2013年4月4日木曜日

医師が説明した内容と患者さんが持ち帰る理解のギャップ

 5年前に初診の方です。高脂血症でスタチンを内服されていました。胸部症状はありませんでしたが負荷心電図がborderであったために実施した冠動脈CTがFig. 1です。当時の当院のCTはまだ16列でしたが結構きれいに撮れていると今見ても思います。左冠動脈主幹部から前下行枝にかけてソフトプラークを認めます。この所見を見て、詰まれば命に係わる場所だから胸の症状を感じたら、軽くてもすぐに受診するように説明したとカルテに記載があります。

本日、安静時心電図でもST低下があるとのことで紹介され受診されました。やはり胸部症状はありませんが今回は負荷心電図も陽性です。本日撮像した冠動脈CTがFig. 2です。左前下行枝の狭窄は進行し、クリティカルに見えます。心筋梗塞発症前に再診して頂いてラッキーでした。

以前、スタチンを処方されておられた先生のところには今も通院されているのですよねと確認したところ、驚いたことに前回のCT検査の後は通院せずに何も内服していないとのことでした。本日のLDLは193でした。

患者さんに何か説明する時に、なるべく噛み砕いて分かりやすく説明しているつもりです。「左冠動脈主幹部にソフトプラークがあるでしょ」というような説明をしている先生を見たこともありますが、私はこんな表現をしても頭に入らないと考え、上記のように「ここが詰まれば命取りになるといった場所にコレステロールがついて狭くなり始めている」というような説明を心掛けています。しかし、今はすぐに詰まるというほどではないが場所が悪いという説明の内、今は詰まるほどでもないがという部分だけが頭に残っていたようです。

どんなに噛み砕いて説明をしてもこのようなことがよく起こります。〇〇病院でカテーテル検査を受けたが何も説明を受けていない等と言われる方も来られます。ではきっと異常はなかったのですねと聞くと、この薬を内服しろと言われて内服していると言われ、内容を確認すると2剤の抗血小板剤で、検査をするとステント植込みがなされているという方もおられました。今時のPCIをする医師で何も説明せずにステント植込みを実施する医師がいる筈もありません。

医師が説明した内容と、患者さんが頭の中に残している内容に小さくないギャップが存在します。医師になって35年目になりますがこのギャップを埋める良い解決策はなかなか見つかりません。

しかし、理解してもらえないからといって患者に説明しても仕方がないとか、理解できなかった患者の責任だというような後ろ向きの発想を持ってはいけないと思っています。飽きずに繰り返し説明したり、理解の間違いや不足で発生した問題については患者さんを責めずに、発生したことを仕方がないよなと受け入れ、前向きの対処を考えてゆくのが大切だと思っています。

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