Friday, March 7, 2014

個々の患者さんが教えてくれること、まとまった患者さんの経過や結果が教えてくれることを大事にしましょう。

 昨日、鹿屋の循環器の先生、神経内科の先生の前で「エリキュースの適正使用」という話をさせてもらいました。少し前に鹿屋の先生の前で「ワーファリン派の私が考えるNOAC位置づけ」というテーマでお話しさせていただいたばかりなので、同じ話にならないようにしようと考えるとプレッシャーでした。このようなプレッシャーでもなければできない仕事をしようと考えました。2012年2月に当院に受診された心房細動の患者さんをリストアップしていたので、ちょうど2年後の2014年2月までの経過を検討しようと決めました。

2012年2月にリストアップした方でワーファリンの処方をしていた方は240人でした。そのCHADS2分類が図1です。CHADS2が上がるにつれて高齢化しCHADS2が3-6の方の平均年齢は80歳でした。またCHADS2が上がるにつれてクレアチニンクリアランスは低下し、やはりCHADS2 3-6の方の平均は50.5ml/minでした。平均でこうですから実際には30ml/min下回る方も少なくありません。塞栓症のハイリスクの患者さんは、抗凝固療法中の大出血のハイリスクでもありました。

DabigatranのRe-lyやRibaroxabanのROCKET AF、ApixabanのAristotleで若干の除外基準の違いはありますが一応クレアチニンクリアランス30ml/min未満、2剤の抗血小板剤の内服は除外としてこの240人に当てはめると63名(26.2%)の方は除外基準に該当しました。当院のデータでみるとreal worldでは約1/4の方が除外基準に当てはまる状況で抗凝固療法を行っていることになります。

2年間の経過で9名の方の死亡がありました。年率1.9%の死亡です。4人の方が心不全死、2人の方が癌死、お一人が脳出血死、2人の方は突然の死亡で死因が特定できませんでした。年率1.9%の死亡率はNOACのスタディーのどの結果よりも良かったので安心しました。また、2年間の脳梗塞の発生は2例、脳出血の発生も2例でそれぞれ0.4%の発生です。ただ全体を分母にすると0.4%ですが脳出血を起こされた方のうち1人はDAPT併用の方、もう1人はアスピリン併用の方でしたので、抗血小板剤併用患者さんのnを分母にすると発生率は1.4%になります。抗血小板剤内服患者さんの抗凝固療法は問題が残っていることを再確認です。

私が新規抗凝固薬が使えるようになってもワーファリンにこだわっているので、その個人的なこだわりが患者さんの命を奪い、脳梗塞や脳出血を増やしているとしたら話になりません。240人の方のカルテを振り返るのは大変な作業でしたが、やってみて良かったと思っています。

2年間の経過で患者さんも2歳、年齢を重ねました。この間に図2に示すように平均のクレアチニンクリアランスは約6-7ml/min低下しました。ベースのクレアチニンクリアランスが80歳以上では低いので6-7ml/minのインパクトはより大きくなります。2年間で約16%の低下です。その結果、平均値も37ml/minとNOACも相当に慎重に使用すべき水準に低下しています。NOAC3剤とも長期処方が可能になりましたが、経過とともに腎機能が悪化してゆくことに注意が必要です。

面倒でも、自分が診ている患者さんを個々にだけではなく、総体としても振り返る作業で見えてくるものがあります。臨床における疑問や課題の答は患者さんが教えてくれると言いますが、その患者さんとは個々であり、全体でもあるとも言えます。

No comments:

Post a Comment