2011年10月17日付当ブログ「石橋を叩く時間も惜しいのか」を書いたのは、ゆったりとした入院が許された昔を懐かしんでのことではありません。下記のpaperを読んだからです。
Rao SV et al.Prevalence and Outcomes of Same-Day Discharge After Elective Percutaneous Coronary Intervention Among Older Patients.JAMA. 2011;306(13):1461-1467.
低リスクの高齢者のPCIの場合、1泊2日の入院でPCIを実施しようが日帰りで実施しようが、術後2日後の時点・術後30日の時点での死亡や再入院の率に違いはないとの論文です。この論文の指摘したいポイントは日帰りでも成績は劣らないのだから1泊2日にする理由はないということです。対象患者はMedicareの患者ですから少しでも医療費を下げたいという意向が働き、1泊2日でなくても日帰りでもよいのではないかと言いたいのだと理解しています。このようなPaperがでるとMedicareの患者だけではなく民間保険会社も日帰り分しか保険を払わないということを言い出すだろうと思います。
2日後の時点での死亡または再入院の率は、日帰りで0.37%、1泊2日で0.50%です。30日後では9.63%と11.33%です。確かに差はありません。ではこの論文の言うとおり、日帰りで良いでしょと考えるのが正しいのでしょうか。Low riskの患者で30日後の死亡ないし再入院の率が9.63%-11.33%です。私がこのデータをみればどっちもダメやねと思います。医師として考えなければならないのは9.63-11.33%の死亡ないし再入院をどうやって減らすかだと思います。
2つの群間比較でどちらも大して良い成績でもないのに、わずかに成績が上回っているとエビデンスがあるなどとよく表現されます。医師が求めるべきゴールはさておき、成績の悪い中で僅かな優位を誇るなど笑止だと思っています。「目くそが鼻くそを嗤う」です。2011年6月7日付当ブログ「冠動脈疾患患者に対するOptmal Medical Therapyは本当にOptimalなのでしょうか」で示した、Courage trialの成績も5年後の心筋梗塞の発症ないし死亡は、OMT群で18.5%、PCI+OMT群で19%ですから差はありませんが、5年間で20%も悪くなる治療はどっちもどっちだなと思いますし、OMTで十分とも思いません。もっと高みを目指したいものだと思います。
医療者が目指すべき高みを議論せずに、医療費を削る下心を持った研究やエビデンスには惑わされないようにしたいものです。
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