2012年12月22日土曜日

医療費は高くなっているのでしょうか、国民医療費の増大は医療機関の責任なのでしょうか?

本日NHKで放送されたNHKの「新政権を問う」という番組を見ていて強い違和感を感じました。消費税増税と社会保障がテーマで語られている時に画面下に表示されるTwitterの言葉です。医療費が高くなるので困るというtweetです。この中で語られる医療費とは何なのでしょうか。

例えば私が専門とする冠動脈のカテーテル治療PCIの分野では、今年の診療報酬改定以前であれば1本のバルーン、1本の薬剤溶出性ステント、IVUSを使用して100万円程度でした。今年の診療報酬改定でバルーンやステントの価格は大きく下がったので現在では80万円程度です。医療費は大きく低下しました。では患者さんの窓口負担はどうでしょうか。昨年の医療費であっても今年の医療費であっても高額医療に違いはありませんから患者さんの窓口負担はまったく増加していません。また、個別の医療費の総体である国民医療費もPCIにかかわる分野は患者数が増えない限り単価が低下しているので低下している筈です。2012年は現時点の予想では昨年と比べてPCIの歴史始まって以来初めてPCI件数も減少すると予想されているので総体としても医療費は低下します。では何を持って「医療費が高くなって困る」とtweetした人は感じたのでしょうか?

かつて高齢者の医療費は0割負担であり、医療機関にかかっても1円も負担がないために必要のない受診が横行し、医療機関は高齢者のサロンになっているという時代がありました。しかしそれが1割負担、2割負担を変わってきたために窓口の負担は確かに増えました。また、かつて社会保険本人の窓口負担は1割でしたが現行は3割負担ですのでここでも患者さんの負担は増えました。窓口負担が増えると医療機関が儲かっているのだろうと勘違いをする方もいらっしゃいますが、1件当たりの医療機関が受け取る医療費は少なくともPCIの分野では低下し続けています。窓口負担が増えたのは医療機関が収入を増やしているのではなく、財政上の理由から公的な負担が減った結果です。医療機関に負担が増えた恨みをぶつけるいわれはありません。

診療報酬という公の制度改定のみで医療費が低下しているだけではありません。2011年2月3日付当ブログ「PCIの6ヶ月後の冠動脈造影をしないことに決めました」という方針変更後、2012年3月7日付当ブログ「フォローアップの冠動脈造影を実施しないことによる収支の変化」に記載したように鹿屋ハートセンターに関わる医療費全体は約8%も減少しました。この後にバルーンやステントの保険償還価格は大きく低下しましたから更に鹿屋ハートセンターに関わる総医療費は低下しています。まだ2012年が終わっていませんが恐らく2010年と比較すれば15%程度の医療費の低下になると思っています。このような診療科の運営を私が勤務医時代に行っていれば解雇されていたかもしれません。

国民医療費が増える原因は治療や介護を要する人たちが増えたからにほかなりません。また、窓口負担が増えたのは公的な給付が減ったからで医療機関の収入が増えたからではありません。こうした構造的な問題から目をそらし医療が高度化するので医療費が増えるという論調は明らかな過ちだと思っています。このことに関しては2012年1月27日付当ブログ「医療の高度化に伴って増大する医療費というまやかし」に書きました。

本質から外れ、国民医療費の増大や不健全な財政の責任を医療機関に問う政策がこれからも続けられるのであれば、医療機関は維持できません。もちろん医療の需要がなくなることはありませんから、勝ち残る医療機関と淘汰される医療機関があるでしょうが、総体としては医療の供給力は低下します。医療崩壊です。そして医療崩壊の最大の被害者は医療を求める患者さんに他なりません。医療機関に付け回しをすることには限界があります。本質的な構造改革に向けた議論を期待したいものです。

0 件のコメント:

コメントを投稿