2010年11月29日月曜日

conservative strategyでみた不安定狭心症のその後

Fig. 1 RCA on 29, Nov. 2010
 11/26のブログにアップした不安定狭心症のケースです。11/30の造影では Fig.1に示すようにRCAの狭窄はCTで見たほど高度ではありません。一方、同様にCTで高度狭窄に見えた(Fig. 2)回旋枝は、造影でも90%狭窄(Fig. 3)です。このためまずLCXにPCIを実施しました。PROMUS stentを植込んで良好な拡張です。

問題はRCAです。冠動脈造影もCTも画像診断です。どちらが真実を現わしているのでしょうか。2つの画像診断の結果が矛盾するのなら機能診断です。pressure wireでFFRを測定してみたところ0.85でした。造影でそれほど高度狭窄ではないという判定の方が機能診断に近い結果でした。ではCTはoverestimateしたのでしょうか。もちろんその可能性はあります。しかし、この3日間のヘパリン化で狭窄が軽減した可能性もあります。いずれにしてもconservative strategyで無駄なPCIをしなくてすんだわけですから患者さんはHAPPY!!です。

この方はストロングスタチンを内服して既にLDLは100mg/dl未満です。次の手を考えなくてはなりません。EPAの追加でしょうか?(Fig .4)
本日はこのケースを含めて3例のPCI、SFA完全閉塞に対するPTA 1例、診断カテ1例の5例でした。
Fig. 2 Coronary CT on 26, Nov. 2010

Fig. 3 LCA on 29, Nov. 2010



Fig. 4 JELIS trial
 

2010年11月26日金曜日

64列MDCTによる不安定狭心症に対する治療戦略の決定 Making strategy for unstable angina using 64-row MDCT



Fig. 1 classification of unstable angina by Braunwald

 
 昨日、2人の新入院がありました。1人は68歳の男性、Case Aとします。午前3時に背部痛で覚醒したとのことで受診です。心電図は左脚ブロックです。もう1人はCase Bとしますが65歳の男性です。1月前から労作時の胸痛があったものの、安静で10分ほどで軽快。3日前に安静時に同様の胸痛があったとのことで受診されました。もし2人とも狭心症であるとするとCase Aの方は48時間以内の胸痛ですからClass III、Case Bの方はClass IIの不安定狭心症ということになります。こうした方に対する運動負荷心電図は危険ですから症状のみで不安定狭心症を疑い、入院して頂くことになります。
 問題はこの後の対処です。1つの方法は保存的に経過をみる方法 conservative straregyです。もう1つの方法は冠動脈造影を早期に実施してPCIをする方法 early invasive strategyです。どちらがよりよい結果をもたらすかのついては1990年代から2000年代初めに議論があり、early invasive strategyの方がよりよい結果ををもたらすというのが一般的です。
 しかし、私はこの結論に懐疑的で、数日の安定化の努力の後にPCIを実施するのがbetterと信じ、不安定狭心症と考えればヘパリン化を行い、2剤の抗血小板剤を数日間 内服してもらったうえでPCIをするという方針をとってきました。しかし、この方針だと狭心症ではなかった場合に数日間の無駄な入院、無駄な治療を施してしまうという問題がありました。

Fig. 2 Case A with possible UAP

 今回の2人は昨日、昼前の受診であったために腎機能をチェックした上で入院翌日である本日に冠動脈CTを実施しました。Fig. 1のCase Aの方は全くの正常冠動脈で大動脈にも肺野にも問題がなかったために本日退院となりました。Fig. 2のCase Bの方にはRCAに高度狭窄を認めたために、ヘパリン化、2剤の抗血小板剤を投与した上で3日後の月曜日にPCIを実施することにしました。CT検査を実施することで、従前の無駄な入院、無駄な治療をCase Aの方は回避することができました。

Fig. 3 Case B with possible UAP

 Fig 1に示すように不安定狭心症の診断に冠動脈の情報は入っていません。カテーテル治療をする医師にとってどのような治療をするかを決定する時に冠動脈の情報は不可欠です。しかし、冠動脈の情報なしにBraunwald分類に従って不安定狭心症を診断し、どのような戦略が正しいかを議論してきたわけです。相手を見ないでたてた戦略のどちらが優れているかを議論するなど、私には無駄に思えます。しかし今では冠動脈CTで簡単に冠動脈の情報を知ることができます。この上で病態に沿って戦略をたてるのが正しい今どきの考え方のように思えます。冠動脈CTの存在が不安定狭心症の治療戦略を変えてしまうような気がします。冠動脈CTを早期に実施することで正しく冠動脈の情報を得、紛らわしい症状ではあるものの狭心症ではない方を見つけ、無駄な入院を少なくします。また、本当の不安定狭心症の場合には、冠動脈病変を正しく見つけその性状より正しい戦略を選択し、よりよい結果をより短期間で得ることが可能になるのです。




