2023年11月13日月曜日

心不全領域のFantastic 4って何なのでしょうか? 私のヒーローは唯一でそれはエンレストです。

心不全治療の分野でFantastic 4と呼ばれる4つの薬剤による治療が注目されています。Fantastic 4は2005年にアメリカで公開された映画のタイトルです。原作はやはりアメリカのコミックです。この映画はつまらないと酷評された映画で、私もアマゾンだかTVで見始めたものの、途中で見るのをやめた映画です。4つの有力な薬剤をこの映画の4人のヒーローと重ねわせて心不全の分野でこんな風に呼ぶことに私は少し違和感を感じています。4人のヒーローの映画が他になかったのかもしれませんがわざわざつまらない映画のタイトルを使わなくてもよかったのにと思っています。

4つの薬剤とはARNI(エンレスト)、SGLT2阻害剤、βブロッカー、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の4つです。単独であれば心不全に最も効果が期待できるのはARNIです。なので、鹿屋ハートセンターに通院されている心不全の方の多くでARNIを内服してもらっています。そんなハートセンターでARNIを内服している方の併用薬を調べてみました。下段の図です。SGLT2阻害剤を併用している方が40例、βブロッカーを併用している方が41例、MRAを併用している方が22名でした。3剤で診ている方のうち、ARNI⁺SGLT2i⁺β-blockerの方は13名、ARNI+SGLT2i+MRAの方は7名、ARNI+β-blocker+MRAの方は2名のみでした。そしてFantastic 4と呼ばれる4剤併用の方も4名のみでした。全体の4%弱です。

4剤併用にならない最大の理由は私がMRAをあまり処方しないからだと思います。なぜ使わないのか、使いにくいからです。ARNIで心不全の方の血圧はよく下がります。あまり下がらない場合はARNIを増量してゆくので1日400㎎のエンレストを内服しても血圧が十分に下がらないケースは多くありません。その少ないケースでのみMRAの追加を考えるので結果としてMRAの使用は少なくなります。また、MRAを使用してカリウムが上昇してもカリウムを低下させる薬剤を使ってでもMRAを使用した方が良いと言われる先生もいますが、MRAを使用することでクレアチニンが上昇する方が少なくありません。心不全の方の予後を決定する大きな因子は腎機能ですからクレアチニンを上昇させる薬剤は使いにくいのです。

今回、当院でARNI(エンレスト)を使用している方の併用薬を調べて、Fantastic 4と呼ばれる4剤の併用は当院では非常にに少ないことが分かりました。Fantastic 4が良いと言っている先生方の施設ではARNI使用例のうち4剤併用をしている割合はどのくらいなのでしょうか?是非教えて欲しいと思っています。

私が考えるヒーロー像はスーパーマンのように、唯一の存在です。4人もヒーローがいるなんてピンときません。名脇役がいるのは構いませんが4つの薬剤を同列にヒーローにたとえるような考えかたはどうなのかと思えてなりません。私にとって心不全領域のヒーローは現時点ではARNI(エンレスト)です。

 

2023年11月12日日曜日

一人一人に向き合う診療も大切だけど、同じように診療している群としての患者さんたちの変化も忘れてはいけないと思う

循環器診療で心不全の占める割合は少なくありません。心不全患者の増加は将来、医療体制をひっ迫させるのではないかと考えられており心不全パンデミックという言葉まで存在します。そんな中で2020年から使えるようになったARNI(商品名エンレスト)で心不全が良くなる例を多く経験するようになりました。エンレストで良くなったのが上段の写真の方です。、しかし、お一人よくなった方がいたからそれでよいというものでもありません。多くの人にきちんと効果が期待できるのかを検証しなければなりません。鹿屋ハートセンターで心不全の方にエンレストを処方した方が104例になりました。2番目の図はエンレストを処方した方たちの内訳です。高齢で、心房細動の方が多くを占めます。一方でEFの低下している心不全の方に対する処方は少なく、EFの低下していない心不全(HFpEF)が治療のターゲットとして多いのが分かります。

3番目の図はエンレストを開始後6か月以上経過した時点での心エコーの指標です。心房細動のあるなしで解析をしました。結果、心房細動のあるなしにかかわらず、左室駆出率(LVEF)も改善し、左室拡張末期径や左房径は縮小し、TRPGは低下していました。良くなった人がいるというだけではなく総体として、心房細動のあるなしにかかわらず心不全はエンレストの開始後に改善をしていました。

4番目の図は、心不全の指標であるBNP値の変化です。総体としてみるとBNP値は変化していませんでした。なのでエンレスト開始前と比べて10%以上増加した群、低下した群でエコーの指標を見たのが最下段の図です。

BNPが低下した群では、指標がすべて改善していたのですが、BNPが上昇していた群ではその改善はほとんどありませんでした。

ARNI(エンレスト)は、BNPの分解を阻害する薬剤ですから、BNPが上昇するのは正しい薬効のように思えますが、実際には心不全の改善に伴ってBNPは低下する方がほとんどです、なので、BNPが上昇することは本来の効果だと安易に考えずに心不全に対する効果が十分ではないと考えた方が良いと思います。

診療させていただくお一人お一人の改善や悪化に注目することは当然ですが、何人もの患者さんの対する効果を検証することで見えてくる世界があります。こうした興味を失わずにこれからもより良い診療が続けられるように努力していきたいものです。