2012年1月13日金曜日

PCI症例に見るこの国の不幸

昨日実施したPCIの方です。80歳代前半の男性、 4年前にLADの完全閉塞に対してPCIを実施し、Cypher stentを植え込んだ方です。その後再狭窄もなく安定していました。しかし、もともと、慢性心房細動があり時に心不全を起こされるためにワーファリンや、利尿剤を内服されています。

昨日の冠動脈造影では以前に植え込んだCypher stentのedgeに90%狭窄を認めた(Fig. 1)ために、PROMUS stent植込みを行いました(Fig. 2)。手技自体は単純なものでした。

この方の今回の入院のきっかけは全身の浮腫と呼吸困難です。Fig. 3に入院時の胸部レントゲンを示します。両側の胸水を認めます。

 この方は、独居です。この方の支援をしている支援センターの方に見てもらったところ、自宅には内服されなかった利尿剤が残されていました。高齢になり、ご自分一人では内服の管理や、塩分制限・水分制限のできない方は少なくありません。ご家族がいらっしゃれば、こうした管理をお願いするのですが独居であれば、支援センターからの支援と言っても24時間の管理は困難です。今回は大事に至りませんでしたが、こうした独居老人の孤独死は頻発しており、鹿屋の警察の方にうかがったところでは年間に100名を超える孤独死の検死を行っているそうです。

 この方のご家族は遠方にお住まいです。仕事の少ない大隅半島では東京や名古屋・大阪に仕事を求めて若い人は出てゆきます。ひどい心不全であること、突然死もありうること、カテーテル治療が必要なるかもしれないことを説明するために会いたい旨、連絡を入れました。無理して入院直後に鹿屋に帰ってこられたご家族に病状を説明し、心不全が落ち着けばカテーテル検査を実施したい旨お話しし、可能であればその場に立ち会ってほしいとお願いしました。しかし、何日も休みを取って職場を離れると生活ができないと言われ、いつ実施するか決めていない状況でカテーテル検査・カテーテル治療の同意書を頂きました。

そして昨日のPCIです。PCIには、ご近所の方が立ち会ってくださいました。PCI後、そのご近所の方にお話をうかがいました。食べ物を自分で用意できないので、そのご近所の方が食事を届けていること、掃除もままならないためにご自宅は、猫の糞にまみれ履物を脱いで部屋には上がれないことなどを聞きました。また、天井板は腐って垂れ下がっているそうです。こうした環境で、きちんとした内服や塩分・水分の管理ができるはずはありません。

支援センターの方が、死に至る前に連れて来て下さったこと、ご近所が支えてくれていることが幸いでした。しかし、こうした心不全を繰り返さないため、孤独死を回避するために何ができるのか難しい課題が残されました。こうした問題の解決はPCI以上に難しいと思っています。

「夢を両手に街に出て、何もつかめず帰るけど…」はアリスの秋止符の歌詞です。しかし、夢もつかめず、故郷にも帰れずに、都会で自分一人の生活に追われ故郷に残した親の世話もできない人たちがいます。

Working poorや若年層の失業率の高さなど、この国の不況や雇用状況の悪化は、孤独死に代表される地方に残された歳老いた親の悲劇を引き起こしながら不幸を増幅してゆきます。

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