Sunday, May 31, 2015

私の目指す心房細動患者に対する抗凝固療法 Anticoagulation at minimum bleeding risk for Atrial Fibrillation (4) 新規経口抗凝固薬の役割の誤解なき理解

 前回、TTRが高い良好にコントロ-ルされた施設では、Dabigatranの高容量と比べて虚血性脳卒中の発生が少ないことを書きました。NOACの4つの大規模試験ではすべての試験で有効性の一次エンドポイントは脳卒中または全身性塞栓症とされました。Dabigatranの高用量とApixabanでは優越性は示され、RivaroxabanとEdoxabanでは非劣性が示されました。図1

この結論を多くの医師が誤解しました。脳卒中の中には虚血性も出血性も含まれているからです。色々な先生の解説記事を見ましたが、脳塞栓症を減らす効果で優越性が出たとか非劣性であったと解説している先生もおられます。明らかな誤解です。図2に頭蓋内出血の成績を示します。どのNOACであってもワーファリンと比較して有意に頭蓋内出血を抑制しています。そこに誤解はありません。

図1のグラフから図2の頭蓋内出血を引き算したグラフを図3に作りました。一次エンドポイントを虚血性脳卒中/全身性塞栓症と設定したグラフです。ワーファリンと比較して虚血性脳卒中/全身性塞栓症を抑制したのはDabigatran高用量だけです。そして前回書いたようにこれすら高いTTRを実現している施設ではワーファリンでの抗凝固療法の方が虚血性脳卒中/全身性塞栓症は少なかったのです。この図3がメインの結果として示されていたら、今ほどNOACは幅を利かせていなかったかもしれません。

NOACはワーファリンに比較して劣る抗凝固薬だと言いたい訳ではありません。ワーファリンでどんなに努力してもNOACに敵わないこと、それは頭蓋内出血の抑制です。

ワーファリンと比較して虚血性脳卒中や全身性塞栓症を抑制するからNOACは優れているのではなく、頭蓋内出血を抑制するから優れているのです。凝固カスケードの多くをブロックするワーファリンと一ポイントだけを抑制するNOACの効果を考えてもこの結論は必然であろうと思います。

現状のワーファリンやNOACといった経口抗凝固薬では完全に虚血性脳卒中や全身性塞栓症を防げません。であれば頭蓋内出血を抑制する効果を大事にするべきだと思います。

より強い抗血栓作用を期待してDabigatranの投与量を増やした研究があります。機械弁植込み患者でのDabigataranの有効性を検討したRE-ALIGN試験です。図4。より強い抗血栓作用を期待してこの研究では最大1日600㎎のDabigataranが処方されました。結果、血栓塞栓症が減らなかっただけではなく、大出血が増加しました。 N Engl J med 2013 1206-1214

非弁膜症性心房細動と機械弁植込み患者では背景が違うと言っても、やはりNOACでのより高い抗血栓作用を期待して処方量を増やすことはあぶはち取らずに陥る可能性があります。過ぎたるは及ばざるがごとしです。

虚血性脳卒中や全身性塞栓症をよくコントロールされたワーファリンによる抗凝固療法と比較して抑制する訳ではないけれど、重大な合併症である頭蓋内出血を明らかに減少させる薬剤がNOACなのだとしっかり理解する必要があります。誤解を抱えたまま虚血性脳卒中の減少のみを至上命題にしているとRE-ALIGN試験の轍を踏むことになりかねないと危惧します。

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