2011年9月27日火曜日

非心臓手術前のPCIの実施 実施前の揺れる心と実施後の心構え

昨日の「非心臓手術前の心臓評価」に対してFacebook上でPCIをせずに手術に回した方が安全だったのではないかと意見を頂きました。

こうした意見を頂いたり批判されたりこそがこのブログを開設した目的なのですから大歓迎です。週に2回、鹿大の先生の応援をもらってなるべくその日にPCIを集中させるようにしています。ですから完全に一人のdecision makingという訳ではありませんが、学年も異なり、暗黙の力関係もありで、私がこうすると判断すれば、その判断に対して鹿大の先生も反対意見は言いにくいだろうと思っています。あまりにも私の判断がいい加減であれば、真面目な先生なので反論せずに鹿屋ハートセンターに来なくなるだろうなと思っています。こうしたほぼ一人で判断する形で思わぬ陥穽に嵌まらないようにしなければといつも思っています。こうした構造は少人数でやっている当院のみならず大きな病院でカンファレンスを開催して議論しても、最も権力ある先生の判断を覆すことは簡単ではないので同じ陥穽に嵌まる心配がないわけではありません。しかし、ネット上の関係に上下はありませんので遠慮なく批判してもらえると思っています。これが私が独りよがりの過ちを冒さないための安全弁だと思っているのです。

ACC/AHAのガイドライン(2007)では、安定した狭心症で心機能の良い例では術前にPCIをするメリットはないとしています。昨日のケースは、無症候ですから症候的には安定しています。また、手術時の心負荷に耐えられるかの目安として4METs以上の運動負荷が可能であればリスクは低いとしています。昨日の方は日常の生活は十分に可能なので4METsは大丈夫と思われます。では、昨日のPCIは不要であったのでしょうか?

4METsが可能か否かは、心筋の酸素需要が高まった時に供給は十分に可能かという議論です。手術時の負荷は4METs程度にしかならないのでそれが可能であれば手術侵襲に耐えられるという判断です。昨日の方はIVUSカテが病変をクロスすると間もなくST上昇しましたが全く無症状でした。では、日常生活の中で症状がないのは虚血がないからなのでしょうか。虚血は起こっているけれども感知する閾値が高いだけではないのかという疑問も残ります。

一方、4METsが可能か否かという判断は酸素の需給関係で考えてのことですが、粥腫破裂のような急性の供給の破たんの場合はどうでしょうか。4METsが可能というのは急性の破たんがないことを意味しません。

手術前に大丈夫かどうかを判断するときにこの2点の評価が必要です。酸素需要の高まりに対応できるかという点と粥腫破裂は起こさないかという点です。

いつも同じ運動量で胸部症状が出現するというような典型的な安定狭心症の場合、粥腫破裂の可能性は低いので術前のPCIは不要な可能性が高いと思われます。昨日の方は、全く無症状で、貫壁性の虚血であるST上昇時にも無症状でした。これは安定を意味するのでしょうか。妙な表現ですが、無症状だからこそ不安定なのではないかとも考えたのが昨日のPCIを実施した根拠です。もちろん、不整な狭窄形態も考慮した上での判断でもあります。しかし、この判断には確かな科学的な根拠も統計的な裏付けがないことも事実です。あと一つの施行の根拠は、私が少し恐れた、こんなに不整な高度狭窄の存在を知りながらそのまま手術に回したのかと非難されることです。

一方でPCIをしたためにSATが起きたではないかと非難される恐れもないわけではありません。そのまま狭窄を残して心筋梗塞を発症すれば、狭窄を放置したからだと結果から非難されます。一方、拡張してSATを起こせば、エビデンスもないのにPCIをしたからだと結果から非難されます。こうした狭間で循環器医は悩むのです。実際、CTで冠動脈を見てからPCIを実施した昨日まで、ずっとするべきか、するべきではないのかと考えていました。

とはいえ、不整な高度狭窄を持つ無症状のケースにきっと放置は危険だろうと判断し、既にBare Metal Stentの植え込みを行ったわけです。BMS植込み後の手術のリスクを頭に入れておかなければなりません。

BMS植込み後のチクロピジン(パナルジン)投与は2週間でだけでも安全であるという論文がMayo Clinicから報告されています。

Safety and Efficacy of Ticlopidine for only 2 weeks after Successful Intracoronary stent Placement. Circulation. 1999;99: 248-253

実際、私自身もBMS時代には2週間しかパナルジンは処方していませんでした。このやり方で発生するBMSのSATはパナルジン中止前である植込み後2週間以内に集中しており、植込み後2週間経過後にはパナルジンを中止していてもSATの発生が少ないとの報告です。これはBMS植込み後早期に内皮が張るからだと説明されています。この所見を受けてACC/AHA guideline 2007でもBMS植込み後4-6週後の抗血小板剤中断下の手術は安全だと記載しています。危険なのはバルーン単独治療もしくはDES植込み後です。

どのような選択をしても100%がない中で考え尽くしての選択です。この選択に至る過程をよく患者さんやご家族や、手術をする外科医に説明しなければなりません。また、わずかな可能性として残るSATの発生時に円滑に対処できるように外科医との打ち合わせや、私のスタンバイに手を抜かないようにしなければなりません。

サイは投げてしまいました。

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