2012年11月13日火曜日

「疾不必生、除不必死」 徒に急げばよいという訳ではないという心の余裕

Fig. 1 Before PCI

Fig. 2 Just after 1st ballooning




















まだお会いしたことはありませんが、Facebook上で知り合い、気が合う先生に教えて頂いた宮城谷昌光さんの小説に、はまっています。「太公望」、「楽毅」、「子産」、「奇貨居くべし」等と読み進め、「晏子」を読み終わりました。まだまだ宮城谷氏の本はたくさんあるのでしばらくは続きそうです。ブログを書かなかったのはその所為でもあります。

 読み終わった「晏子」の中での名場面です。「疾不必生、除不必死」 荘公が弑された屋敷を去る時に追っ手を恐れる御者が馬車を急がせようとすると、晏子が発した言葉です。疾く走っても必ずしも生きられるわけでもなく、ゆっくりと走ったからといって必ずしも死ぬ訳ではないという意味です。

図は昨日のPCIのケースです。安静時にも労作時にも胸痛があり入院しました。図に示すように#7に90%狭窄を認めます。右冠動脈は#1にdiffuse 50-75%狭窄です。図2には前拡張後の像を示します。この辺りからII, III, AVFでST上昇です。左の造影で回旋枝には問題はないので右冠動脈の問題です。右冠動脈のスパスムを考えました。このためニトロを静注しましたが更にSTは上昇し血圧も50位に低下です。右冠動脈を見たいのですが、そのためには左のガイディングをはずすか、もう1本ガイディングを入れるかです。私の決断はさっとステントを前下行枝に植込み、ガイディングを抜いて右冠動脈を見るという流れでした。右冠動脈はやはりスパスムでニトロ冠注でSTは落ち着き、血圧も上がってきました。このあとゆっくりと左にガイディングを入れてOCTで観察し、後拡張をしっかりと行い、手技終了です。

PCI中に予期せぬ事態に陥った時、「兵は神速を貴ぶ」という曹操の考え方や、孫子の「拙速巧遅」(ゆっくりと上手にするよりも、拙くても早い方が良い)という考え方を中心に戦略・戦術を考えてきました。同じ手技であれば短い時間で終わることを至上としてきました。今も基本的な考え方は変わりませんが、パニックになってなんでも急げばよいというものではないとも思います。

時間の余裕がない状況で、きちんとした前下行枝の仕上げをせずに急いで取りあえずの橋頭保を築き、破綻しそうな戦線である右冠動脈に立ち向かい、この問題を解決した後に本来の前下行枝に仕上げを行うという考えでうまくいきました。

「兵は神速を貴ぶ」や「拙速巧遅」はPCIの基本だと思っています。しかし一方で「疾不必生、除不必死」という位の心の余裕を持って神速を貴びたいものだとも思っています。

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