Friday, June 7, 2013

新規抗凝固薬に対する私の考え方が変わってきました

明日6/8に福岡でダビガトラン発売2周年の講演会が開かれます。勉強に行くつもりです。ただ手ぶらで講演会を聞きに行っても良いのですが、何度もこのブログでも書いてきた関心のある分野ですから考えを整理してから講演会を聞きに行った方がより意義深いかと思っています。

私が心房細動患者さんの抗凝固療法はワーファリンを中心に考えてきているといった理由は2つです。一つは抗血小板剤との併用でも新規抗凝固薬(NOAC)は安全なのかというデータがないこと、もう一つはワーファリンで十分に管理されている方で薬を変更する必要があるのかという点です。

昨年3月に当院に通院されている心房細動患者を分析しました。慢性心房細動に限ると133名通院されているうち29名(21.8%)の方はPCI後や下肢のEVT後で抗血小板剤を内服しておられました。こうした方ではやや緩めのINRの管理しかないだろうと思っています。また、平均のTTRは75%程度でしたので、TTRが低値(INRが不安定)の方は25%程度です。ずっと最近までこの25%の方のみがNOACの適応ではないかと考え、こうした方のみにNOACを処方してきました。ただ、INRの不安定な方の多くは高齢ですので抗血小板剤を内服していたり、腎機能が悪かったりでNOACの使用が難しい方たちです。ワーファリンを使いづらい方たちはNOACも使いづらいのです。ですから慢性心房細動で当院でNOACを処方している方は10名ほどです。

しかし、最近、少し考えを改めました。INRのコントロールが良いケースではNOACが必要ないのではないかと考えてきましたが、ワーファリンで管理されていない初診の心房細動患者さんにまでワーファリンによる管理を始めなくても良いのではないかと考え始めたのです。図の方は無症状で検診で異常を指摘されて来院された方です。心房細動で左房径も拡大し始めています。抗血小板剤を内服しているわけでもない、ワーファリンによるコントロールがなされているわけではない方ですので、私がNOACを使用するのをためらう2つの理由がない方です。こうしたケースで最近は少しずつ最初の治療としてNOACを始めています。もちろん腎機能をチェックし、処方後2週間ほどでINRやaPTT、血算をチェックし、出血に対する十分な説明も行ってのことです。こうして始めて見るとやはりNOACはワーファリンと比べて楽です。何も血液検査もしなくても良いというほど楽な管理ではないですが、ワーファリンを開始してからINRが安定するまでの時間を考えると手間がかかりません。

現在、NOACとしてダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンの3種が使用可能ですがどの製剤が良いのでしょうか?直接に比較した研究が存在しないので何とも言えませんが、基本的には同じような傾向で、出血性合併症はワーファリンよりやや少なく、塞栓症の発生もワーファリンよりやや少ないというそれぞれのデータです。もしこのデータが正しいのであれば、より塞栓症や出血のリスクが高い高齢者や腎機能低下例でNOACの使用が難しいのは問題なのではないかと考えています。

当院の慢性心房細動患者133名の中で74歳以下の方は58名でした。この中で腎機能低下例は5名で、更に残った53名中12名の方が抗血小板剤を内服されていたので、いずれの条件にもかからない方は僅かに41名 30.8%でした。残りの70%の方にもより塞栓リスクを減らし出血リスクを減らしてという工夫はできないものでしょうか?

心房細動という巨大な患者群の70%が恩恵を受けることができないのではNOACの価値も小さくなってしまいます。高齢者や腎機能低下例、低体重患者、抗血小板剤内服患者におけるNOACの使用法を考えることは今後の重要なテーマと思えてなりません。

明日の講演会でよく勉強してきましょう。

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