2010年11月26日金曜日

64列MDCTによる不安定狭心症に対する治療戦略の決定 Making strategy for unstable angina using 64-row MDCT



Fig. 1 classification of unstable angina by Braunwald

 
 昨日、2人の新入院がありました。1人は68歳の男性、Case Aとします。午前3時に背部痛で覚醒したとのことで受診です。心電図は左脚ブロックです。もう1人はCase Bとしますが65歳の男性です。1月前から労作時の胸痛があったものの、安静で10分ほどで軽快。3日前に安静時に同様の胸痛があったとのことで受診されました。もし2人とも狭心症であるとするとCase Aの方は48時間以内の胸痛ですからClass III、Case Bの方はClass IIの不安定狭心症ということになります。こうした方に対する運動負荷心電図は危険ですから症状のみで不安定狭心症を疑い、入院して頂くことになります。
 問題はこの後の対処です。1つの方法は保存的に経過をみる方法 conservative straregyです。もう1つの方法は冠動脈造影を早期に実施してPCIをする方法 early invasive strategyです。どちらがよりよい結果をもたらすかのついては1990年代から2000年代初めに議論があり、early invasive strategyの方がよりよい結果ををもたらすというのが一般的です。
 しかし、私はこの結論に懐疑的で、数日の安定化の努力の後にPCIを実施するのがbetterと信じ、不安定狭心症と考えればヘパリン化を行い、2剤の抗血小板剤を数日間 内服してもらったうえでPCIをするという方針をとってきました。しかし、この方針だと狭心症ではなかった場合に数日間の無駄な入院、無駄な治療を施してしまうという問題がありました。

Fig. 2 Case A with possible UAP

 今回の2人は昨日、昼前の受診であったために腎機能をチェックした上で入院翌日である本日に冠動脈CTを実施しました。Fig. 1のCase Aの方は全くの正常冠動脈で大動脈にも肺野にも問題がなかったために本日退院となりました。Fig. 2のCase Bの方にはRCAに高度狭窄を認めたために、ヘパリン化、2剤の抗血小板剤を投与した上で3日後の月曜日にPCIを実施することにしました。CT検査を実施することで、従前の無駄な入院、無駄な治療をCase Aの方は回避することができました。

Fig. 3 Case B with possible UAP

 Fig 1に示すように不安定狭心症の診断に冠動脈の情報は入っていません。カテーテル治療をする医師にとってどのような治療をするかを決定する時に冠動脈の情報は不可欠です。しかし、冠動脈の情報なしにBraunwald分類に従って不安定狭心症を診断し、どのような戦略が正しいかを議論してきたわけです。相手を見ないでたてた戦略のどちらが優れているかを議論するなど、私には無駄に思えます。しかし今では冠動脈CTで簡単に冠動脈の情報を知ることができます。この上で病態に沿って戦略をたてるのが正しい今どきの考え方のように思えます。冠動脈CTの存在が不安定狭心症の治療戦略を変えてしまうような気がします。冠動脈CTを早期に実施することで正しく冠動脈の情報を得、紛らわしい症状ではあるものの狭心症ではない方を見つけ、無駄な入院を少なくします。また、本当の不安定狭心症の場合には、冠動脈病変を正しく見つけその性状より正しい戦略を選択し、よりよい結果をより短期間で得ることが可能になるのです。




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