2012年6月21日木曜日

バルーンのコンプライアンスと血管のコンプライアンス

Fig.1 Balloon QCA during inflation
Fig. 2 Stent QCA during inflation
きちんと冠動脈狭窄を拡張して再狭窄率を下げるためには、適切な拡張が必要です。IVUS等で血管径を評価し、2.5㎜に拡張すべき血管であれば2.5㎜径のバルーンを選択し、2.5㎜にバルーンが拡がるようにコンプライアンス表を見て、nominal pressureで拡げます。これでも十分に拡がらない時には拡張圧を上げて拡張します。この時に誤解してしまうのは。例えば、本日のケースで12気圧で拡張したとするとコンプライアンス表で見て 2.52mmに拡げた筈なのに、実際の血管径が1.95㎜にしか拡張していない時に0.57㎜リコイルしたと思い込んでしまうことです。

F1g. 3 Compliance chart of NC Quantum apex
F1g. 4 Compliance chart of Xience V
図1では12気圧で拡張した2.5㎜バルーンをQCAの手法でサイズを評価したものです。最小バルーン径は2回目のinflationでも1.95㎜にしか拡張していません。バルーンについているコンプライアンス表は抵抗のない空気中でバルーンを拡げた時のバルーン径です。血管の中では拡張に抵抗する血管の剛性がありますから、コンプライアンス表通りに拡がる筈はありません。かつて、このようにバルーン径をQCAの手法で全てのPCIで測定したことがありますが、コンプライアンス表通りにバルーンが拡張した例を見たことがありません。常に、測定された最少バルーン径は、コンプライアンス表よりも小さいのです。血管の中では、コンプライアンス表通りにバルーンが拡張するのではなく血管のコンプライアンスに応じてバルーンが拡張するのだという理解が必要です。また、IVUSで見た拡張後の最少血管径と測定した最少バルーン径は非常によく相関します。

図2のステント拡張時も同様です。2.75mmのXience Vを12気圧で拡張しましたが、2回ともコンプライアンス表通りの2.97㎜にはバルーンは拡張しません。最少バルーン径は2回目でも2.52㎜です。

図1でも図2でもそうですが最少バルーン径以外のバルーン径は2回目の拡張時の方が少し大きくなっています。1度拡げたバルーンのコンプライアンス(圧応答性)は高くなり、同じ圧力でもより大きく拡張します。これが最近よく言われるようになった複数回の拡張の方がよりステントが拡張すると言われる所以だと理解しています。

硬くなり拡がりにくい血管を拡張するのに必要な力は、バルーン径が適切ならば、拡張圧しかないと思っています。決して広がることのない剛性の直径3.0㎜の鉄パイプの中で、3.0㎜のバルーンを20気圧で拡げても3.5㎜のバルーンで10気圧で拡げても広がらないことには違いはありません。ですから、血管を拡げない程度の拡張圧でバルーン径を上げて低圧で拡げるという戦術に私は懐疑的です。解離が発生しないように低圧の拡張で逃げてきたというようなPCIの話を、ステント以前はよく耳にしましたが、こんなやりかたでは不適切な拡張で終わるだけで再狭窄率があるいは依然狭窄率(広がっていない元々の狭窄が続いている状態)が高かったのは当然です。

この先、バルーン単独で終わるPCIが一定のシェアを取るか否かは、不明ですが、上述したようなコンプライアンスの理解なくバルーン単独のPCIが実施されれば再狭窄率は悲惨なものになると思っています。正しいバルーンコンプライアンスの理解と、知ることができない血管のコンプライアンスに打ち勝つための拡張圧の設定が重要なことは、現在のステント植込みに際しても同じことです。

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