平均寿命は、女性の方が長いことが広く知られています。また、奥様に先立たれた夫の方が、夫に先立たれた妻よりも短命であるとも言われています。これは多くの場合、年上の男性と女性が結婚することが多いことに関連しているのかもしれませんが、老いを意識する年齢になってくると、女性は元気だなぁと思うことがしばしばです。高貴な方が婚姻に際して、一生私が守るからと仰ったことを覚えていますが、老いを迎えると守っているのは奥様のような気がします。
Fig. 1は今週、CABGを受けて頂くために心臓外科に紹介した方です。1月に入って直ぐから胸痛を繰り返し、1月下旬になって受診されました。心電図は既に前胸部誘導で異常Q波になっており、心エコーでも前壁の壁運動が低下しています。初診時の心筋逸脱酵素は上昇していませんでしたから、既に時日を経過した心筋梗塞です。CAGでは#7が99% delayで#5から#6、#11への3分岐あるいは4分岐が90%狭窄です。冠動脈が細くCABG後の開存率はどうであろうかとも思いましたが、そのように細い冠動脈に対するステント植込み後の再狭窄率も高いわけですから、やはりCABGが第一選択と考えて紹介しました。
Fig. 2はFig. 1の方のご主人の5年前のCAGです。#6に90%狭窄を認めます。この方は5年前に薬剤溶出性ステントの植え込みを当院で行い、以後、元気にされています。
このご夫婦のように夫婦そろって狭心症という方も少なくなく、当院の外来にも数十組が通われています。先に狭心症になった、多くの場合夫ですが、連れ合いの症状や検査・治療を見て自分も心配になり検査を受けたり、似た症状を自覚したために早めに相談されたりで、ご夫婦そろって早期に治療ができたのです。一方で、本日のケースのように、ご主人の症状や検査・治療を身近に見ながら受診が遅れるケースも少なくありません。苦労して治療したご主人に助かって良かったねと話して間もなく、奥様がこの病気で亡くなられたケースも少なからず経験しました。身近にこの病気の方を見たにも関わらず、間に合わなかったのです。こうした悲劇を、関西でも、関東でも福岡でも鹿児島でも経験しましたので、土地柄には関連がなさそうです。どうも女性には、私も検査を受けたいとか、私も自覚症状があり心配だと言いづらい空気があるのかもしれません。
女性が元気で羨ましいと書きましたが、女性の冠動脈疾患の予後は一般に男性より不良だと言われます。そうした悪い予後にもこうした初期診断や治療が遅れるということも関係しているかもしれません。歳を重ねれば、多くの場合、夫や妻が支えとなります。一方の病で自分も学び、お互いを支えあいながらこの病気を克服することが大切であると改めて思っています。受診が少し遅れましたが、命のあるうちに受診されたのですから救いはあります。CABGの成功、その後の睦まじいお二人の生活を祈りましょう。
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