Monday, February 13, 2012

天皇陛下のバイパス手術に思う

カテーテル治療ができるようになる以前の狭心症の方は、重症であれば冠動脈バイパス手術を受け、軽症の方であれば内服で症状を抑えるという治療を受けておられました。1980年代の初めに日本のPCIは始まりました。私は1979年の卒業ですので、カテーテル治療のない時代も普及の十分ではない時代も循環器医として働いていました。

狭窄はあるもののその狭窄は放置したまま、薬でコントロールするわけですから、排便のいきみで胸痛が起きたり、重いものを持ち上げるだけで胸痛が起きたりしました。このため、排便前にはニトロを舌下してください、重いものは持たないでください、遠くには出かけないでください等と多くの生活の制限をお願いしました。

PCIが普及し、基本的に狭窄は解除され胸痛を自覚するのは、再狭窄か新たな狭窄が出てきた時だけですからニトロを舐めることはあっても、ニトロだけで済ませるという時代は終わりました。胸痛から解放された狭心症の患者さんの目標は元の仕事や生活に戻ることです。退院の時に「仕事を元通りしても良いですか」とよく聞かれますが、基本は「元通りの生活をするために治療を受けたのですから元通りの仕事をしないと勿体ないですよ」とお話ししています。この考え方はバイパス手術を受けられた方も同様です。心臓手術を受けるほどの病気をしたのだから、仕事を辞めてゆっくりしようという方が昔は少なからずおられましたが、こんな方は今は少数派です。

天皇陛下がバイパス手術を受けられると発表されました。バイパス手術ではなくカテーテル治療という選択はなかったのかなとも少しは思いますが、担当の先生方が最善の治療法を選択されたのだと信じています。内容を知らないものが口を挟むべきではないと思っています。

治療の目的は、バイパス手術もカテーテル治療も、元気になって元の仕事に戻ることです。ですから、天皇陛下の場合も元のお仕事に戻っていただくのが、他の患者さんと同様に自然なのですが、少しそれで良いのかとも思ってしまいます。78歳の年齢は歴代天皇の中でも第5位のご高齢です。バイパス手術後にはゆっくりとしていただきたいと、普段の患者さんに対して思う気持ちとは逆のことを考えてしまいます。皇太子殿下ももう51歳になられます。存命中の退位・譲位が想定されていない皇室典範を見るとお気の毒な気がします。退位・譲位の制度がなくなったのは、明治期だそうです。退位・譲位は明治までは珍しくない制度であったそうです。明治政府が、政府と天皇陛下が対立した時に退位という形で政府が圧迫されないように退位という制度を廃止したとWikiには記述されています。政治的にお立場が制限されているのであればなお、お気の毒に思います。

ただただ、手術の成功とその後のお健やかな生活を祈りたいと思っています。

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