2012年2月5日日曜日

PCIの普及に見る東京砂漠

福岡での勤務を後輩に譲り、鹿屋に志願した話を2012年2月1日付当ブログ「ネット時代の『連帯を求めて孤立を恐れず』」に書きました。この時、困っている人のために鹿屋に行くのだとだけ考えていたわけではありません。日本で最も循環器救急が劣っている土地で循環器救急を立ち上げることで日本中にインパクトのある仕事になるのではないかと考えたのです。

東京や大阪や福岡で循環器救急が仮に充実しており、心筋梗塞のほとんどが助かるのだということを循環器救急の出来上がっていない地方の人が聞くと、都会はいいなと思うだけです。何故、同じ税金や保険料を払っているのに受ける医療サービスが異なるのだと怒る人はまずいらっしゃいません。田舎だから仕方がないと思うだけです。一方、もし、日本で最も条件の悪かった土地が、東京や大阪よりも充実した循環器診療の提供できる土地になった時に都会に住む人たちはどう考えるでしょうか。田舎は良いよな、都会だから仕方ないよなとは思わないと考えたのです。最も劣悪な条件の土地が生まれ変わることで日本中が変わるのではないかと考えて最も劣悪な条件の鹿屋を志願したのです。

この結果、私が鹿屋に赴任する前(2000年以前)に1件もなかったPCIは、2007年のデーターで10万人当り752件実施される全国第2位のPCI密度の町に生まれ変わりました。ちなみに全国1位は千葉県松戸市の10万人当り882件でした。一方、2007年当時の人口10万人当りのPCI件数の最も少なかった自治体は東京都江東区で10万人当り20件でした。これは江東区に限った現象ではなく、世田谷区の40件、杉並区の50件、中野区の30件、台東区の25件、豊島区20件、北区の20件と東京23区にはかつての鹿屋のような自治体が多数存在します。こんな風に書くと他に多数をやっている施設が近くにあるからでしょと反論されますが、東京23区平均でも10万人当りのPCI実施件数は全国平均を下回ります。このことについてはかつて鹿屋ハートセンターの院長日記に記載しました。

1997年頃、当勤務していた福岡徳洲会で循環器科のホームページを書いていました。当時は、インターネットの普及も十分ではなく、苦労もなかったためにアクセスされた方からの質問をメールで受け付けていました。最も多くの質問は東京から寄せられました。もちろん、インターネット人口が多いからだと理解しています。この中の質問で忘れられないのは、東京の大学病院に入院して2日後に家族が急死したが、納得できないというメールです。背部痛があり入院し、3日後に心エコーの予約が入り1週間後にCTの予約が入っていたそうです。そして入院後2日間、何の検査も受けないまま再度強い背部痛を訴えて急死されたというのです。お話を伺って最もそれらしいと思うのは急性大動脈解離(解離性大動脈瘤)です。1997年当時でもまだこんな診療をしている病院があるのかと驚きました。それも東京の大学病院でです。

図は、Google analyticsを始めて本日までの7日間の日本の地区別のアクセスです。4日前にはアクセスのなかった静岡県や栃木県からもアクセスがあり、現在アクセスがないのは鳥取県と島根県のみになりました。アクセスのあった地域はこの1週間で130地区です。

地元の鹿児島のアクセスが多いのは当然ですし、東京港区のアクセスが多いのは電子カルテが使えるパソコンは電子カルテのサーバーのあるセコムのVPN経由でインターネットアクセスをしているせいで港区からのアクセスにカウントされるからです。しかし、この港区からのアクセスを除いても東京からのアクセスが突出しています。Facebook経由でのアクセスかとも考えましたが参照元を見ると1番が鹿屋ハートセンターのホームページからでした。次いでGoogleやYahooといった検索からです。東京からのアクセスが多いのは人口が多くインターネットにアクセスしやすい環境だからだと考えたいものです。1997年当時のようにPCIの供給が少ない土地であるが故に救いを求めてのアクセスでなければよいがと思います。

あなたがいれば あゝうつむかないで
歩いて行ける この東京砂漠

内山田洋とクールファイブの東京砂漠です。前川清さんが歌い米米CLUBも唄っています。「あなたがいれば」の「あなた」はいったい誰なのでしょうか?大好きなあなたがいるから心臓の治療も受けられない東京でも我慢して歩いてゆけるという意味でしょうか。あるいは、私は心臓発作になった時に安心して任せられる医師であるあなたがいるから元気に歩いてゆけるという意味でしょうか。後者になるためには、医療分野でも東京砂漠であるという現状認識が必要です。日本の隅っこという意味で名付けられた大隅に東京は負けている場合ではないのです。

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