Fig. 1 Khao Lak beach,Thailand 3days after Tsunami, 2004 |
Fig. 2 Sri Lanka 2Weeks after Tsunami |
Fig. 3 Banda Aceh, Indonesia 3months after Tsunami |
当時、徳洲会の専務理事をしていた私は、徳田虎雄さんの命を受け、発生2日後の12月28日にタイのプーケットに入りました。Fig. 1はその翌日のプーケットの北方のカオラック海岸の様子です。海岸から数kmはありとあらゆるものが破壊され、水浸しになった更地に、廃墟や自動車がそのまま放置されていました。遺体収容袋を満載したトラックを何台も見かけました。多くのヨーロッパ人の外傷患者を受け入れきれなかったタクアパの県立病院の支援を決め、 2005年の元旦はタクアパで迎えました。
そのおよそ10日後には支援の必要性を検討するためにスリランカに入りました。Fig. 2はその時の写真です。やはりカオラックと同様の光景が広がっていました。 スリランカでは地震発生直後の医療の需要の急増期を過ぎていたために現地での活動は行わずに、医薬品等を送ることだけを決めました。
Fig.3は地震発生からおよそ3月経過した、インドネシアのバンダアチェです。復興が進まず、直後に増加した医療の需要は落ち着いていたものの病院そのものが被災したために通常の医療需要に応える供給が間に合っていませんでした。このため約1ヵ月間、機能の低下した病院の復興の仕事をさせてもらいました。透析やICUの再開です。
経験したこの3カ国の光景はまさに、いま報道されている東日本大震災による津波の被害の光景と同様に見えます。スマトラ沖地震の際には防波堤や防潮堤が整備されていないところに建築された、耐震性の低い建物であったからこのような悲劇が起きたと思っていましたが日本も同様でした。私たちの国は大丈夫だという過信は自然の猛威の前にいかに甘い判断であったかを今回の震災が明らかにしたものと思います。
6年前に多くのものを学びました。震災の後、医療の需要が急増し、供給が不足になる時には医師や看護師といった人的資源や医薬品の支援が、医療供給量を増やし急場を乗り越えるのに役立ちます。一方、急場が過ぎると、被災した病院の供給量を元に戻すためにモノやヒトだけではない病院インフラを再構築する仕事が待っています。ステージによってするべき仕事の内容が変わってくるのです。
バンダアチェと比べるとタイでは復興は早くに進みました。タイでは地震そのものの被害はなく、津波による被害だけであったために、被災地は帯状でした。水に浸からなかった場所は全く何の被害もないために被災地を支えるインフラは整っていたのです。電気も水道も維持され、救援に入った私たちは食料調達にも困ることはありませんでした。
一方、バンダアチェでは地震そのものの被害も受けていたこと、海岸近くに広大な平地が広がっており帯ではなく面状に津波の被害も受けていました。このため病院の機能も完全に破壊されており救急治療は困難を極めました。この状況は今回の東日本大震災における気仙沼や陸前高田の被害の状況に似ていると思います。
スリランカでこうした事態の解決策を教えてもらいました。スリランカ東海岸が津波の被害を受けましたが、西岸のコロンボにある病院に重症患者はヘリ搬送され治療を受けられたのです。インフラの破壊された土地での困難な治療よりも少し足を延ばすだけでより質の高い治療を受けることが可能であったわけです。見習うべき対策と思ったものです。
タイでは外国人の被害が多かったことから、被災者、行方不明者を探すことが困難でした。こうした中でタイ政府は、震災の救援サイトを立ち上げました。行方が分からなくなった家族の特徴を登録するデータベース(この人を探していますというデータベース)をインターネット上に公開しました。一方で身元不明の遺体の特徴をまとめたデータベース(このような人が見つかりましたというデータベース)もインターネット上で公開しました。このため、行方不明と登録されている人が無事にすでに自国に帰っている場合など、自分の国からこの不明者リストから登録を削除するということ可能でした。また、行方不明者を探すために家族が避難所や遺体安置所をさまよい歩くということも減らすことができました。そしてこのデータベースにアクセスするためのコンピューターは被災地のいたるところにおかれ、誰もが使用可能でした。
日本は先進国です。しかし、全てにおいて他国と比べて優れたことができるわけではありません。他国の教訓や経験から学び、今からでも実施できることがあるような気がします。 救える命が一人でも増えるように、また、救われた後の悲劇が少しでも小さくなるように祈るばかりです。
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