Tuesday, February 15, 2011

LMTへのPCIをしながら考えさせられたこと 地域の雇用と経済

Fig. 1 LCA spider view on 6th, Jan. 2009
70歳代前半の女性、140cm、75㎏ 、BMI=38の極端な肥満でDMの方です。A1Cは6.4%でLDLはリピトールを内服して73㎎/dlでコントロールは良好です。土曜の夜から胸背部痛が続き、日曜の朝に救急車で来院されました。ECG上ST上昇は認めませんがCPKは434U/Lと軽度上昇です。NSTEMIです。Fig. 1に示す2年前のCAGではLAD take-offに50-75%狭窄を認めます。LAD take-offですからこの部位が原因のACSであればhigh rsikです。緊急CAGをとも思いましたが踏み切れませんでした。

Fig. 2 LAC spider view on 15th Feb. 2011
同意書を書いていただくご家族がおられないのです。成人ですから、ご本人の意思で同意して頂き、riskのある検査や治療を行うことはもちろん可能です。しかし、ご本人の意思だけで実施すると、問題が起こった時に、ご親族から何故、勝手にやったと責められることがあります。一方、同意していただくご家族が見つからないために必要な処置ができずに死に至った場合、逆に、死にそうなのに形式的な同意を待って必要な処置を何故しなかったと責められることもあります。同意して頂くご家族がいないと、進んでも待っていてもトラブルが多いのです。

息子や娘たちが都会で就職したために高齢者が孤立しているという率が最も高いのが鹿児島県であると聞いたことがあります。(何を何で割って率を出すのかは知りませんが…) このため、緊急時に同意をいただくご家族が見つからずに困るケースは頻繁に発生します。地方での救急医療の困難はこんなことでも発生するのです。


Fig. 3 After PROMUS stenting

月曜になって、鹿屋市役所の職員にも協力していただき、電話ででも同意していただける方がいないかを探しましたが見つかりませんでした。

いつまでも猶予はありません。本日、ご本人の同意だけでCAGを実施しました。LAD take-offの進行だけであればと考えていましたが、最悪の状況です。LMTの分岐部の狭窄です(Fig. 2。) この結果を見た時に、最初に考えたのはCABGです。同意する家族がいない中で、CABGに回して心臓外科の先生に苦労をかけるのは目に見えています。また、同意していただく方を探している間に死に至る可能性もあります。いろいろ考えた末、瘦せろ痩せろと診察室で喧嘩しながらも3年間診てきた私が責めを負えばよいと考え、ご本人の同意だけでPCIを実施しました。

Fig. 4 IVUS image after PROMUS stenting
ACSですので血栓の関与等を心配しましたが、図らずも同意をしていただく方を探している間のヘパリン化でconservative srategyになっていました。殊の外、スムーズに治療は進み、Fig. 3のようにきれいな仕上がりになりました。LMT-LADにPROMUSを置き、CXに向けてはバルーンのみです。Fig. 4に示すようにIVUSで見ても11時から1時方向に見えるCXにも問題はありません。

ホッとしました。

   孤立している高齢者が多い鹿児島県ですから、冗談で「鹿児島県は、日本で一番、親不孝な県だ」と時々言ってしまいます。しかし、本質は、若い人たちの雇用を支えられない地域の経済力が孤立した高齢者を生み出しているのだと思っています。その地域、その地域の医療は、そこで働く医師だけではどうしようもない問題を抱えています。鹿屋ハートセンターのささやかな経済効果だけではなく、この地域の住民としてこの地域の雇用や経済を考えなくてはなりません。

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