2010年11月22日月曜日

1例のPCIにも多くの教訓が詰まっている

Fig. 1 LAD evaluated by CT
本日のPCIのケースです。50歳代前半の男性です。2年前に右冠動脈に薬剤溶出性ステントの植え込みを行っています。Fig. 2、Fig.3に示すように運動負荷でST低下を認め胸痛もあります。Fig. 1のCT画像ではLADの近位部から石灰化を伴うびまん性の狭窄を認めますが、それほど高度狭窄は認めません。ところがです。Fig.4の本日の造影ではLADの近位部の狭窄は非常に高度でした。画像には示していませんがRCAから側副血行が認められるほどの狭窄です。Fig. 5に示すようにびまん性の狭窄でしたから長い植え込みになりましたが、PROMUS stentを植込んで拡張に成功です。
この例のPCIに際して考えたことは植込むstentの径です。びまん性の狭窄ですから一見きれいに見えるところを基準に考えると2.75-3.0mm程度に思えます。しかしFig. 6のIVUSで見るとLADの近位部の径は3.5mmを超えていました。このため近位部には3.5mmのstentを用いて高圧でしっかりと拡張しています。
Fig. 2 ECG at rest

この例で考えることは多々あります。
1) CTで狭窄の存在診断は可能でしたが、その狭窄程度の診断はunderestimateでした。CTで安易に狭窄程度を判定することは危険かもしれません。この造影とCT画像の乖離ですが、石灰化の強い病変の診断をどうするかという点に力を入れているせいかもしれません。石灰化病変に伴う狭窄はdensityの大きく異なる部位が隣接するためにpartial volume effectがでやすくなります。これを解消しようとすればcontrastを犠牲にすることになります。underestimateの原因は石灰化病変の問題を解消しようと努力していることに起因しているのかもしれません。技師さんとよく話しあってみたいと思います。 

Fig. 3 ECG after exercise
Fig. 4 Left Coronary Artery before stening
2) 最近はIVUSをほとんどルチーンに使用しているので問題ないとも言えますが、diffuse stenosisに対するPCIではIVUSの情報が有用だという点です。本例のようなびまん性の狭窄にIVUSなしでPCIを実施すると大きな血管径の冠動脈に小径のstent植込みを行うという愚を犯してしまいます。
3) 本例では長いstent植込みになり、医療費も決して低いものではありません。それならばCABGの方が良かったという考え方もあります。この方は50歳です。10年後グラフトが閉塞した時のことを考えるとその後の長い距離のPCIは困難を極めるであろうことが容易に想像できます。長い先を考えれば現時点ではPCI betterという判断が正しいように思います。
4) この例も脂質代謝異常です。LDLが150mg/dl程度であったためにリバロ1mgを内服し、110mg/dl程度に低下していました。やはり管理目標値のように100mg/dl未満を達成しておくべきだったと言えると思います。今後の管理が重要です。

このケースのPCIも鹿大のK先生にしてもらいました。私には25年を超えるPCIの経験がありますが、一人の判断でPCIをしていると思わぬ陥穽にはまる危険があります。討論する相手が存在することは大切です。また、若い先生と議論をし、そこから私が得るものがあること、若い先生に伝えられることがあることは互いに幸せな関係のように思えます。



Fig. 5 Left Coronary Artery after stenting

Fig.6 IVUS imaging before stentng

2010年11月21日日曜日

鹿屋の患者さんには救われます…  急性心筋梗塞にたいする緊急PCI

RCA before PCI
11/20 午前9時に20kmほど離れた病院から救急の紹介の電話です。80歳代後半の女性で7時半から胸痛があり、II、III, AVFのST上昇とのことです。一人で外来をやっている時にこうして救急の方が来ると、外来患者さんには待っててもらわなくてはなりません。救急車の到着後、急性心筋梗塞の急患に対する処置をするのでしばらく待っててくださいとお伝えして緊急カテを始めることにしました。 待っておられた50人ほどの患者さんの中に誰一人、文句をいう方はいらっしゃいません。

