大動脈弁狭窄症が増加傾向と言われています。かつての二尖弁やリウマチ性ではなく動脈硬化性のものです。高齢化に伴って増加しているものと理解しています。心不全を起こしてきた大動脈弁狭窄症の標準的な治療は開胸・開心による大動脈弁置換術です。しかしながら高齢化に伴って増加しているこの疾患では手術が困難なほど高齢の方も少なくありません。この高齢者の大動脈弁狭窄症に対して最近では徐々に経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)が普及してきました。
残余寿命の短い80歳代あるいは90歳を超えた方に高額な治療法を実施するのですからどれほどの需要があるのかと考えもしますが、この治療法があることで価値のある人生を得る方も必ずいる筈だとも思っています。
図の方は90歳を超えておられました。手術を勧められた時には手術を拒否され、それから10年以上も内科的に治療を受けてこられました。そしていよいよ内科的にはどうしようもなくなってきました。利尿剤にも反応せずこのままでは命は時間の問題だと思いました。このため開胸ではなく最近ではTAVIという方法もある旨をお話ししたところ是非受けたいとのことでした。
上段はTAVIができる施設に転院する前に当院で撮影した胸写です。下段はTAVIを受けずに当院に帰って来られた時の胸写です。
TAVIはリスクが高いからやめた方が良いと主治医から言われ続け、そう言われながら受けるとも言えずに帰ってこられたのです。帰って来られる前に聞くとノルアドの持続点滴をしているとも言われました。
私には訳が分かりませんでした。内科的な治療では死を待つばかりだからと紹介したのにリスクが高いから施術しないという考えが分からなかったのです。座して死を待つ以上のリスクとは何なのだろうと思いました。また後負荷が問題の重症大動脈弁狭窄症で更に後負荷を増大させるノルアドを何故 持続点滴しているのかも分かりませんでした。
紹介した病院の部長になぜノルアドを持続投与しているのかと尋ねても主治医がしたことで理由が分からないとも言われました。投与を決めた先生に尋ねると体血圧が低かったからだと言われます。造影CTを受け、冠動脈造影を実施され、ノルアドを投与され心不全が悪化して戻って来られました。そして頑張ってくると笑っておられたのに、長く見慣れた景色を見ながら旅立ちたいと言われ、自宅で息を引き取られました。
TAVIを実施するのにハートチームが重要だと言われます。循環器内科医、心臓外科医、臨床放射線技師、エコー技師、看護師などがその能力を結集し、一人の患者の救命に努める姿は素晴らしいと思います。しかし今回の例を見て、チーム医療を勘違いしないで欲しいと思います。チームには共通の目的があり、リーダーが存在し、そのガバナンスの下にその能力を活かすポリシーが存在するはずです。ガバナンスや指揮系統が存在しないままでの各職種の結集は1+1+1+1というような足し算にはならずに混乱をもたらすだけのように思えます。
TAVIのハートチームに限らず、チームにはリーダーやガバナンス・指揮系統が必要です。その根本原則がないままに力を合わせて頑張っているという姿を私は美しいとは思いません。チームという美名のもとにTAVIという画期的な治療法の発展が損なわれることのないように祈るばかりです。
TAVIがダメならPTAVだけでもできなかったのでしょうか?先生の意見はごもっともです。
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