2021年12月25日土曜日

ずさんな統計を根拠に、医療の質に対する検証もないままに進められるリフィル処方箋の導入に私は反対です。


最上段の図は2021.7に新聞に掲載されたリフィル処方箋の導入を厚労省が検討しているという記事です。そして実際に、次期診療報酬改定でリフィル処方箋の導入を決めたと報道されました。リフィル導入の目的は、症状の変わらない安定した患者にまで毎回再診してもらわなくても安定しているのだから同じ薬で良いでしょという考えです。その結果、再診回数は減少し、患者さんの受診の手間は減り、患者さんを診るのを面倒だと思う医師の手間も減ります。

この議論に私は違和感を覚えずにはおれません。受診する手間や再診料を最小化し、医師の手間を最小化するのであれば究極の最小化の方法は医療の提供をやめることです。そんなことが良いはずもなく、手間や経費を小さくすることで、疾患を悪くさせないかという議論が必要だと思っています。しかし、今回のリフィル導入の議論の中で診療の質が担保されるのかという議論がなされたとは思いません。

2番目の図のケースは、循環器専門医が長く診療していたケースです。常に90日処方を受けていました。大病院に勤務する先生が、長期処方をするケースは少なくありません。リフィル処方箋が認められていなかった現在も、実質的なリフィル処方箋のような処方は行われてきました。このケースではたまたま私が数年ぶりに診察した時に、長く負荷心電図で評価されていないことが気になり調べたケースです。重症3枝病変でした。このため、冠動脈バイパス手術を受けられました。この方は、たまたま長期処方に批判的な私が診たことで危うく助かりましたが、循環器専門医でも見過ごしていたケースをリフィル処方箋を受け取った薬剤師で危険な兆候を見つけることができるでしょうか?

私のもう一つのリフィル処方箋に対する懸念は、リフィル処方箋を導入することで残薬を減少させることができるという議論です。なぜ、医師が内服状況を把握しなければ残薬が減るのでしょうか?全く理解できません。3番目の図は2019年7月から残薬を減らそうと取り組み始めた初期のケースの残薬です。きちんと内服していますかと聞くとちゃんと内服していると言っていた方です。しかし、実際には大量の残薬がありました。残薬減少の取り組みを始めたころは、飲み残しをすべて持ってきてもらい、薬局で数えてもらっていました。しかし、残念なことに残薬を持ってくる方が少なく、残薬減少にはつながりませんでした。そこで、次のステップとして、私自身が残薬を数え始めたのです。効果てきめんでした。鹿屋ハートセンターに通院するほぼすべての患者さんが残薬を持参し、残った薬を挟んで、どうして薬が残ったのかを議論する中で、残薬は減少していきました。取り組み始めたころに金額ベースで14%の残薬(4番目の図)が1年後には2%弱に減少しました(6番目の図)。薬がなくなったからリフィル処方箋で、次の薬をくれという患者さんの残薬がどうして減少するという理屈になるのか厚労省や中医協は説明すべきだと思っています。

今回のリフィル導入で医療費を0.1%程度、減らすことができると説明されています。リフィル導入で直接減少する医療費は再診料です。再診料は全国民医療費の約4%を占めています。リフィル処方箋の導入で0.1%/4%の計算でしょうか?リフィル導入で40回の再診が39回に減るという計算でしょうか。どうもしっくりときません。この0.1%の計算は、数年前に厚労省が日本の残薬は約500億円だという発表がありましたがここから導き出した数字ではないでしょうか。これならば国民医療費の0.1%相当です。
私は厚労省の残薬500億円という数字を全く信用していません。どのように残薬を数えたのでしょうか?厚労省がそんな作業をどこの現場でしたのでしょうか。私には、国土交通省の統計書き換えと同様に鉛筆をなめた作業のようにしか思えません。

実際に残薬を数えた九大薬学部の調査では残薬比率は7.1%、医療費3300億円です。鹿屋ハートセンターの初期の残薬率14%から外挿すると、日本の残薬は7840億円です。

今回のリフィル導入は、そんな制度を持っている外国の制度を真似しようというだけで、その結果、診療の質が担保されるのかという議論がないこと、残薬を減らすという根拠のない効果をうたっていること、根拠のように見せている厚労省の示す残薬による医療費の統計に重大な疑義があること、そんなずさんな制度設計を検証する力を中医協も報道機関も持っていないことなどを考えれば、私は反対と言わざるを得ません。

厚労省官僚、中医協に集まる学者、そこからの大本営発表を検証せずに報道するマスコミ、こんな連中のお花畑の脳内で日本の保険行政は劣化し、国民の健康は損なわれていくと思えて仕方がありません。


 

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