。狭心症の診断に際してニトロの効果を判定することすらできない医師がMDCTを使って診療していると思うと背筋が寒くなります。当たり前のことですが「狭心症と分かってから治療を開始しましょう、ニトロが効いたら頭痛が起きにくいカルシウム拮抗剤を使いましょう」といってこのような患者さんにニトロを渡して経過を診ますが、MDCT を使いこなす以前に冠動脈疾患の診療を知らない医師が育ってきているのかと思えます。GERD などと鑑別もできない医師がMDCT という武器を使って診療しているのです。患者にもその医師にも不幸なことです。

Friday, February 11, 2011

患者情報・デバイスの特性・予想される合併症・準備できるバックアップをよく知り、PCIの戦略を組み立てる。

Fig. 1 Sever calcified leion before PCI
  昨日は、16時にはカテも終了し、18時前には夕方の回診も終了。久々に18時台にブログを書き上げようと思っていましたが、急患です。#6の完全閉塞と#1の血栓を伴う90%狭窄の重症AMIです。両側SFAの閉塞があり、そけいの穿刺も石に針を刺すような感触です。重症であってもIABPを入れたりするときっと下肢虚血を起こすでしょう。IABPのバックアップなしの重症の治療ですから救命できるかと案じていましたが、今朝は空腹を訴えています。80%しかなかったSPO2も99%です。油断は禁物ですが乗り切れそうです。


Fig. 2 After PROMUS stenting in Pt with sever calcified LAD stenosis

  昨日書こうとしていたのは2/5付ブログに載せたAf患者の#6狭窄のケースです。2/9にPCIを行いました。この方にはMDCTを行っていませんでした。長い慢性心房細動の病歴がある方ですが、最近になり労作でドキドキがひどくなったという訴えです。心房細動患者が労作でドキドキを訴えられたからといって安易に心房細動に原因を求めてはいけません。長い病歴なのに急に悪化したのはなぜかと考えると、冠動脈疾患ではないかと思えます。冠動脈石灰化を評価してもよいのですが、なにか心房細動だけでは説明できないという予感で入院していただきました。科学的ではありませんが、典型的ではなくても感じる「狭心症らしさ」の感覚です。MDCTのない時代、この「狭心症らしさ」を根拠に負荷心電図陰性でもCAGを行うケースは少なくありませんでした。科学的ではなくてもこの「狭心症らしさ」を根拠にCAGをしても、正診率は決して低くありません。MDCTの普及で、「狭心症らしさ」を感じ取る能力が鈍らなければと良いがと思っています。

Fig. 3 IVUS image after PROMUS stenting
  Fig. 1はPCI前の造影です。この写真では判然としませんが、冠動脈3枝が石灰化のために造影をしなくても確認できます。2/4の診断カテ時には普段のようにAd hoc PCIにしませんでした。この石灰化が原因でPCIが不成功に終わり、緊急CABGになる可能性を考えたからです。私自身には200例ほどのRotablatorの経験がありますが、当院では施設基準の関係でRotablatorは実施できません。



  Rotablatorが実施できる病院に紹介しようかとも最初からCABGをお願いしようかとも考えました。Rotablatorが必要な患者さんが見つかれば私は、信頼する宮崎市郡医師会病院のS先生にお願いするようにしています。また、CABGは近くの大隅鹿屋病院のN先生にお願いするようにしています。結局この方の場合、自分でPCIをすることにしました。一つの根拠は、#6の近位部でありステントを持ち込むにあたって抵抗となる距離が短いと考えたからです。frictionの距離が長い#7であったり、LMTから急角度でLADが分岐するような方だとステントを持ち込めない可能性が高くなります。そうした状況が予測されるようならCABGないしRotablatorです。

  バックアップをしっかりと確保するためにガイディングカテはEBU3.5です。ワイヤーを通過させ、試しに2.5㎜バルーンを通過させようと思いましたが全く通過できません。次いでTerumoのTAZUNA 1.25mmX10mmを選択し、通過が可能になりました。1/19付ブログCTOで通過性に関して最も信頼しているのはMedtoronicのLegend 1.25mmだと書きましたが今回はTerumoです。選択の理由はRBPです。Terumo TAZUNAは14atm、Medtronic Legendは12atmだからです。硬いことが予想されるためより耐圧性の高いバルーンを選択したのです。

  通過の後の課題は、拡張可能かどうかです。Tazuna 1.25㎜で14atmで拡張した後、通過に抵抗のあったバルーンの出し入れに全く抵抗はなくなりました。先ほど通過しなかった2.5㎜ Tazunaは今度は容易に通過です。やはり14atmで拡張しますが今度はindentationが取れません。やはり硬いのです。このためすぐにステント植込みを行わずにやはりTerumoのHiryuにバルーンを替え、18atmでindentationが取れました。ここでようやくPROMUSを出しステント植込みです。選んだサイズは2.75mmです。LADの近位部ですから少なくとも3.0㎜にはしたいところですがPROMUS(Xience V)のバルーンはコンプライアンスの高いバルーンです。硬くて拡張できないがために、拡張圧を上げてゆくとコンプライアンスが高いために予想を超えて拡張してしまう可能性があります。それに備えた選択が2.75㎜です。2.75㎜で拡張後のIVUSでは十分な拡張は得られていませんでした。このため今度は3.0㎜にTerumo Hiryuで高圧の後拡張です。Fig. 2のPCI後の造影、Fig 3のPCI後のIVUSともに納得のゆく結果でした。