RCA after PCI
上段の造影では右冠動脈末梢の完全閉塞で、完全閉塞の直前にulcerated plaqueを認めます。plaque ruptureの所見です。血栓吸引、バルーンによる前拡張、末梢と#1にDriver stentを植え込みんで終了です。ここまでそけい部の局所麻酔から30分余です(最下段のカテ記録)。

シース挿入時に見た血液で貧血っぽいと思っていましたがHb: 5.7、MCV:74です。慢性の失血のようです。カテ後の抗血小板剤の投与で急な出血のないことを祈るばかりです。輸血を始めるとともに、急な出血に備えて多めに血液を準備しました。気の抜けない週末になります。
カテが終了し、外来に戻ると、待っていた患者さんからやはり文句一つなく上手くいったことを自分のことのように喜んで満足している様子です。安心しました。ここが鹿屋ハートセンターに通院している患者さんの良いところだとうれしくなります。









Nursing record of catheterization

2010年11月18日木曜日

カテーテルだけではなく脂質管理が重要です

LAD on 03. Mar. 2007
 2007年に右冠動脈に対して薬剤溶出性ステントの植込みを行った方です。上段は2007年当時に16列で撮影した前下降枝です。中段は今年11月に64列で撮影した前下降枝です。明らかに前下降枝の近位部に 新たな狭窄の出現を認めます。冠動脈造影を実施しFFRは0.74でした。症状はありませんでしたから無症候性心筋虚血ということになります。薬剤溶出性ステントの植込みを行いました。
 この方はLDLが140mg/dl程度の脂質代謝異常であったためにストロングスタチンであるリバロ1mgを内服してもらっていました。最近のLDLは118mg/dlでした。
 最下段の日本動脈硬化学会のリスク別脂質管理目標に従えば、冠動脈疾患の既往のある方の目標値は100mg/dl未満ですから管理が甘かったといえます。スタチンを増量して目標値の100mg/dl未満を達成していればこの狭窄の出現は防げたかと言われればわからないとしか言えませんが、やはり悔いは残ります。これから、もっと厳密な管理をしてゆきたいと思います。
 しかし、こうしたことは冠動脈をしっかりと評価しているから言えることです。この方の冠動脈の状態を知らずに管理目標に従えば、当てはまるリスクは加齢だけですからカテゴリーIIです。管理目標値は140mg/dl未満ということになります。冠動脈を評価している病院にかかれば目標は100mg/dl未満で、冠動脈狭窄の存在に気づいていない病院にかかれば目標値は140mg/dl未満になってしまいます。無症状であるがゆえに冠動脈を評価されず、甘い目標値で管理され、破綻の道を歩んでいる方はどれほど存在するのでしょう。恐ろしいことです。
LAD on 04 Nov. 2010

日本動脈硬化学会 リスク別脂質管理目標

2010年11月15日月曜日

Taxus stentのfractureが原因と考えられる冠動脈閉塞の64列MDCTによる評価

CAG on 03, Mar. 2008
  2008年3月に冠動脈3枝すべてに薬剤溶出性ステントを植込んだ方です。現在83歳です。上段の回旋枝、前下降枝ともにTaxus stentを植え込みました。回旋枝は起始部からステント植込みを行ったためにどうしてもoverlapが回避できず10mm程度の重なりがあります。その後、無症状で経過し6ヶ月後の造影で3枝とも再狭窄はありませんでした。
 6か月後の造影から2年以上が経過したためにCTで評価したものが最下段です。回旋枝はステントの半ばで完全閉塞しています。ちょうど、ステントが重なり合う手前の一重から二重に移行する部位で完全閉塞です。完全閉塞部位でステントの繋がりはなくやはりfractureの所見です。一重から二重に移行する部位ですから折れる荷重が集中したのでしょうか、あるいは外にある石灰化がステントが折れる支点になったのでしょうか、いずれにしてもstent fractureに伴う冠動脈の完全閉塞です。
 無症候性の完全閉塞で心筋梗塞を発症しなかったのは幸いでした。症状があればどんな困難な病変でも再開通を図るのですが、無症状であること、他の2枝には全く再狭窄がないことよりご家族と相談して、閉塞した回旋枝にはPCIをせずに経過を見ることにしました。
 CTで評価すると過去に考えていた以上に頻繁にstent fractureが見つかります。再狭窄を伴わないものからこの例のように閉塞するものまで様々です。過去に示したようにfractureはBare Metal Stent(BMS)でもCypher stentでもTaxus stentでも観察されます。Cypher stentが世に出たときのキャッチフレーズは、この初めてのPCIが最後のPCIになりますよというものでしたが、そうではありませんでした。ヒトの知恵で簡単に解決できるほど病気は単純ではないのです。冠動脈ステントに代表される冠動脈治療の恩恵を広く冠動脈疾患患者に知ってもらうとともに、治療後も油断せずに大切に患者さんを見てゆかなければいけません。
CAG on 11,  Nov. 2010

