2012年12月27日木曜日

多重のステント植込みが原因と考えられる虚血性心不全

  2006年から近くの病院で繰り返しステント植込みをなされた方です。急性の呼吸困難で夜間に救急受診されました。2か月前の心エコーでは左室拡張末期径52㎜と左室の拡大はなく、左室駆出率も56%です。心エコー上の推定右室圧は18mmHgでした。
  
 この程度の心機能の悪くない方が著明な喘鳴でリザーバーマスクでもSP02が70%しかないために気管内挿管を行いFiO2: 100%で人工呼吸器管理を行いました。利尿は良好で翌日には酸素化の状態は改善し、抜管できました。嵐のような心不全がやってきてすぐに去っていきました。このような心不全は腎動脈狭窄でよくみられます。Cardiac Disturbance Syndromeです。しかしこの方の腎動脈PSVは左右とも100cm/s以下です。

 主要冠動脈のどこかに危機的な狭窄があるのではないかと本日、冠動脈造影を行いました。しかし、左冠動脈前下行枝の入口部に50-75%狭窄を認めるのみで嵐のようにやってきた心不全を説明する病変は認めません。しかし、過去にも同じ造影剤を使用して問題がなかったにもかかわらず、また、造影剤の使用量は20ml程度であったにも関わらず、造影直後に胸苦を訴えられ、血圧は45mmHgまで低下しました。造影直前の
PCWP=28mmHg、 PAP=54/25/38でした。著明なPCWPの上昇があったので造影を躊躇いましたが、冠動脈が原因であれば待つことが致命的になると考えて造影に踏み切ったのです。しかし、前述のように主要冠動脈に有意な狭窄は認めませんでした。安易なカテコラミンの使用は危険と考えIABPを使用しました。

一体、何が原因でこの嵐のような心不全がやってきたのでしょうか?この方には日常の生活でNTG舌下が有効な胸痛があります。心筋虚血は存在するのです。最下段に示すように左冠動脈には入口部から前下行枝末梢までステント植込みがなされ、回旋枝も末梢までステント植込みがなされています。右冠動脈も同様です。ステント植込みの詳細は分かりませんが繰り返し、何重にも植え込まれたステントのせいで目に見えるような冠動脈には狭窄はないもののステントによって小血管の血流が障害されているのではないかと考えています。過去にも同様のケースの経験があります。勝手に多重ステント心筋症と呼んでいます。

この仮説が正しいとすれば治療は困難です。主要冠動脈の狭窄による虚血であればカテーテル治療やバイパス手術で虚血は解除されますが、主要冠動脈の大部分をステントが覆いこれが虚血を引き起こしているのであればカテーテル治療もバイパス手術も意味がありません。ましてバイパスの吻合部になる部分もステントで覆われています。

多重債務ではありませんが、多重のステント植込みによる開存した主要冠動脈にも拘らず発生する虚血性の心不全のようです。私自身はこのようなステント植込みを行ったことはありません。常にバイパス手術というオプションを残すことを心掛けてきたからです。自分ならこんな治療はしないけれどと言っても仕方がありません。良い対処を考えなければなりません。

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