私は2020年9月21日付 当ブログでインターネットの価値を信じ、ネットがなければ鹿屋のような地方で開業などできなかったと書きました。そして、地方にいながらネットを通じて情報収集に努め、情報を発信し、患者と交流も進めてきました。2020年6月30日には厚労省のオンライン診療研修も終了し、オンライン診療も始めました。古い話を持ち出せば、福岡徳洲会病院に勤務していたころ、カテーテル治療ができないばかりに急性心筋梗塞症の死亡率が高かった長崎県対馬の循環器救急を質的に変えるために、TV電話で緊急カテーテル治療をサポートする仕組み、遠隔PTCA(当時の表現)を立ち上げました。1997年のことです。オンラインでのサポートで長崎県対馬の急性心筋梗塞の死亡率は劇的に低下しました。デジタルの技術を使うことで死を回避できたのです。現在もこの仕組みは維持されていると聞いています。このように、言葉でネットを信じるというだけではなく幅広く有効利用してきたとの思いがあります。
そんな私ですが、2020年10月8日に発表された医療分野のデジタル化を進め、コロナ対策で一時的に認められている初診からのオンライン診療を恒久化するとの報道に驚きました。
胃が痛いので胃薬が欲しいと来院された方が実は心筋梗塞で、帰宅後急死した。風邪だと思い風邪薬を内服していたが実はウイルス性心筋炎で死亡した。頭痛があり鎮痛剤を内服していたが実はくも膜下出血で、死亡した。こんな例は枚挙にいとまがありませんし、少なくない訴訟が提起されています。こんな例を知るはずもない(あるいは知っているにもかかわらず)田村厚労大臣、平井デジタル改革相、河野行政・規制改革相が初診のオンライン診療を、専門家との協議なしに恒久化するなどというのは全く同意できません。
私は、コロナ感染が怖くて受診したくないという方の原病が悪化しないよう、もともとの治療を継続するためにオンライン診療を開始しました。また、介護施設に入所している方が医療機関を受診することで感染機会が増えることに対する対策としてオンライン診療も使用しています。本年7月に発生した大隅半島を襲った豪雨災害では道路が寸断されたために受診できない方が発生しました。この時にもオンライン診療は役に立ちました。オンライン診療は対象を明らかにし、その有効な状況を見極めることで非常に有効だと思っています。しかし、私は初診からオンライン診療を認めると言われても、決して初診のオンライン診療をすることはないと考えています。多くのまじめに患者に向かい合っている医師は同じ意見だろうと思います。
これを商機と捉え、初診のオンライン診療を始める医師がいると思います。そんな医師は、「勝手にやって訴えられればよい」と思わなくはないのですが、そこには亡くなってしまう患者がいます。勝手にやっておけと簡単には言えません。デジタルは万能ではありません。オンラインは有効な手段と誰よりも考えていますが、どのようなツールも使い方です。使い方を誤れば危険です。正しい使い方の議論をせずに進める拙速なデジタル化に、私は断固反対します。
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