Sunday, December 23, 2012

医療上の24時間365日の安心はただではできないのです

 ある東北の町で実際に起こったことです。医師のいない町で、最も近くの医療機関まで数十キロもあることから、町の皆さんが困っておられました。そこで町立の診療所を開設し、一人の医師に赴任してもらうことになりました。熱心な先生で昼休みも十分に取らずに訪問診療などをされていました。お昼を随分過ぎてから、近くのお店でパンを買って遅い昼食を摂っておられたところを、町の方が目撃され、町の税金で雇ってやった医者が患者も診ないで飯を食っていると非難されたのです。非難された医師は昼食もろくに摂れない町では働けないと退職されました。また、そんな非難をされる町ですから次に赴任する医師もなく元の無医村に戻ってしまい、町の皆さんはまた不便をするようになってしまいました。お伽噺ではありません。現実に起こったことです。

 言うまでもなく、医師も労働者です。1週間の勤務は基本40時間です。これ以上の勤務を求めるのは違法です。24時間週7日間、もれなく誰かが勤務している状態を作ろうと思えば週168時間ですから4人の医師でも間に合いません。最低でも5人の医師が必要になります。町民は5人の医師を雇用するだけの負担をせずに、休みなく勤務することを求めたためにようやく来てもらった医師すらも失うという愚行をしてしまいました。

 鹿屋に夜間急病診療所が開設される前、鹿屋の夜間の急病は鹿屋の開業医が交代で当番をしていました。当院も当番をしていました。当院に来られたことのない患者さんから朝5時に今から普段内服している降圧剤を取りに行くから用意しておけと言われたことがあります。急病に対処するのが目的の当番ですから、普段のかかりつけの先生に受診してくださいとお話ししたところ、仕事で行けないから言っているのだとお叱りを受けました。また、午前3時頃に小学生の子供が熱を出して頭が痛いと言っている、今からMRIを撮ってくれと言われたこともあります。24時間365日いつでも心配であればMRIが撮れますよというような病院はありませんよ、朝早くに小児科に受診されるのが良いですよとお話ししたところ、MRIも撮れないのか、この腐れ病院めと非難されました。交代でやっている当番の開業医のどこででもMRIが撮れると思っておられたのでしょうか。

 24時間365日、いつでも降圧剤を貰え、心配ならMRIが撮れ、緊急の心臓治療も内視鏡も腹部の手術も脳外科の手術もでき、小児の熱発にも中耳炎にも尿管結石にも対処できるというような病院を作ろうとすれば最低でも100人規模の医師を抱えた病院が必要になります。しかし、鹿屋にはこの規模の病院は存在しませんし、仮にこの規模の市立病院を鹿屋市が作ろうとすればその財政負担に鹿屋市は耐えることはできません。それでも24時間365日の安心を保証できる町にしろというのであれば年間に発生する市立病院の赤字は市民で負担するしかありません。鹿屋市立病院を24時間365日なんでも対応するという形で設立すれば年間の赤字は10億円を超えるだろうと思います。10万人の人口ですから毎年、市民全員が医者にかからなくても市立病院を維持するために1万円ずつ負担しますよというのであれば実現は可能かもしれません。24時間365日、いつでもなんでも対応できる医療機関はただではできないのです。

 鹿屋市では循環器救急の当番を作っています。市の制度ではありません。鹿屋市のカテーテル治療ができる施設が自発的に当番し、24時間365日いつでも緊急のカテーテル治療に対応できるようにしているのです。このためいわゆる「たらいまわし」は鹿屋市では発生していません。しかし鹿屋市の医療機関で働くカテーテル治療学会の専門医は私一人ですし、認定医もあと二人いるだけです。24時間365日を回そうと思えば最低でも5人の医師が必要なのにこの少ない人数で24時間365日をカバーすることを自発的に行っているのです。褒めてもらいたい訳でもなく、ありがたく思えよと言いたい訳でもありません。医者なのだから休まずに飯も食わずに働くのは当たり前だというような理不尽な要求をぶつけて東北の町で起こったことと同様の愚を繰り返してもらいたくないと願うのみです。町の皆さんを守るぞという使命感に支えられた医師の不眠不休の努力と、その努力に対する市民の皆さんの理解との調和でしか財政難で十分な医療体制を構築できないこの国では救急は維持できないように思っています。

2 comments:

  1. 青森の吉町と申します。
    本当にお恥ずかしい限りです。
    何が必要か解らないのが田舎の情けない所であります。
    医師不足の一番の問題は、新しい医者が田舎に残らないということではありません。医師を大切にしないので、医師が出ていくのです。もしくは、医者に出ていけというのです。
    「医師の数=増える数-減る数」で、増えないばかりが注目され、減る数が多いところはなかなか着目されません。ここを問題にしないのは、環境の責任者やとても偉いつもりの先生達が、自分の責任を問われるからです。
    こんな情けないのが田舎の現状です。
    民度を高くするしか、日本の医療を救う道は無いと思っています。

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  2. 吉町先生、先生のご活躍はよく知っています。先生が今日言われたことは、今度書こうと思っていたことの一つです。多分、今日の夜には書くと思うのでよろしければ読んでください、FBの友達リクエストもしておきます。

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