Facebookを2011年6月頃からチョコチョコと見るようになりました。こんなことを書くと友達を失いそうですが、誰かが何かを食った、いいね!というやり取りに付き合うのにはちょっと閉口しています。でも良いこともあります。中学校の同級生と高校の同級生にfacebook上で再会したことです。高校の同級生がいいね!を押した記事は何なのだろうと眺めてみて、こんなことが私の気を引きました。
消えゆく学会です。人工知能学会の主催で2011年7月23日に東大で開催されました。開催趣旨をそのまま引用します。
学会は、近い将来、ごく一部を除いて全て消滅するのではないでしょうか.
これまで学会が担ってきた、論文を集めそれを本という形で配布するビジネスデルは崩れつつあります.さらに、専門家同士が出会う場、情報を収集する場としての学会の機能も、ソーシャルネットワークや検索エンジンの発展により、消えつつあります.
極論すれば、ウェブがあれば、学会は必要ありません.権威を維持するための組織は必要ありません.
確かに、最新の論文も雑誌として刊行される前にonline版で読むことが可能ですし、SNSで場を設ければ議論も可能です。私は2010年12月15日付の当ブログ「私がブログを始めた訳 ネット時代の医師の生き方」で学会に行けない悔しさを晴らそうと、学会に行かなくても情報は手に入るし、情報を発信することも可能だと書きました。そしてここ数日、私が投稿した記事に対して真面目で学問的なコメントを頂きました。現実にネット上で議論が可能なのです。
2011年9月29日付当ブログ「冠動脈CT検査のプロトコールを変更することにしました」で示した、私がspasmのCT像をとらえたのではないかという記事には、血栓が溶けただけだという意見も、やはりspasmでしょという意見も頂きました。これが、「CTで捉えられた冠動脈spasmの1例」という学会における症例報告であれば数分の発表と数分の討論の時間でこのように内容のあるディスカッションができたであろうかと思います。これが投稿論文であっても査読者との議論はできても著者と読者の議論はネット上のようには深まりません。また、今回変更したNTGの使用も舌下よりもスプレーの方が良いとコメントで教えて頂きました。「第2の匿名」様、感謝です。また、2011年9月26日付当ブログ「非心臓手術前の心臓評価」に対して文献を示して「MY」様からやはり手術前にはPCIをしない方が良いのではないかと意見を頂きました。示していただいた文献は下記です。
Coronary-artery revascularization before elective major vascular surgery. N Engl J Med 2004;351: 2795-804.
この文献ではmajor vascular sugeryの前にPCIをしてもしなくても術後30日以内に発生する心筋梗塞の頻度は変わらないと報告されています。PCI群(CABGも含む血行再建群)で12%、血行再建非施行群で14%で統計的な有意差はないので結論として 術前の血行再建は cannot be recommendedだとしています。この結論も5859例のmajor vascular surgeryを受けたグループから選ばれた510例での検討です。私はこの文献を読み直してみて少しほっとしています。少なくとも術前のPCIは非施行と比べて悪くないとも読めるからです。また、この差がないからrecommendできないという結論は受け入れられるのでしょうか。血管外科医に血行再建をしてもしなくても12-14%の心筋梗塞を発症するのだから放っておいていいんじゃないのとコンサルトの返事を書いて、外科医に納得してもらえるでしょうか。
このような詳しい議論は学会場で可能でしょうか。
ネット時代の医師の生き方と私は書きましたが、本当に問われているのはネット時代の学会のあり方のように思います。ネットでの議論の方が実際の学会の議論よりも有意義だと、多くの医師たちが思い始めた時に学会はどのような存在であるべきでしょうか。2011年4月23日付当ブログ「プロフェッションとして自律し、社会に貢献する医師会や学会として」の中で、学会は自然発生的に集まる論文の整理機関としてだけではなく、社会への貢献を意識すべきだと書きました。また、2010年12月23日付の当ブログ「Stent Fractureに関わる医師、学会、メーカー、厚生労働省やFDAの責任」の中では、学会が関わる分野に発生した問題については、論文が集まるのを待つのではなく学会主導で問題を解決すべきではないかと書きました。学会のあり方が旧態依然とした形態では維持できないのではないかという問題意識です。
E-mailが普及し始めた頃、メール使いは、料金も高い、かける時間も気にかけなくてはいけない従来の電話サービスをPlain Old Telephone Service、POTSと蔑んで呼びました。これを真似して付けられたのがPlain Old Balloon Angioplasty, POBAです。(E-mailは電話サービスなしにも可能ですからPOTSという名称はありだなと思いますが、Stent植込みはBalloonなしにはできない訳ですから親を蔑むようなPOBAの名称は不適切だと今でも思っています。)
ネット時代に、皆が集まって短い時間で十分に議論もできないのにまだ学会をやっているのかと言われる時代は近いかもしれません。Plain Old Medical Meeting, POMMです。こんな蔑称が付かないうちに学会は変化を求められているように思います。
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