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昨日は、一般的な薬剤溶出性ステント(DES)植込み後の2剤の抗血小板剤(DAPT)の投与期間について書きました。本日は、DAPTの投与期間についてさらに難しい問題がある心房細動患者での薬剤溶出性ステント植込み後の管理について考えたいと思います。
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そもそもステント植込み後にDAPTが必要なのかから考えたいと思います。2番目の図は、Patmatz-Schatz stentの最初の使用経験の成績です。ステントが人体に使われ始めた頃の成績は惨憺たるものでした10%を超えるステント血栓症が発生し、当初は使い物にならないという評価だったのです。ステント血栓症予防のために使用された薬剤はワーファリンでした。図に示すようにASA+Dipでは防げなかったステント血栓症がワーファリンによって防げたのです。ワーファリンにはそもそもステント血栓症を防ぐ効果があるのは明らかです。STRESS試験でもBENESTENT試験でもステント血栓症予防に使われた薬剤はワーファリンです。
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しかし、ワーファリンによるステント血栓症予防の時代はイタリアのコロンボ先生の論文で終わりを告げました。IVUSでしっかりと拡張を確認したステントではワーファリンを使わなくてもステント血栓症はASA-Ticropidineで防げること、出血性合併症が劇的に減ることが示されたからです。ステント植込み後にワーファリンを使用していた時代のガイディングカテは8Fでしたし、そけいからのアプローチでしたから止血に難渋することが多かったのです。その頃からPCIに関わってきた私にとってその止血から解放されたのは大きな喜びでした。こうしてDAPTの時代が始まりました。わずか20年前のことです。そしてワーファリンにはステント血栓症を予防する効果があるということは忘れ去られたといえます。
ワーファリンでステント血栓症を予防する効果があるとすれば、DAPTは必要なのでしょうか。抗凝固療法を受けている心房細動患者さんでは、ワーファリン+1剤の抗血小板剤、特にTienopyridine1剤で十分なのではないでしょうか。3剤の処方を受けて脳出血死される方を減らすために検証が必要だと思います。
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Dabigatran、Rivaroxaban、Apixabanのそれぞれでステント植込みを受けた急性冠症候群の患者に投与された成績が公表されています。
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Rivaroxabanはどうでしょう。出血性合併症をやや増やすものの死亡率を減らし、ステント血栓症も減らしています。
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Ribaroxabanでの検討では1万例以上の大規模で検討されていますが、DabigatranやApixabanでの検討の対象は少数です。ですから、安易にNOACにもワーファリンと同様にステント血栓症を減らす効果があると結論できませんが、どうもそうした効果があるように思えます。
日本だけで24万人の方がPCIを受け、そのうちの10%はおそらく心房細動合併です。2万4千人です。3剤の抗血栓薬が処方されることで1%の方が脳出血を起こすとすれば年間に200人以上です。全世界ではその何十倍だと思います。
ステント血栓症の予防の歴史から考えて、次々と抗血栓薬を増やしてゆく考え方は間違っているような気がしてなりません。おそらくNOAC+Tienopyridineで十分な効果が出て、3剤処方よりも脳出血が減るだろうと予測します。現在の戦略で脳出血死される方を減らすためにも早急に3剤の抗血栓剤処方を改めるための研究が必要だと思えてなりません。
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