2012年12月11日火曜日

地方でPCIの技術を高めること

Fig. 1 Right Coronary A. evaluated with MDCT
大リーグ テキサスレンジャーズに移籍したダルビッシュ有選手は、デビューの年である2012年のシーズンを16勝9敗という素晴らしい成績で飾りました。150km/h近い速球を投げられるだけではなく数種類のカーブ、フォーク・ツーシーム、スライダーなど多彩な変化球をも合わせ持っています。速球の球速が衰えたから変化球で交わす投球術を覚えたという後ろ向きの発言をする投手もいますがダルビッシュの場合は異なります。より高みに臨むために種々の技術を習得し、磨きをかけたというべきだと思います。

私の仕事である冠動脈のカテーテル治療は、循環器病の理解やPCIの戦略の立て方等、頭脳を使うことも重要ですしもちろん技術も大切です。また多くの技術・戦術を持ち合わせていることで戦略の構築も変化します。頭を使うことと、手を使うことは車の両輪です。
Fig. 2 simultaneous CAG before PCI 

 狭窄性の病変と比べて治療成績が格段に低かった慢性完全閉塞に対するPCIもretrograde approachの進化によって成績が向上してきました。永くPCIの世界にいる私にとってももちろん自分のものにしたい技術です。一方で症例数の少ない地方の施設ですし、10万人の人口に対して4つのカテーテル治療可能施設があり700件もPCIが実施されている鹿屋では慢性完全閉塞に遭遇することは多くありません。開業後6年を鹿屋ハートセンターは経過しましたが、この間にretrograde approachを試みた方は僅かに5例のみです。1例は2010年12月13日付の当ブログで紹介しました。年に1例あるかないかですからこの手技がうまくなる筈もありません。

Fig. 3 IVUS imaging after predilatation
昨日のケースです。3月ほど前から労作時の胸背部痛があり受診されました。心房細動もあります。当院の冠動脈CTで心房細動患者さんだからと評価できないケースは最近は稀です。Fig. 1に冠動脈CT像を示します。#4AVが起始部から完全閉塞です。石灰化はほぼ認めません。

Fig. 2は左右の冠動脈の同時造影です。回旋枝の末梢から良好な側副血行を認めます。

石灰化がないものの断端が幅広くantegrade approachではうまくいかないことも考えてretrograde approachの準備も整えてPCIを始めました。普段は使わない7FのガイドやCorsair、種々のガイドワイヤーなどです。

Fig. 4 After successful PCI
まずはantegradeからです。ワイヤーの通過に難渋するようであれば解離腔を形成し、ぐちゃぐちゃになる前にReteroに切り替えようと思っていましたが、すんなりとワイヤークロスに成功し、バルーン通過に難渋はしたものの前拡張も可能でした。前拡張後のIVUSをFig. 3に示しますが、すべて真腔を捉えていました。ステントを置いて終了です。

潅流域の大きな#4AVでしたが、側副血行や左冠動脈に負荷やリスクをかけずに治療できたわけですからもちろん良かったのですが意気込んでいた分、すこし拍子抜けです。

技術を高め、戦術を豊富に持ち、複数のオプションを持つ戦略を構築するというのはもちろん、患者さんに寄与しますが、一方で、うまくなりたいという医師の側の気持ちは、わがままかもしれません。症例の少ない地方でうまくならないのに、必要なケースが出てきた時にどう対処するかを考えなくてはなりません。経験豊富な先生に治療してもらうために鹿屋に来てもらうだとか、患者さんに行ってもらうというのが良いのかもしれません。人口が少ないがために症例数が少ない地方なりの考え方が必要なのでしょう。鹿屋のような田舎でダルビッシュが常勤して活躍できる場は構築できる筈もありません

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