  2/9付のブログでは10分のPCIを書きましたが、この方のガイディングカテのエンゲージから抜去までは約40分です。IVUSもしないでさっと終わるPCIとIVUSを駆使して時間をかけて結果を得るPCIとではどう戦略の立て方が違うのでしょうか。経験・患者情報・デバイスの特性、予想される合併症などから組立てられる論理的な思考がやり方を変えさせます。それでも起こるvarianceに対処する準備も必要です。この方の場合、拡張できず、flowが落ちてきた場合に備えて、大隅鹿屋病院のN先生に緊急バイパスになるかもしれないと伝えてありました。普段は検査しない血液型もチェックしていました。うまく拡張できましたとN先生に連絡しながら、心臓外科の先生がバックアップしてくれていることが、PCIの戦略を立てる意味でも重要だという認識を深めました。

Wednesday, February 9, 2011

MDCTでリスクを評価し、戦略を決定したSVGに対するstent植込み

Fig. 1 SVG stenosis at anastomosis revealed by Coronary CT
昨日のケースです。 17年前にCABGを受けておられます。LITA-LAD、SVG-D1、SVG-CXです。SVG-CXは閉塞していますがLITA-LADはpatentです。昨年末から歩行時の胸痛がありましたが、1月になり排便だけでも胸痛が出現するために入院となりました。以前から変性したSVGのD1吻合部が気になっていました。変性したSVGの中を通って拡張に行くのはhigh riskです。D1だけですから詰まってもよ良いのではないかとも考えましたが、閉塞したCxへのcollateral のfeederにもなっています。この方のLVEFは46%ですから、D1領域、Cx領域の梗塞を起こすとダメージは少なくありません。軽労作での胸痛の存在も考えれば、詰まってくれたら良いのにとも言えません。リスクを承知で血行再建を考えなくてはいけません。

Fig. 2 Before P
この方のPCIは当初 2/7を予定していましたが、リスクを考えると不安が募り、1日 日程を遅らせて2/7にCTを撮影、2/8のPCIとしました。

    Fig. 1のCT像では、SVG内はsoft plaqueだらけです。しかし、狭窄部はD1に入ってからですし、ステントのproxymal edgeがSVGにかかってもごく一部です。この所見なら相当な安全性でPCI可能と考え、自信を持ってPCIに臨みました。


Fig. 3 After PROMUS stenting

バルーンが狭窄部にあるだけで、拡張したSVG内に造影剤はプーリングします。さっと前拡張し、PROMUSを置いて終了です。Fig. 3に示すようにきれいな拡張がdistal emboliなしにできました。議論はあるでしょうが、IVUSはあえて使用しませんでした。plaqueの性状を見ている間の虚血や血栓形成の可能性を考えれば、余計な手間や時間をかけずにさっとPCIを終了するのが良いと考えてのことです。ガイディングカテをエンゲージさせてから、抜くまでFig. 4のカテ記録のようにおよそ10分の手技です。

PCIの翌日である、今日、患者さんは試しに階段を昇り降りされたそうです。胸痛なく昇り降りできたと喜んでおられました。

    PCI 前にメルビンを内服されていたので造影に備えて中止し、4日間のヘパリン化を先行しました。その上でMDCT で病変の性状を評価した後のPCI です。リスクをたくさん説明したのにこんな短い時間で終わったのですかと奥さんが拍子抜けされていました。短い手技時間と、成功はその前の評価が勝ち取ったものですから、10分で終了という訳ではありません。その前に時間をかけたからだよと言いたい気持ちは自分の胸に仕舞いました。


Fig 4. Medical record during PC

こうしたケースに大病院が向かい合う時にはどう対処されるのでしょうか。 大病院のほとんどがDPC病院になりました。DPCの病院では、このような周到な準備は経済的に評価されません。どのような治療、疾患にもvariance が存在するのに準備が周到であればあるほど病院の経済的な負担が増してしまうというのはいかがなものかと考えてしまいます。




Saturday, February 5, 2011

慢性心房細動患者でも64列MDCTで冠動脈評価は可能です。


Fig. 1 LAD evaluated by MDCT in Pt with chronic Af
04, Feb. 2011
   月初めはレセプトの症状詳記書きでいつもうんざりですが必要なことです。頑張ってやりぬきましょう。でもすこし気晴らしにBLOGでも書くことにしました。

   Fig. 1は、昨日撮影した患者さんのLAD、Fig. 2は本日撮影した患者さんのLADです。共に慢性心房細動の方です。Fig. 2の方は除脈性のためにVVIが植え込まれており心拍はregularですが、Fig. 2の方はもちろんR-Rは絶対不整です。Fig. 1の方には3枝共に石灰化も狭窄も認めませんでした。また、Fig. 2の方には3枝とも石灰化と軽度から中等度の狭窄を認めましたが、PCIをするほどのことでもありません。カテをしなくて済みました。

