Wednesday, April 1, 2015

冠攣縮性狭心症の患者さんをみて考えること

Fig. 1
 朝方に胸痛を伴って10分程度、脈が乱れるとの訴えで来られた方です。CTで右冠動脈に中等度狭窄を認めました。朝方の胸痛ですから冠攣縮性狭心症を疑いました。

Fig.1はエルゴノビンで誘発したスパスムです。右室枝の末梢から完全閉塞です。この時、患者さんには胸痛の自覚はありませんでした。Fig. 2はニトロの冠注後1分、Fig. 3は2分、Fig. 4は3分、Fig. 5は5分後の造影です。完全閉塞の断端が徐々に末梢に移動しています。あるいは近位部から順次スパスムが解除されていきます。患者さんは3分後位にようやく少し胸の違和感を自覚されました。

この日からスパスムの予防のためにカルシウム拮抗剤であるジルチアゼム(ヘルベッサー)を処方し、以後、主訴となった胸痛はありません。
Fig. 2

この患者さんはカルシウム拮抗剤でコントロールできない難治性のスパスムではないので考える必要はありませんでしたが、カルシウム拮抗剤でコントロールできない冠攣縮性性狭心症の方にステント植込みを行ったという症例報告は国内外から数多く、報告されています。私はこの考え方に否定的です。あくまで冠攣縮性狭心症は、器質的な狭窄が強くない限り薬物でコントロールすべき疾患だと考えているからです。

この例が難治性であった場合、ステントを植込み部位はどこになるのでしょうか。器質的な狭窄の存在する右室枝の末梢でしょうか。スパスムは#3にも#4にも起きているわけですからこの部位だけの植え込みでは間に合いません。ではステントだらけにするのでしょうか?そんな治療が良いとはとても思えません。

Fig. 3
また、最近の薬剤溶出性ステントでは聞かなくなりましたが、第一世代の薬剤溶出性ステント植込みを受けられた方で内皮機能障害が発生し余計にスパスムが起きやすくなったという報告もありました。やはり安易に冠攣縮性狭心症の方にステント植込みを行うのは正しくないと思います。

Fig.4
ヘルベッサーの処方後、胸痛の自覚はないとはいえ、完全にスパスムが抑制されているのか分かりません。カルシウム拮抗剤内服下でも発生するスパスムに備えて、ニトログリセリン舌下錠をお渡ししています。どんなに軽くても胸に違和感を感じたらすぐに舌下してくださいと、くどいほど説明しました。しかし、この方の自覚症状は完全閉塞になってから数分経過してようやく軽く感じるという程度です。その程度で舌下してくれるとよいのですが、この程度なら様子を見るかと考え完全閉塞が遷延すると心配です。血流が再開した時に致死的な不整脈が出ないか心配です。ですから繰り返し、繰り返し、少しの違和感でもあればすぐにニトロを舌下するように説明するつもりです。

冠攣縮性狭心症は、ステントではなく薬剤と丁寧な説明で治療する疾患です。



Fig. 5

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