良くコントロールされた(TTRの高い)ワーファリンによる抗凝固療法では、Dabigatran300mgよりも虚血性脳卒中の発生が少なく、最強の抗凝固療法であると議論を進めてきました。一方、最強の抗凝固療法であるために、NOACと比較してワーファリンが臨床的に劣る重要なポイントは頭蓋内出血の発生であるため、Anticoagulation at minimum bleeding riskという目標を設定するならばNOACを選択せざるを得ないと結論しました。
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ではどのNOACが最もAnticoagulation at minimum bleeding riskという目標に適しているのかを考えなければなりません。
しかし、4つのNOACで直接の効果を比較した試験はありません。また、図1に示すようにARISTOTLE試験では高齢者の割合が最も少なく、図2に示すようにRE-LY試験やARISTOTLE試験の対象患者のCHADS2スコアは他の2つの試験よりも低値でした。このため当然のようにROCKET-AF試験やENGAGE-AF試験の結果は前2者よりも悪く出やすいのです。
4つの試験の結果はまさにそうでした。4つの試験で図3に示すようにワーファリン群のTTRに差はないものの図4に示すように一次エンドポイントである脳卒中/全身性塞栓症の頻度は、Dabigatran300mgとApixaban10mgで優越性を示し、RivarixabanとEdoxabanは非劣性でした。
患者背景が異なる訳ですから優越性を示した薬剤が優れていて、非劣性しか示せなかった薬剤の方が劣るとは一概に言えないだろうと思っています。ではどのように薬剤を選べばよいのでしょうか?
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図5は75歳以上の患者に限った4つの試験の一次エンドポイントである脳卒中/全身性塞栓症の頻度、図6は大出血の頻度です。
今回のテーマはAnticoagulation at minimum bleeding riskですから図6を見ると、NOACによる大出血の頻度は少ない順に
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となります。Edoxaban30㎎が最も大出血が少ないという結果でしたが、ENGAGE-AF試験のプロトコールは複雑で30㎎群の中にも15mgを内服しているケースも、60㎎群の中にも30㎎を内服しているケースもありどう評価してよいのか分からないところがあります。ですから、現時点でAnticoagulation at minimum bleeding riskという観点では、私はApixabanが良いのかなと思っています。
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他の3つの試験ではINRの目標は2.0-2.6ですが、Apixabanと比較された75歳以上のワーファリン群の重大出血率は10.8%と際立って高値です。同様のINR目標値、同様のTTR、同じ75歳以上の群なのに際立って高い重大出血を見ると、TTRでは測れないワーファリンコントロールの稚拙さがあったのだろうと推測できます。(どの群もnは極めて少数なので正しい結論ではない可能性もありますが…)
古くからの友人である先生は、Apixabanのワーファリンに対する優位性はこの稚拙なワーファリンコントロールのためだからあてにならないとよく言われます。ですからワーファリンとの比較ではなく、NOAC同士の比較が必要なのだろうと思います。
ただそうした比較試験が行われるか否かは分かりませんが、結論が出るまでは公開されているデータで考えてゆくしかありません。患者背景の差を最小にして各NOACの成績の差を比較するしかありません。次回は、低腎機能患者群で比較したいと思います。