Monday, November 7, 2011

症候の理解と薬理的な介入の上に存在するPCIを求めたい…

十分な内服でのコントロールをしないままに冠動脈造影を実施し、狭窄があればPCIという施設が存在します。胸痛を主訴に遠くから来院された患者が初診日にCTも受け、PCIも受け、翌日には退院だとテレビで誇らしげにのたまう施設があります。もちろん、過去にさかのぼって抗血小板剤は内服できない訳ですから当日だけの内服ですし、翌日以後は、遠方の自宅に帰って抗血小板剤の処方は他人任せです。CABGに替わる患者に対する福音としてのPCIという治療を確立しようと頑張っていた頃を忘れてはいけないと思う私には理解できない乱暴なやり方です。こんな病院をテレビでよい病院と言ってしまう危うさを何時か書かなければならないと思っていました。

2011年10月6日付当ブログ「Stay hungry, stay foolish」に以下のようなコメント(質問)を頂きました。

最近、近隣の病院でCAG→エルゴノビン負荷→PCIをおこなっていると言う噂を聞きました。
詳細は良くわからないのですが、毎月約50例のPCIの内6~10例ほどが施行されているとのことです。
スパスムの関与は確かにあると思うのですが、治療の対象となるようなケースがそんなに多いと思えないのですが、先生のご経験からみてどのように考えられますでしょうか?よろしくお願いします。


PCIとなる患者の中で治療を要するようなVSAの患者はこんなにも多いものなのか?という質問なのか、エルゴノビン陽性となる患者の中でPCIを要する患者の頻度はこんなにも多いのか?という質問かがよくわかりませんが、いずれにしてもCAG→エルゴノビン負荷→PCIの流れに違和感を感じての質問であることは間違いありません。

私自身はこの流れでPCIをしたことはありませんが、この流れでPCIをする医師は知ってはいます。私もこのやり方には違和感を感じます。私が何故このやり方をしないかといえば、違和感を感じるといった漠然とした理由ではなく、PCI時には内科的に整えられる最良の状態で臨むべきだと考えているからです。患者が容易にスパスムを起こすような不安定な状態でPCIを実施するのではなく、バルーンで力づくで拡張するという乱暴な治療であるPCIを実施してもなるべく冠動脈が揺るがない状態で行うべきであると信じているからです。

PCIの成績はステントもなかった創成期とは全く異なり、だれが実施してもそれなりの結果が出るようになりました。創成期の10%の失敗から9%の失敗に改善させる努力よりも、2%の失敗から1%の失敗に改善させることや更に0.5%、0.1%の失敗に改善していく現在の作業の方がより困難であろうと思っています。より緻密さが求められる時代です。10%の失敗が許された創成期とは異なり、現在では0%にはできなくてもほぼ失敗は許されない時代だと思っています。抗血小板剤の処方忘れなどはもちろん論外ですし、UAPに対しては私は頑なにconservative strategyで臨んでいます。distal protectionができる時代になっても病変の性状の改善下にPCIを実施した方がより安全と信じているからです。ですから、UAPを診れば、2剤の抗血小板剤のローディング、ヘパリン化、Ca拮抗剤を主体とする冠拡張剤の処方を必ず行っています。その上でCAGを実施し、拡張するほどでもない器質的冠狭窄であればPCIを実施せずに済むわけですから、患者にとってハッピーな展開です。また、PCIを実施した方が良い程度の器質的狭窄があった時にCa拮抗剤投与下のエルゴノビン負荷が意味を持つとは思いませんから実施する理由が見つかりません。

エルゴノビン負荷やアセチルコリン負荷によるスパスム誘発の目的は何でしょうか。スパスムを誘発し画像を患者に見せて、こんな問題を抱えているのだからと患者の内服の動機付けがより確実になるという説明には同意します。一方で、スパスムを否定することで無駄なCa拮抗剤の処方から免れるための負荷というのであれば疑問です。非内服下のスパスム誘発であっても、時間帯や患者のコンディションで誘発されたりされなかったりすることは周知です。スパスムが誘発されなくても胸痛を起こすほどの冠狭窄がなく、硝酸剤が有効であったりCa拮抗剤でコントロールがつく胸痛であれば冠攣縮性狭心症として治療すべきだと思っています。この時、内視鏡でGERD[などもチェックしておくとなお良いかと考えています。冠攣縮性狭心症の診断におけるスパスムの誘発の有無は一つの情報でしかなく、症候的に捉えて治療すべきだと考えています。複数の冠動脈に同時に誘発されるスパスムがあるにもかかわらず、内服の自己中断でも元気にしている患者もいますし、実際に突然死する患者もいます。一方で、スパスムが誘発されなかったにもかかわらず、スパスムと思われる発作を起こす方もいます。冠攣縮性狭心症は本当にVariantだと思っています。非生理的な状態で誘発されたスパスムは「診断根拠の一つ」程度の理解で臨まないといけないと思います。正しい根拠と信じきっているとVariantにやられてしまうことがあるのです。

また、スパスムが誘発されようがされなかろうがPCIが実施されるであろうdelayのある99%狭窄の患者にスパスムを誘発する意味があるでしょうか。あるいはdelayがなくても90%狭窄(なんちゃってではない本当の90%狭窄)の患者にスパスムを誘発する意味は何でしょうか。ステント植込み後の内皮障害でその後にスパスムを起こす患者もいるのですから、ステント植込み後に症候的にスパスムが疑われた時点で誘発するというのでは遅いのでしょうか。逆にスパスムが誘発された器質的狭窄が75%狭窄の場合、PCIを実施する意味はあるのでしょうか。内科的なコントロールができないことを確認した上でのPCIでは遅いのでしょうか。

拡張すべき(冠血行動態を障害する)器質的狭窄に対してPCIを実施するために冠動脈までカテーテルを入れる手技と、器質的な狭窄は軽度であるがスパスムをきちんと診断して突然死を防ぐために冠動脈をj評価するカテーテルは、見た目は似ていても目的が大きく異なるカテーテル手技だと私は理解しています。それを同時にしてしまうやり方への違和感は、質問の匿名様と同じように私の中で消えることはないと思います。

1 comment:

  1. 「9/29の第二の匿名」です。いつもブログを拝見させていただいています(笑)。心臓CT(冠動脈CTA)とVSAの位置づけは一つのテーマだと思います。冠攣縮負荷試験の結果がPCI治療の適応の判断材料にならないというのは、当たり前のような視点でもあり、先生のご意見にすごく同意します。 器質的な狭窄があるところは内皮細胞の障害があるので、スパスムが起こりやすいのは当然(出ないのはもう動脈硬化が進みまくっている)だと思います。 GERDの問題もあるのですが、私の研修医の頃担当した患者さんは早朝の心窩部違和感でCAG正常・Ach負荷試験陰性だったのですが、ベッドサイドの何気の会話で「最近健康診断してないから胃カメラ受けたい」と仰ったので、「そうですね」とカテ入院中に胃カメラしたら早期胃癌でした。 それ以来ずっと自分がカテ担当している患者さんは自分の病院でやらなくてもどこかで消化器系のスクリーニング(カメラ・透視)を外来・入院時に進めるようになりました(がん年齢にもあたるし・・)、そして今は心臓CTの時の単純CT(カルシウムスコア)は放射線科の先生にダブルチェック知ってもらうようにしています(ご想像の通り何件かは肺がんの患者さんがいました)
    当日診断できなくても、1週間以内に答えが出れば、臨床上は困らないと思っています。 また、おじゃまします

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