CT on 04, Nov. 2010

2010年11月10日水曜日

肥大型心筋症の心臓CTによる評価

 
拡張期

 本日も前回に続き、冠動脈以外の心臓CTの評価です。最大圧較差が57mmHgの大動脈弁下部狭窄のある肥大型心筋症の方です。心房細動もなく、シベンゾリン(シベノール)とカルベジロール(アーチスト)の内服で安定しています。鹿屋ハートセンターのオープン前に初めて診せていただいた方で、当時は前の病院を辞めていたので鹿屋医療センターで冠動脈造影をして頂いた方です。心電図上著明な高電位とストレイン、心エコー上の左室肥大から肥大型心筋症と診断してよいのですが、これだけでは冠動脈に問題ないことの証明にはなりません。ですから、肥大型心筋症と思っても冠動脈造影を実施してきたわけです。
 しかし、CTで冠動脈が評価できれば肥大型心筋症に冠動脈造影をする意味はなくなります。また、カテーテルで行う左室造影では左室内腔を見ることができますが、左室肥大と同時に評価はできません。CTによる左室の評価では左室内腔だけではなく左室壁との関係も一目瞭然です。また、左房の大きさや僧房弁の動きも同時に評価可能です。カテーテル検査よりも情報量は多いといえます。圧較差はエコーで評価し、形態はCTで評価するということで十分です。となれば、肥大型心筋症の方にも今後はカテーテル検査は不要ということになります。カテーテル検査は不要という方がどんどん増えてきます。
 最下段の動画は繰り返し再生できるとよくわかるのですが、ブログにアップして繰り返し再生にする方法が私にはよくわかりません。誰か教えてくれるとありがたいです。


収縮期



2010年11月8日月曜日

心臓CTで大動脈弁狭窄症に対するカテーテル検査は不要になるかもしれない

 最近、心臓CTで有効だと思っているのが、弁の評価です。この方は心エコー上の最大大動脈弁圧較差が48.5mmHgのため外来で経過を見ている方です。この1回のCTで、3弁のどこが石灰化しているか(または2尖弁なのか)、弁輪径、左室肥大の程度、上行大動脈の石灰化の有無、ここには示しませんが冠動脈の狭窄の有無が判明します。そうするとこれ以上の情報を得るために心カテーテル検査は必要なのだろうかと思ってしまいます。使用した造影剤64mlで外来検査でこの情報量です。心臓外科の先生が納得するのなら今後は大動脈弁狭窄症のカテは不用になるかもしれません。また、この情報は今後必ず普及するであろうTAVI(経皮的大動脈弁留置術)の実施に際して有効な術前検査になるものと思います。そんな風に思いながら本日は心臓CT7件、PCI4件でした。

2010年11月3日水曜日

今週末は大忙しです

 ようやく詳記書きは終了です。明日は夕方から救急隊員に大隅の循環器救急に関する講演です。11/5は11/6に福岡であるCVIT、QJETに向けて移動。11/6 QJETで座長を務めた後は懐かしの対馬に移動です。私が地方の循環器医療の灯が燈っていない土地に目を向けるようになった原点です。10年ぶりでしょうか?楽しみです。

2010年11月2日火曜日

本日は夜間当番です

 日曜日から始めたレセプトの詳記書きは、遅々として進みません。10月のPCI23件、ペースメーカー植込み5件のみなのですが・・・。本日は鹿屋市の夜間救急当番で小児を主に診ています。日常の循環器の仕事を普通した後の当番は辛くない訳ではありませんが、鹿屋の先生方全てにある義務ですので文句も言えません。明日は当番明けの休日ですのでゆっくりとしたいところですが詳記を書くことになりそうです。