 

Fig. 1 LAD evaluated by MDCT in Pt with chronic Af
05, Feb. 2011

  慢性心房細動の方を診ていると、よく労作性の呼吸苦を訴えられます。心房細動ゆえの心機能の低下によるものか、冠動脈疾患由来のものかの判断は決して簡単ではありません。高齢であるが故に運動負荷が困難であったり、既に安静時心電図からSTの変化があったりするためです。しかし、Fig. 3の方のように高度の冠動脈病変を持つ方も少なくありません。この方の症状も動悸だけで、典型的な狭心症の症状ではありませんでした。症状から見逃しなく冠動脈疾患を見つけようと思えば相当に広い範囲の方にCAGを受けてもらわなくてはなりませんでした。心臓CTで慢性心房細動のの方の冠動脈評価は困難だと思われていたからです。16列時代にはそれが故にまったく心房細動ではCTで冠動脈を評価しようとは思いませんでした。ところがです。64列MDCTである GE optima CT660pro導入後、全く失敗なしに心房細動の方でも冠動脈評価ができています。

 心房細動患者ではMDCTで冠動脈評価は難しいというのも過去の話になったように思えます。



  
Fig. 3 Left Coronary Artery in Pt with chronic Af
04. Feb. 2011

Thursday, February 3, 2011

PCIの6か月後の冠動脈造影を原則しないと決心しました。


Fig. 1 LAD stent evaluated by MDCT

  64列MDCTの導入後、何時かしなければならない決断を今日しました。既に実施している施設にとっては今更の決断ですが 、PCI後の6か月後のCAGを止めようと決心しました。

  Fig.1に示すように64列MDCT導入後のステントの評価で、64列MDCTを導入後の4か月で大きな判断の誤りもなかったため6か月後にCAGをすることに意味があるかをずっと考えてきました。結論はMDCTで評価することで十分だということです。このブログの最大の読者は当院のスタッフですから、ここで宣言したら後戻りはできません。後戻りできないように宣言することに意味があるとも思います。半年前にPCIを実施した方に6か月後のCAGは止めてMDCTで済ませましょうとお話をしたところ大変な喜びようでした。16列時代には決断できなかったことが64列になって決断できました。


Fig. 2 JCS guideline for non invasive evaluation


Fig. 3 natural Hx after PCI in Pt with ACS (NEJM)

  Fig. 2は日本循環器学会が出している冠動脈疾患の非侵襲的診断法のガイドラインです。この中でPCIをする施設は、エビデンスもないのに6か月後にCAGを実施することを当たり前としてきたと指摘しています。その通りです。PCIの6-8か月後にCAGをする意味をしっかりと考えなければなりません。バルーンしかなかった時代、再狭窄率は40-50%程度あり、PCIの3月後、6月後に造影をする施設は少なくありませんでした。PCIの創成期には再狭窄が多かっただけではなく、発生する時期も分からなかった訳ですから頻回にCAGをする意味もありました。 BMSの時代になり再狭窄は若干減少しましたがやはり15-30%の再狭窄はあったわけですからこの時代にも再造影の意味はあったと思います。しかし、現在の薬剤溶出性ステントの時代になり再狭窄率は数%です。当院でも、昨年2月から使い始めたPROMUS stent (Xience V) の再狭窄は1例のみであり、頻度は1%を切っています。頻度が少ないこと、CAGをしなくても同等以上の評価がMDCTで可能なことを考えればもうfollow-up CAGの実施意義はありません。



  では、MDCTで評価する意味はあるのでしょうか。Fig. 3は今年の1月のNEJMです。Gregg W. Stone et al. A Prospective Natural-History Study of Coronary Atherosclerosis. N Engl J Med 2011; 364: 226-35
    PCIを実施された急性冠症候群の自然経過ですが、3年間で約20%のイベントを起こしています。2年後くらいから増加のペースは下ってきていますからPCI後2年の時点でも20%近いイベントの発生です。また6か月後でも10%近いイベントの発生です。この結果を見ればMDCTで評価する意味は十分にあると思います。 PCI後6-8か月で1回、2年後に1回位のMDCTでの評価が妥当ではないかと考えています。symptom orientedでルチーンには評価しないという方法と、私が考える症状がなくとも半年後と2年後にMDCTで評価するという方法で患者の予後が異なるかというようなスタディは存在しませんから、どちらが良いかなど誰も知りません。ただ、頻繁にCAGで評価するよりも良いのは間違いないところだと信じています。

    入院していただいてCAGを実施するのと外来でMDCTで評価するのでは、約10万円の医療費の差があります。当院の約200件のPCI後の6か月後の200件のCAGを止めるわけですから施設にとっては年間に2000万円の減収です。小さな鹿屋ハートセンターにとっては大きな減収ですが、個々の患者さんにとっては負担が軽減されます。また、国民医療費も節約できます。当院の利益よりも患者さん個々の利益、日本の国家の利益のほうが大切です。後戻りしない、ぶれない決断の宣言です。