2012年1月19日木曜日

私の心房細動患者に対するワーファリンの使い方

  昨日のブログ「EES植込み後の2剤の抗血小板剤の投与」に記載した方のように心房細動がありなおかつ2剤の抗血小板剤を内服する方も少なくありません。こうした方の場合、何もマニュアルを持っているわけではありませんが、目標とするPT-INR値は低めに心の中で設定しています。心の中で思っている数値は1.6-2.2程度でしょうか。とはいえ、昨日の方のように1.57であれば目標を下回っているからワーファリンをすぐに0.5㎎増やすというものでもありません。文書化するのは初めてですが、私のルールはワーファリンを増量するときには慎重に、減量するときには迅速にと考えています。

上段の図の方のINRの変化のグラフです。89歳の慢性心房細動の方です。高齢ですのでやはり1.6-2.2程度のコントロールと思っています。グラフの前半の部分では効果が十分であったり不十分であったりだいたい月替わりです。この間、ずっとワーファリンは1.5㎎の処方です。効果が十分ではない時には、ちゃんと内服しているかビタミンK含有の多い食品を取っていないかを尋ねますが、ちゃんと内服していない人でも100%の方がちゃんと内服していると返事されます。「では、増量するしかないね」とお話しすると「あと1月様子を見てくれ」という方が多いようです。「では1か月は効果が十分でない状態の管理になるからマヒが出たりするようならすぐに連絡してください」とお話しします。翌月になると同じワーファリン量であっても効果が十分になっていることが多いのです。この時に、「やっぱりちゃんと内服していなかったんでしょう」等と言って患者さんを責めたりはしません。「効くようになって良かったね」とお話しします。1回効果が十分ではないからと言ってすぐにワーファリンを増量するとINRが3.0を超え5.0にもなることがあるのです。ですから増量は慎重にです。効果が不十分な状態での脳塞栓の発症リスクはCHA2DS2-VASc scoreが9点の方でも年率15.2%ですから月率1.3%程度です。この考え方でワーファリンの開始時にもローディングは行わずに維持量から投与するようにしています。

一方、2011年7月に突然この方のINRは同じ1.5㎎の内服の状態で4.16に上昇します。他の薬剤(抗生剤や鎮痛剤)の内服がないかを尋ねますが、理由が見つかることはむしろ稀です。INRが4.0を超える状態が1月続いた場合の出血リスクを知っている人はいないと思います。肝機能の低下や不明の出血性の要素があるかもしれませんし、なによりこの状態を知っていてそのまま様子を見ているうちに脳出血でも起きれば、責任を問われますし、医師として目覚めもよくありません。ですから減量は迅速にです。この方は1.0㎎に減量後に効果が不十分な状態が続きましたが、現在は1.5㎎の内服で本日のINRは1.76です。

下の段の方のINRの変化のグラフもだいたい月替わりです。効きの悪い時に増やさなければならないかなぁと口先介入するだけで翌月は改善します。

本日の外来再診患者は54名でした。そのうち、ワーファリンを内服されているためにPTを測定した方は9名でした。1月の外来日が24日あるとすると9人X24日で200名あまりの方がワーファリンを内服されていることになります。一方、ほとんどの方は35日周期で来院されているので9名X35日だと300名あまりの方がワーファリンを内服されていることになります。もちろん1日平均9名の方のワーファリン内服患者がいると数えた訳ではないので大体 鹿屋ハートセンターに通院しているワーファリン内服患者は200-300名の範囲内だという概算です。この中で、プラザキサを内服している方は一人もおられません。もうすぐ長期処方が解禁されますが、この1年、プラザキサが長期処方可能になればどうするかを考えてきましたが、今の気持ちは、匙加減の可能なワーファリンを従来通り中心にして心房細動を管理してゆくのだろうと思っています。

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