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Fig. 1 初診時心電図 |
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Fig. 2 安定期心電図 |
久々の症例に関する投稿です。午前7時前に救急受診された40歳代の方です。主訴は胸痛です。胸痛のために覚醒し救急車を呼ばれました。Fig. 1が初診時の心電図です。右脚ブロックで少しV1-3でSTが上昇しています。もちろん急性心筋梗塞の可能性を第一に考えましたがこのような心電図の方は検診でブルガダ症候群の疑いと言われて再検査に来られる方でよく見る心電図です。また左の胸痛でしたが訴えのある部位に圧痛があるとも言われました。圧痛があれば心筋梗塞らしくないなとも考えました。何はともあれ冠動脈造影をしてしまえば答えが出る訳ですから冠動脈造影をしようかとも考えましたが、気胸や大動脈解離、心外膜炎などに対してでも心筋梗塞を疑って 若い頃は緊急冠動脈造影を何度もしたきたことに対する反省や圧痛の存在のためすぐに冠動脈造影をせずに違うアプローチをしてみました。
冠動脈CTです。急性心筋梗塞だと思えばCT検査は時間をロスするだけですからCTを先行させるなどということは過去に考えたこともなかったのですが今回はCTを先行させました。Fig. 3がCT像です。高位側壁枝が閉塞していました。また図には示しませんがエコーで側壁はakinesisでした。
この状態を見ればもう様子を見るという選択はありません。引き続き冠動脈造影を行い、血栓像を伴う高位側壁枝にステント植込みを行いました。
CTという寄り道をしたためにDoor to balloon時間は2時間50分になりました。Peak CPKは3000を超えました。
Fig. 2は数日後に安定している状態で撮った心電図です。やはり前胸部誘導は少しSTが上昇しています。おそらく普段からこのような形の心電図なのだろうと思います。
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Fig. 3 初診時CT |
40年近く、急性心筋梗塞の診療に携わってきた私ですが、心電図で急性心筋梗塞と診断するのが難しいケースが存在すると改めて思います。
Fig. 2の心電図と同日にみた心エコーでは壁運動異常は消失していました。CPKは上昇したものの壁運動異常のない状態で退院できましたから寄り道も許されるのではないかと思います。
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Fig. 4 初回CAG |
30年ほど前、湘南のある病院で勤務を始めました。非常に教育的な病院で心窩部痛の訴えの患者に対して全例で直腸指診までして問診、理学所見、血液データを添えて上級医にコンサルするというスタイルでした。真面目な病院で心から感心しました。しかしある日、救急外来を担当するレジデントから胸痛の方ですとコンサルを受け、やはり直腸診までして、CPKが上昇しているので急性心筋梗塞と思いますと言われた時に、お前はバカかとひどく叱ったことを思い出します。そんな検査をしている間に心筋壊死が進むわけですから検査結果など待たずにすぐに患者を回せと叱ったのです。基本、急性心筋梗塞の対する戦略は「兵は拙速を尊ぶ」です。
診療報酬も「兵は拙速を尊ぶ」の考えが基本でDoor to Balloon時間が短ければより多くの報酬を医療機関は得ます。
この方の場合、急性冠症候群であったわけですから、「兵は拙速を尊ぶ」の考え方で良かったとも思いますが、結果として心筋壊死を最小にできた訳ですから十分に相手を知ったうえで対処する「彼を知り己を知れば百戦危からず」の戦略もありだったとも思います。
この先も診療する急性心筋梗塞に対してCTを先行させるなどということはまずないでしょうが、すべてがマニュアル通りに進み、何も考えないという形ではなく臨機応変もありだと今回のケースで考えました。
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