かつて地方で医師として働くことはあまり歓迎されませんでした。今でもあまり人気はありませんが… 大阪で生まれ育ち、都会の病院で働いてきた私ですが、30年前であれば鹿屋で働くことをためらったと思います。なぜなら最新の医学情報を得るのが困難であっただろうからです。2006年(平成18年)に鹿屋ハートセンターを開設した時にもインターネットがなければ鹿屋で開業をしなかっただろうと思いました。鹿屋ハートセンターの電子カルテは、インターネットを介して遠方のサーバーに情報が蓄積されるクラウド型の電子カルテです。また、画像サーバーは、以前は院内にのみ置いていましたが、今では画像も遠方のサーバーに保管されるクラウド型の画像サーバーです。また、今年は来院することでコロナに感染することを恐れる患者さんが少なくなく、オンライン診療の規制が緩められたこともありオンライン診療も普及し始めました。当院でも再診の方には希望されればオンライン診療を行っています。
日々の診療も、新しい情報を得るのも都会に住むのと同様に情報を得、発信可能です。特に今年は新型コロナウイルス禍の影響で学会もほとんどがWeb開催となり、コロナ後もネット上での学会開催でもよいのではないかという考えも良く聞くようになりました。それ以前から、学術誌もオンライン化しています。20年前のネット環境では考えられなかったことです。 ネットの進化が日々の診療の形を変え、学会の在り方も変えました。そのネットの進化の恩恵を受けながら私はこれで良いのかと思っています。今のネット上の進化は、ネットという畑に無秩序に植えられた作物ではないかと思うからです。
図は厚生労働省が発表した保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザインの策定についてという文書です。なんと発表されたのは平成13年です。19年も前です。この時点では電子カルテを普及させようという程度でした。そして実際に電子カルテを導入する医療機関に少なくない補助金が出されました。しかし、補助を受ける電子カルテをその後、医療全体にどう利用するかという視点がなく、むしろ情報の共有化の障害になったかもしれないと思っています。次のグランドデザインではネットワークに組み込まれた電子カルテから診療情報を集め、得られた情報から医療を変えようというものでした。どこの医療機関に行っても過去の診療情報が取り出すことが可能で医療機関を変わるたびに同じ検査を受けなくても良い、集められた情報をもとに疾患ごとに有効な治療法を導き出したり、その疾患の対策にどれほどのコストがかかっているかなどを分析するなどと情報化のメリットが語られました。しかし、現実は19年の日々を経過しても一歩も前には進みませんでした。こうした医療の情報化、情報共有のためには医師の守秘義務のありようも、カルテ保管の義務も法改正が必要になります。こうしたネットによる情報共有のための医療にまつわる法改正が語られることもありませんでした。
IT化を進めよう、デジタル技術を普及させようとするとき、その技術を使って何を成し遂げるかが重要だと思っています。道路は作ることが目的ではなく道路を使って地域が活性化するかが重要なのと同じです。デジタル技術を使って何を成し遂げるかとと考えるとき、デジタル技術に詳しい人だけで実現できるのかと心配しています。道路建設のプロであっても地域を活性化するプロではないのと同じではないかと考えるからです。
現在の医療を正しく分析し、また無駄な医療で医療費が浪費されないために私は、医療分野のネットワーク化に期待します。きっと実現のためには何兆円も必要だと思います。医療分野だけで大変な予算が必要なわけですから他分野のIT化を含めれば日本がIT先進国になるためには莫大な予算が必要です。新設されたデジタル庁に莫大な予算をつける覚悟を新内閣に期待します。新しい形の公共事業です。まデジタル庁においては技術にとらわれず技術を使ってどんな国家を作り上げるのかというグランドデザインを考えてほしいと願います。国会には実現のための法改正を熟考していただきたいと思います。
ネットという畑に植えられた無秩序な作物に、日本を豊かにする秩序(規制ではなく)や方向性がもたらされることを期待しています。もちろん更なるITの進化のために無秩序な作物(イノベーション)も必要でしょうが…
No comments:
Post a Comment