Friday, August 2, 2013

診断カテで最も怖いのがスパスムの誘発試験です。

  PCIで大きな冠動脈解離や、Slow flowになって循環動態が破綻しカテの術者が肝を冷やすことは頻度は少なくても発生します。ですから常に恐れを抱いてPCIに臨みます。診断カテで肝を冷やす状況はほとんどありませんが、冠攣縮性狭心症の診断のための誘発試験では肝を冷やすことがあります。私自身の経験でも右冠動脈に誘発されたスパスムで完全房室ブロックから心停止になったり、心室細動が発生した例の経験もあります。もちろん文献上の死亡例の報告もあります。そんなことがあるものですからスパスムの誘発試験は医師が2人いる状況、当院では鹿大のK先生が来られている日になるべくおこなうようにしています。

 昨年から労作時の5分程度の胸痛の自覚があり、最近、朝の9時に30分持続する胸痛があった方です。Fig. 1のCTでは右冠動脈近位部にプラークを認めるものの高度狭窄ではありません。有意狭窄を伴わない朝の胸痛ですから冠攣縮性狭心症だろうと考えました。この段階で侵襲的な冠動脈造影で診断を確定しなくても、冠攣縮性狭心症と考えてカルシウム拮抗剤による治療を始めるという考え方もありますが、多くの場合うまくいきません。正しく診断された冠攣縮性狭心症の方に正しくカルシウム拮抗剤を処方すると症状が取れ、いくら内服を続けなさいと説明しても止めてしまう方が多いのです。このため視覚的に納得がゆく診断を確立するために冠動脈造影での誘発テストを行います。

右冠動脈のスパスムと見当をつけ右から誘発試験です。コントロール造影のFig. 2には有意狭窄を認めません。Fig. 3は当院で誘発に使っているエルゴノビンを右冠動脈に50μg投与した2分後です。#1から完全閉塞です。この時点で胸部症状はなくST上昇も認めませんでした。すぐにニトロールの冠注を行いましたがスパスムはすぐには解除されませんでした。この頃から胸痛、ST上昇です。

Fig. 4はニトロールを30ml、15㎎冠注した後です。この時点でもスパスムはタンデムに残っています。Fig. 5はニトロールを50ml、25㎎冠注した後ですがようやくスパスムが解除されています。完全閉塞になるスパスムを確認してからここまで4分30秒でした。途中、房室ブロックになりましたが2度まででした。

医師2人のカテですから、VFになったらもちろん私がDCをかけるつもりでしたし、心停止の方が嫌でしたが、ニトロを入れながらの心臓マッサージでしのげるとは思っていました。やはり2人のカテだと心に余裕が生まれます。

患者さんにはリスクをよく説明し、禁煙とともに厳密な内服を繰り返しお話ししなければなりません。
 
 しかし、このブログを書くのに造影を見直すと右冠動脈が画面の左に寄りすぎています。テーブルを下げるか、テーブルを患者さんの左方向に少し押すべきでした。こんな造影を若い頃にしたら上司から叱られたものです。今日の私は叱りませんでした。スパスムの解除にばかり気持ちが傾いていたからでしょうか、年齢を重ねて優しくなったからでしょうか、反省です。命がけで検査を受けてくれた患者さんに報いるためには、危機的な状況でも最善の造影をしなければなりません。



3 comments:

  1. 3日前 このテストを受けました。   脳が破裂するかと思いました。 心臓はヘッドホンを付け高いボリュームで聞いているような爆音で鳴りました。   死ぬかと思いました。ニトロを3倍入れたようです。    私は右手動脈、右鼠蹊部静脈で カテを受けました。    翌日退院しましたが、右胸、真ん中、右腕が 酷く痛いです。
    これは 治るのでしょうか。    我慢すれば 治まってくるのでしょうか?   何か悪いことが起きているのでしょうか・・・。    怖いです。

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  2. コメントをありがとうございました。カテ後にも痛みがあるのでしたら、実際に診察していない私に相談するのではなく是非、主治医の先生にまっすぐに相談されるのが良いと思います。相談すればちゃんと不安を解消して下さると思いますよ。

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    1. お忙しい中わざわざ ありがとうございました。   次の外来まで日があり こんな状況は普通なのだとしたら、それを知れれば我慢の範囲だから・・・と、思いました。
      相談コーナーでも無いのに 大変失礼いたしました。  ありがとうございました。

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