2020年12月2日水曜日

エンレスト(サクビトリルバルサルタン、ARNI)で心不全の治療をしていると体重が増加しても心不全が悪化していないことがある

近い将来、心不全患者が多数発生し、心不全パンデミックが起きるのではないかと言われています。入退院を繰り返す心不全患者で病床の多くが占有され、救急で治療の必要な患者の病床が確保できにくくなるのではないかと心配されています。

現在の新型コロナ患者の重症者増加で医療崩壊が起きるのではないかという議論と同様の議論が心不全に関しても数年前から言われ始めていました。実際、循環器病床を持つ医療機関では入退院を繰り返す心不全患者をほぼ常に抱えていると思います。肺うっ血があり軽労作で呼吸困難がある、右心不全があり下腿の浮腫がひどくなったなどで入院される多くの方は、入院だけで体重が減少し、うっ血所見が改善し退院していかれます。しかし、入院中は体重が増加しなかったにもかかわらず次の受診時にはまた、体重が増加し心不全の状態が悪化しているという方も少なくありません。心不全の状態を把握する最も簡便な指標が体重でした。

図の方は心不全で入院し、退院1週間後の受診で来られました。たった1週間で体重は2.1㎏増えていました。良い状態がたった1週間しか維持できなかったのかとがっかりしましたが、調べてみると胸写も心エコーも左が本日の分、右が退院直前のものですが、いずれも心不全の悪化を示すものはありませんでした。CTRは縮小し、TRPGは低下し、左房径も左室拡張末期径も縮小していました。

この方の心不全の治療には最近使えるようになったエンレストを処方しています。サクビトリルバルサルタン、ARNIと呼ばれる薬です。利尿剤で心不全をコントロールしていたころには見られなかった現象です。体重が増加していても心不全が悪化していないのです。そのような方はこの患者さん一人ではありません。どうして体重が増えたのか患者さんと話し合いました。食事がおいしくなり、やせた体重をもとに戻そうとしっかり食べていると言われました。その結果なのか、クレアチニンも退院前の1.26から1.02に低下しました。

利尿剤で無理やりうっ血をとると呼吸困難は改善し、浮腫みも取れ見かけは良くなります。しかし、無理な利尿で腎機能は悪化し長期予後は悪化します。利尿剤のように腎機能を悪化させる薬剤ではなく、長期予後を改善させる心不全薬はないものかと考えていましたが、期待に応えうる薬剤が登場したとわくわくしています。まだ、鹿屋ハートセンターではエンレストを使い始めて2か月余りです。長期予後をうんぬんする段階ではありません。この1年は2週間しか処方できないために患者さんの通院に負担のある薬ですが、当院で処方した患者さんは文句も言わずに2週間ごとに通ってきてくれています。注意深く患者さんの様子を観察し、患者さんとともにこの大切な薬を育ててゆくことができればと願っています。


 

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